第3-2話 相談(2)

「にしても、よくぞまあ、こんなヘンテコな作戦ばっかり思いつくわね」

 千瀬はひなたのノートをぺらぺらとめくりながら言った。

「真面目に考えているのですが」

「ゆーて全戦全敗なんでしょ?」

「お兄ちゃんって鈍感すぎなんですよねー」

「恋愛以前にそもそも女性として見られていないんじゃない?」

「ふえ? わたしが男に見えるのですか?」

 千瀬の言ったことが理解できないのか、ひなたはきょとんと目を瞬かせた。

「むー、やっぱり納得がいきません。わたしはこんなに素敵な女だというのに、お兄ちゃんが襲ってこないなんて絶対におかしいです。……次の作戦を思いつきました。その名も『二十四時間妹の刑』を執行します。帰宅したところを捕獲して、身動きを奪ったうえで二十四時間耳元でわたしの名前を囁き続けてあげるのです」

「間違いなく嫌われるよ!」

 嗜虐心に口元を歪めるひなたを、復活した紺乃が制止する。

「えー、だってお兄ちゃんが悪いんですよー? 魅力的な妹が体を火照らせて夜這いをかけたというのに、全く手を出す気配がなかったんですからー。お兄ちゃん、ちゃんと下にモノがついているんですかねー?」

「だからさ、そもそも兄妹同士だから手を出せないんじゃないの?」

「はい? それはどういう意味ですか?」

「兄妹だから恋愛しようだなんて発想に至らないんじゃないってこと」

「え? お兄ちゃんは性欲が溜まったら妹に手を出すものじゃないんですか!?」

「んなわけないでしょ。どこのアダルトゲームの展開よ」

「そんな!? では、わたしの努力は全て無駄だったのですか!?」

 ひなたの表情が曇り、水気を失った朝顔のようにみるみると姿勢を萎ませていき、

「生きる希望を失いました」

  ついには机の上にぐでーんと倒れこんだ。全身から完全に力の抜けた完全無気力状態である。

 千瀬と紺乃は苦笑いしながら顔を見合わせた。ひなたは感情の振れ幅が大きく、この無気力状態になるのはよくあることである。数分待っていればすぐに復活するだろうと、二人が会話を再開しようとした、その時、

 ドゴゴゴーン、と。

 妙な爆発音とともにぐらりと中学校舎が揺れるのを感じ取った。

 突如起きた不審な出来事に教室が騒めき出す。

「何今の!? テロ!? ミサイル!? 核弾頭!? 私が千瀬ちゃんを守るんだよ!?」

「落ち付きなさい。三角定規では何も守れないわよ。何かが爆発したみたいね。……中庭のほうかしら?」

 三角定規を両手に構えた紺乃を冷静に制しながら、千瀬は呟いた。教室内の生徒たちが次々と廊下の方へと集っていく。二人も行列に紛れるように移動する。

 廊下に集まった野次馬達を掻き分けて、小窓から中庭のほうを眺めてみると……そこには、上半身が完全に消滅した校長の銅像が。そして、その銅像を挟むようにして二人の女性が言い争いを巻き起こしていた。

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