第4話 ロシア製の中古のマカロフ
「次」
教官の声を受け、セーラー服姿の佐藤
「うちの生徒はみんな腕が上手だな。梨沙、お前も海外で実弾射撃の経験があるのか?」
イヤープロテクターを外しながら教官がたずねる。
「いえ、海外に行くお金なんてとてもうちにはないし。弟が持っていたおもちゃのエアガンを借りて、近所の河川敷で空き缶目標にして射撃訓練したぐらいです。特別な練習はしていません」
それを聞いた教官は、
「中古のマカロフなんかじゃなかったら、もっと弾が集中してたと思うぞターゲットに。最後の一発だけ惜しいことしたな」
と、一人うなずきながら、再度穴だらけのターゲットに目をやる。
「ところでその中古のマカロフ、値段はいくらした?」
「警察のネットに健康保険証と学生手帳とマイナンバーカードをスキャンした画像アップロードしたら、一週間後には指定の銃砲店で購入できたんですが、そうですねえ、確か値段は4万円ちょっとしたと思います」
「4万!? 中古のマカロフで4万なんてボッタクリ価格もいいとこだ。しかし、日本社団法人けん銃協会も笑いが止まらないだろうな。アメリカから安く仕入れた拳銃に高値をつけて売りさばいて、利益は社会福祉のために使います、と言って、結局儲かるのは社団法人に天下りした役人と献金を受けとる政治家たちか。ああ、それと大きなとこ忘れてた。全米ライフル協会も大笑いだろうな」
腰に手を当ててふぅと軽くため息をつく教官。そんな彼女だがもちろん全米ライフル協会のインストラクター資格を持つ立派な会員である。
「でも愛おしいんです、この中古のマカロフ。初めて手にした夜は興奮して眠れなくて、なんどもなで回して、分解清掃まで始めちゃって。気がついたら朝方になっていました。なんだか、拳銃を持っていると、充足感というか、私のような貧乏人に社会が向けてくる悪意に一人で立ち向かえるような気がするんです」
そこまで言った梨沙は、ちょっと
「貧乏なんてするもんじゃないですね。私のように性格がネジ曲がってしまうから……」
彼女の肩までの黒髪が横顔を隠して表情は今わからなかった。
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