第3話:4人の女神


 ――お父様、お母様いかがお過ごしでしょうか?

 

 首都で約1年、士官候補生として勉学に励み少尉となった私はとある部隊へ配属となりました。


 そこは素敵なお姉様方が所属する華やかな隊で学ぶことも多く、日々精進しております。


 より母国の為にこの身を従事できる事に感無量の極みに至る次第であります。 


 そして私は今、本国の遥か南西に広がる森林地帯、グラウヴァルトでその任に励んでおります。



◆:4人の女神



 手つかずの自然が広がる鬱蒼とした森は人間にとっての資源の宝庫であると共に竜の住処でもある。


 ここグラウヴァルトもその一つで南の大国ランデスウィンデスとの国境を引く様に大きく広がっていた。


 クレアが配属された第02バルムンク小隊の任務はこの森一帯に巣食う竜種の調査ともう一つ、ランデスウィンデスへの通信傍受を本国より言い渡されていた。


「――クレア!!」


 日の当たる開けた場所に設置された簡易拠点から叱りつける様な声が森に響く。


 額に汗を滲ませ膝をついて浅く速い呼吸をするクレアを金髪ツインテールの少女は厳しい視線で見下ろしていた。


「――情けないですわね! この程度で貧血なんて!」


「はぁはぁ……鬼すぎます……ホルマン中尉殿」


 ホルマン中尉とよばれた金髪ツインレールの少女は項垂れるクレアの前髪を掴み、鬼の形相でゆっくろと指摘する。


「お・ね・え・さ・ま! ダフィーナお姉様!! 何度言ったらわかるんですの?」


「あらあらダフィーナちゃん、クレアちゃんが本当に辛そうよ?」


 クレアとダフィーナよりも年上とみられる女性が長く美しい髪を指で掻き上げながら近づいてくる。


「シビルお姉様、クレアは根性が足りませんわ……血晶杭の生成も3本目で貧血なんですのよ!」


 ダフィーナはそのお淑やかな女性をシビルと呼び告げ口する。


 地面にはパージされた血晶杭が突き刺さっており3回目の生成とみられる杭は強度が低かったのか罅が入っている。


「でもでもダフィーナちゃん? 訓練もこの辺にしとかないとクレアちゃんが倒れちゃったら隊長きっと怒るわよ?」


「うぬぬぬぬ……クレア! 今日はこの辺にしておいてあげますわ!」


 そう言うとダフィーナは自分のテントへ戻っていく。


「クレアちゃん、随分とダフィーナちゃんに好かれてるみたいね」


「嫌われているの間違いですよねシビル大尉ぃ……シビル姉さん」


 シビルは小さく笑うと仰向けに倒れるクレアの隣に小さく座る。


「確かに、バーバラ隊長に教育係りを頼まれてちょっと張り切りすぎてるのかな?」


「――クレア! っと、シビルも一緒か」


 赤い髪に鋭い目つきで体格の良い女性がメモの様なものを持って二人を呼ぶ。


「バーバラ隊長!!」


 クレアは急いで立ち上がり敬礼をするが、立ちくらみに襲われ前に倒れる。


「おぉっと……大丈夫かクレア? ダフィーナのやつちょっと頑張りすぎだな〜」


「なんですか……この柔らかいもの……」


 クレアは地面の感触が異常に柔らかいと不思議に思いながら、更に手で感触を確かめる。


「あらあらクレアちゃん! バーバラお姉様の胸を揉みしだくなんて」


「――ヘッ?!」


 ただでさえ貧血で悪かった顔色が更に血の気を引かせ青くなる。


 あろう事かクレアは隊長の胸に顔を埋め込み両手でそれをモミモミしていたのだった。


「すみません隊長!」


 急いで離れ土下座するクレアを見て隊長は笑う。


「別に減るもんじゃないし、私は構わないよ〜」


「いいえ、構うんです! 特にこんなところをダフィーナお姉様に見られでもしたら……」


 頭を地面に打ち付けるクレアにすかさずダフィーナが叫びをあげる。


「ちょっとクレア! 私のバーバラお姉様の胸に何てことしてるんですの!!」


「何だよダフィーナ、お前も私の胸に触りたかったのか?」


 そう言ってその豊満な胸を揺らしてみせるバーバラにダフィーナは鼻血を吹き出し倒れる。


「ふ、負傷者2名ですね……隊長」


 シビルは苦笑いしながら地面に倒れる両名を指差す。


「おいお前ら、せっかく面白い知らせがあるのに!」


 バーバラは手に握る紙を見せつける。


「あら、それって隊長……もしや傍受に? 」


「そう! ランデスウィンデスのやつら、竜を生け捕りにするみたいだぜ!」


 竜を生け捕りにする、そんな事が他国に可能なのだろうかと、クレアは額に土を着けたまま顔を上げて考える。


「事の重大差を解ってないようですわねクレア! 仕方ありませんわね、私が特別に教えてあげますわよ」


 自信満々な顔で起き上がるダフィーナだが鼻の両穴からは血がまだ出ている。


「他国が竜を倒せる力を手にした可能性がある……そう言うことですのよ!!」


「今日は頭が冴えていますねダフィーナちゃん!」


「ランデスウィンデスが独自に竜の研究をしているのは常々言われていた事だが、問題はさっき傍受した通信相手がここグラウヴァルトに向かっているという事だ!」


「という事はこの森で奴らは竜を生け捕りに? というかこの森、シグルド領内ですよね」


 クレアの問いにバーバラは頷き真剣な顔になって全員を指揮する。


「これより盗み見作戦の内容を告げる!」


 バーバラ隊長の告げた作戦名はあまりにもそのままで酷かった為、シビルによりオペレーション・ハイムリヒへと変更されたのだった。


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その少女は異世界で竜を断つ コジカノヤボウ @kikuchimifune

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