第4話
その日訪問した主婦は北関東の小都市に住んでいた。小山田と相棒の窪坂は新幹線から地方鉄道に乗り換えて目的地に向かった。
「北関東ってのは殺風景だな」「うちは茨城だから似たようなもんですよ、でもこの県には海がありませんから、そこが勝ってます」「こっちだって山があるじゃねえか。スキーが出来るぜ」
とりとめのない会話をしているうちに駅に着いた。
主婦の家は駅から歩いて20分はかかる。経費節減のため、歩けるところは歩くことになっている。
目的の家についた、調べでは夫はサラリーマン、子供は二人いることになっている。家の外見はごく普通の建売っぽいありふれたものだった。
チャイムを鳴らすと50歳を超えた女性が現れた。どこからどう見ても普通の主婦だった。
昼間なので、彼女以外はいないようだった。
「遠くからご苦労さまです。占いをしたのは、東京の友人に紹介されたからです。二回ほど行きました」
「どんなことを占ってもらったんですか、もし差し支えなかったらお話ください」
「私は普通の主婦ですから、家族のこととかです。夫の仕事のこととか、子供の将来のこととか」
「占い師の人はどんな感じの人でしたか」
「優しい人だと思いました。丁寧に答えてくれましたし、威圧されるようなこともなく、感じが良かったので、その後も東京に行ったときに友人と一緒に寄ったりとかしましたけど」
「彼女について何か噂とか、そんなことを知りませんか」
「友人とも話したんですけど、殺されるなんて信じられません。とっても良い人だと思ってましたから」
主婦の話からは事件に繋がるものは存在しなかった。主婦を占い師に紹介した女性にはアリバイがあるし、主婦の線からは星の臭いは嗅げなかった。
アリバイのない主婦たちは全員星に繋がる怨恨は浮上しなかった。
「どうするんですかね、これから」窪坂はため息をついた。
「もう一度最初からやり直しだわな、全員が容疑者になる」
確かにそうだった。直当たりした主婦たちを含め全員の身辺調査を拡大してやらなければならない。過去の人間関係をくまなく調べ上げ、どこかに怨恨の臭いを感じることが出来るまで捜査の山は訪れない。
小山田たちは、まず都内の会社経営の女社長の身辺を洗うことになった。その社長の経営する会社は御徒町にある。宝石の加工をする部品を輸入販売する会社だ。社員は20人。貸しビルの3階にその会社はあった。社長にはもう話しは聞いているので、社員たちに話を聞かなければならない。まず社長の話を聞いたときいた専務の男をビルの前で待ち受けた。
待つこと三時間でその専務は出てきた。四十がらみの小太りの男だ。
「警察のものですが、ちょっとお話させてください」小山田が声をかけた。いぶかしそうなな顔をしたが、意外に素直に応じた。
話によると、彼は社長との付き合いが会社のなかでも一番古く、私生活も含めてたいていのことは知っていた。占い師のことも知っていて、社長は堅実な経営姿勢だが、やはり女性らしく、占いにも興味があり、殺された占い師だけではなく、数人の占い師にもよくみてもらうとのことだった。
会社の経営も絶好調ではないが、このご時勢でも堅実で、黒字経営でもあるとのことだった。社長の友人も不審な事故、破産、死亡など大きなアクシデントということは聞いたこともないし、家族関係でも何か問題があるということもないということだった。小山田はとりあえず、社長の友人関係を聞き、そちらにも話を聞くことになるということを伝え、出来れば社長には自分たちが会いに来たことは内密にして欲しいということを念を押した。
「星に繋がるなにかがあればいいですね」
「アイ、ホープだ」
小山田は薄笑いを浮かべて答えた。
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