第2-3話 妹の夜這い(3)

「お兄ちゃんは誤解しています。大体何を根拠にわたしが天然だと主張するのですか?」

「昨日、散歩してる犬に釣られて迷子になったよな?」

「わたしは悪くありません」

「三十分も無我夢中で追いかけといてなにを!? まあ、迷子になるのはまだいいけどさ。電話でいきなり『ここはどこですか?』と尋ねてくるのはやめてくれ。俺は超能力者じゃないからどこと聞かれても分からない」

「えー、お兄ちゃんは妹の居場所もすぐに見つけられないんですかー? そんなのお兄ちゃん失格ですよ?」

「兄への期待が大きすぎる! 後、アレだ! 先週一緒にデパートに行ったとき、洋服売り場のマネキンを店員と勘違いして話しかけていたよな! しかも顔のないヤツに!」

「最近のマネキンは人間とそっくりで困りますよね」

「顔がないんだぞ!?」

「お兄ちゃん、そうやって小さな間違いを取り上げて責め立てることを『揚げ足を取る』っていうんですよ?」

「顔面がないんだぞ!?」

 ひなたはやれやれと被りを振った。 

「まあ、確かに細かいことはどうでもいい。だが、服を脱いで寝るクセだけはどうにかならないか? 風邪引くって口を酸っぱくして言ってるよな……」

「女性の嗜みです」

「どこの国の常識かな!? てか、ほんと最低限パジャマくらいは羽織って寝なさい。女の子がはしたないだろ! ていうか、お前、よく見たら……!?」

「えー、素肌と擦れて眠れないんです。むずむずしちゃうんですよねぇー。その点、全裸だと気持ちいいですし。解放感ありますし。んー、なんで分かってくれないんですかねー……って、あれ? お兄ちゃんは何で顔を背けているのですか?」

 いつの間にか、護は気まずそうにひなたから視線を逸らしていた。

 自分から目を逸らす兄を怪訝に思い、ひなたも自身の身体へと視線を向ける。今の自分は就寝前の至っていつもの姿だった。寝る前なので当然ブラをつけてもいないし、下には何も穿いていない。衣服を全て脱いだ全裸の状態に、手錠をしまっておくためのライトグリーンのパーカーを羽織っているだけだ。パーカーはジッパーを完全に外しており、前開きは全開であった。

(うーん、何も変なところはないと思うのですが……)

 強いて変なところを挙げるとするならば、手錠で両腕を後ろ手に縛られていることくらいだろうか。そのせいで体の前面が全て剥きだしで恥ずかしいかな……と、そこまで考えたところで、ひなたの思考がぴたりと停止した。自分は今裸同然の姿であり、その状態で兄の腰の上に跨っている。となれば当然、股下に横たわる兄には自らの裸体が余すことなく丸見えで――、

「きゃああああああああああ!! お兄ちゃんの変態いいいいい!?」

「へぷぅ!?」

 ひなたの蹴りが護の顎を打ち抜いた。目を逸らしていたところに不意打ちを受けた護は背中を打ち付けるようにしてベッドから転げ落ちた。

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