第2-4話 妹の夜這い(4)

「お兄ちゃんは、なんで私の裸を見てるんですかーっ!?」

「お、おま……自分で脱いだんだよな!?」

「それは理由になりません!」

「理不尽か!」

 どうやら裸で寝たいだけであって、男性に見られるのは恥ずかしいらしい。

 一方、ひなたは羞恥心で頭が一杯なのか、すでに扉に向かって一直線に駆け出していた。そのまま後ろ手にドアノブを握ったところで……ぴたりと動きを止めた。今回の目的を思い出したようだ。

「お兄ちゃん、わたしに何か言いたいことはありませんか?」

 ひなたはカーペットの上に蹲る兄の方へと向き直って尋ねた。

「ひなた、分かっただろう。今後こういった事故に繋がらないようにだな、明日からはきちんとパジャマを着て寝なさ――ぶげっ!?」

「そんなこと言うなんてひどいです」

「容赦なく腹部を蹴りつけておいて何をのたまう!?」

「よく考えてください。今の場面で『ひなた、ありがとう! お前のことが好きだ!』って抱き付いてこなかったお兄ちゃんが悪いですよね?」

「顔を蹴られて鳩尾を踏みにじられたうえに感謝までしろと!?」

「そんなこと言ちゃってー、本当は気持ちよかったんですよね?」

「何そのポジティブ解釈!? 痛いだけだからな!?」

「うそだー」

「嘘をつく必要がどこにある!?」

「……あれ? 本当なのですか?」

 ひなたは瞼をぱちくりと瞬かせた。 

「おかしいですね。聞いていた話と違います。男の人は女性に蹴り詰られると至福の表情を浮かべて絶頂するはずなのに……」

「なんだその恐ろしいデマは!? どこから仕入れた!?」

「愛を育むSM特集という雑誌です」

「エロ本の言うことを真に受けたのか!?」

「……もしかして間違ってるんですか?」

「全く違う! 蹴られたり踏まりして喜ぶのは極一部の限られた男だけだ!?」

「お兄ちゃんは?」

「普通の男性だ!」

「……………………」

「……………………」

「えいっ、えいっ!」

「痛っ!? 痛い痛いよ!?」

「……………………」

「……………………」

「お兄ちゃんのばかああああああああああああ!!!」

「ちょ、待て!? 膝は、膝はダメだ――げぶはぁっ!?」

 鋭い飛び膝蹴りが、護の胸元に突き刺さった。護は息ができずに床を転げ回る。ひなたは、はっと我に返った。やってしまったと顔を青ざめながらも、自らの招いた大惨事におろおろと所在なさげに戸惑っていたが、

「ご、ごめんなさいですうー!?」

悲鳴の交じりの謝罪を口にしながら、足早に自室へと逃げていった。

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