第4話 いろいろとやっちゃた

 ちわっす、あたいだよ。


 もうさあ、我慢っていうか欲望の抑制が効かなかったというか、とにかく、注文ボタンをクリックしちゃったんだ。


 ちくま文庫『落語百選』春夏秋冬、全四巻。


 実は、前からかなり欲しかったんだ。でも、この前、欲望のピークが来た時、あたいはスカンピンで、ポケットの中にはホコリとレキソタンしか入ってなくて……おい、誰だよ? 「お前も精神病か」って言ったやつ! 当たり前だろ。あたいはぺこりの「中の人」なんだからよう。あんまり、啖呵を切らせるなよ。痰が出るぜ。あたいだってさ、本当は穏やかに青空眺めて、そよ風に吹かれながら、午睡がしてみたい。アグネスチャンのイメージだな。例えが古すぎるって? あたいは生けるアカシックレコードなんだよ。なんでもお見通しなんだ。いけねえ、スピリチュアルな話にはあんたたち、引くよな。一応、言っとくけどあたいは刺青ものではないよ。


 話を元に戻すわよ。

 『落語百選』ってさあ、文庫なのに、一冊が千円近くするの。四冊だから約四千円。かなりの出費よね。でも欲しいの。元々は話のネタ作りのためね。落語っていろんなバリエーションがあるでしょ。ギャグ、くすぐりはもちろん、人情噺、廓噺(下ネタ)、怪談などなど。それに落語そのものが、何かの古典や俳句の本家とりみたいなものだったりして、その原本を知るのも面白そう。まさに知の追求よ。


 それに、決定的だったのはやっぱり、五代目古今亭志ん生ね。彼の無茶苦茶な人生と、なぜか落語に対してのみに真摯な態度のギャップ。それから、持ちネタが二百あったっていう話。あら、百選じゃ足りないね。

 余談だけどさ、「破天荒」って言葉の意味をあんたたち、履き違えてない? 日本人の多くが「豪放磊落」だと思っているらしいけど、本当は「前人未到のことをなすさま」が正解。誰も思いつかないようなことをやってのけるという、いい意味なんだよ。クズ男とごっちゃにしないでおくれ。


 届いたらねえ、寝しなに一話ずつゆっくり読むんだ。楽しみだなあ。


 その代わり、暮らし向きは当然、苦しくなる。夏物の服は新規購入せず。去年血塗れた半ズボンも着るよ。ただあれ、腹回りが……おっと、キャラ違いだぜ。食い物だって、減らさなきゃな。と思ったら、ここんとこ奇妙なことが起きてよう、腹の虫は絶唱、シャウトしているのに、なぜか食事をとる気がしない。いや、絶食ではないの。一日、一食か二食なんだ。箸を持てばパクパク食べるから、胃腸に問題なし。すると、メンタルだな。鬱かな? 別に鬱でもいいんだけどね。どのみち、あたいも鬱と躁が入れ替わりするやつだからさ。メンタルの上がり下がりは慣れている、というか宿痾だよ。しゃあねえ。でも、『落語百選』楽しみだし、恩田陸は面白いから、平気だな。まあ食わなきゃ痩せるからさあ、なお、いいよ。もう、ピークより三、四キロ減ってるよ。ズボンが楽に履けるかな? いや違うよ。あいつじゃあない。あくまでも、元「中の人」だから、勘違いすんなよ。


 ああ、最後に。あたい、三軒茶屋から元の場所に戻ったから。だって、設定上の無理がありすぎ。隣の松本酒店の文句も書けないし、緑区役所の人間は三軒茶屋に来るはずないもんね。全部戯作者というより偽作者ね。あいつの責任。おかげで、引っ越し侍に電話しそうになっちゃったよ。あのCM、大嫌い。

 はい、さようなら。

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