第3話 ダブル・タップ

 弾倉を教官から受け取った凛はしばしじっと左手の中のマガジンを眺めた。

 そして、「ん」と一言もらすと、イヤープロテクターにからまる、腰まである長くつややかな髪を整え直して、正面のターゲットに身体を向けた。胸にぶらさげた金色の十字架がはねて輝く。

 それから、ゆっりくと、どことなくけだるけな動作でH&K USPコンパクトピストルのマガジンを銃に差し込むと、グリップを両手で包み、ジェフ・クーパーの作り上げたコンバットシューティングの姿勢をとった。

 やがて、静かにトリガーを絞る。

 タン、タン、とまず二発。マンダーゲットのど真ん中、心臓の部分に二つ穴が開く。次いでまた二発。今度は標的の頭部に、こちらも同じように命中している。

 タン、タンとゆっくりとしたリズムで凛はH&K USPコンパクトピストルを撃ち続ける。ダブルタップのお手本のような見事な射撃だった。

 やがて15発全弾撃ちきると、「どうですか?」という感じに首をそらし背後の教官の姿を眺めた。

「エクセレント!」

 教官が手放しで称賛の言葉を与えた。

「射撃なれしてるな。全弾ターゲットの中心線を見事に撃ち抜いている。今までに射撃の経験は?」

と、教官はたずねた。

「うちの父親が毎年夏休みにグアムにゴルフに行くのが趣味でして。その旅行に付き添っていく私は、ゴルフよりシューティングレンジに行って拳銃を撃つ方が趣味に合ってて。でも、ファクトリーロード工場出荷品の弾を使っているレンジは少数で、もっぱら観光客向けのレンジで弱装弾を撃ちまくってました」

 そう彼女は答え、すこし恥ずかしそうに目線を落とす。ハデな見かけと違って、内面の真面目さがうかがえる、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調だった。

「弱装弾も馬鹿にしたもんじゃないぞ。ベースボールのバットの素振りみたいに、火薬の量の少ない弾丸を打つのも感覚をにぶらせないためには有益だ。まあうちは、ファクトリーロード弾をちゃんと使っているがな」

 教官がひとりうなずく。

「……私のほうがすごいのに」

 ベンチの上にひざを抱えて座って待っている本田奈央がぽつりとつぶやいた。

「私なんか、ラスベガスに行ってM2重機関銃を撃った経験だってあるのに。P90やHK416にカラシニコフの最新型だってフルオートで撃ったのに。私の方が銃の腕も経験も上なのに……。畜生、あの黒髪女嫌い……!」

 奈央の独り言はだれにも聞かれなかった。なぜなら、ベンチに座っている他のメンバーは皆イヤープロテクターをつけていたからだった。

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