第5話
占い師殺人事件は、新たな局面を迎えていた。
アリバイのない占い師の顧客からは何も情報は得られなかった。
犯人像はある程度分かっている。
占い師に恨みがあること。
実行犯は殺しのプロ、もしくはプロに近い刃物の使い方が出来ること。
確定された殺意。
強固な殺意を持って被害者宅を訪問していること。
それまでの捜査で、占いにおける何らかの恨みが犯行の背景にあること。
実行犯が客とは限らず、雇われたものか、その関係者かということである。
小山田刑事以外の捜査員から有力な情報が流れてきた。客のひとりである大学の女教授のの孫が自殺していた。
その件と占いがどう関わっているか分からない。
客の名前は訪問リストで分かっても、占いの内容まではどこにも記録がなかった。だが、今の捜査陣には糸くずのような細い糸もつかまなければならない。
自殺の経緯を調べると、それは学校でのいじめが原因であることが分かった。
「いじめのことで占い師に相談にでも行ったんですかね」
小山田の相棒窪坂が言った。
「難しいね。占いでどうにかなる問題でもないだろう」
「そうですよね」
やはりどこをどう探っても犯行の臭いは無かった。
小山田たちは毎日出口の見えない道を歩いているようだった。だが、犯人はどこかにはいる。行きづりの犯行でないのだから、糸口がないわけではない、本星の臭いさえ嗅げればあとはいもづるだ。それまでは地を這う捜査を続けなければならない。
好きな酒もおちおち飲んではいられない。飲みたいのはやまやまだが、飲んだ次の日のことを考えると体が持たなかったからだ。
「飲みてーな」
「そうですよね、自分もとことん飲んでつぶれたいです」
「まあ、このヤマが片付いたらゆっくりやろうや」
小山田は肩で息をついた。
次の日、小山田たちは多摩地区のある町にいた。建設会社の社長夫人の話をもう一度確認するためと、周辺捜査の当たりをつけるためだった。
駅から歩いてすぐのところに捜査対象の家はあった。
大きな家だった。コンクリートの打ち放しの外壁で、まるで要塞のようだった。
大きな玄関を入ると30畳以上はあるリビングルームに案内された。社長夫人は小畑侑子といった。53歳。高校時代にバスケットの選手であったためか、170センチ以上の大柄な女だった。
学歴も都内の有名私立大学を卒業してからアメリカの大学に留学するという才媛だった。夫も国立大学の建築科を卒業して設計事務所に入り、海外の建築コンペでも優勝するなどしたあと、実家の建設会社を継いでいたのだ。
社長業のかたわら、国内外の建築コンペにも参加するなどしていた。
「この前もお話したとおり、占い師さんとは親しくさせていただきました。ですが、事件のことは良く分かりません」
いつもの答えかと窪坂刑事は思った。
駅までの道、それまで口を開かなかった小山田が口を開いた。
「あの女には勘がある」
「えっ」
「明日から徹底的に調べるぞ」
窪坂は意味が分からなかったが、胸が高まるのを感じていた。
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