第2話

事件の現場の占いの部屋は、玄関を入るとすぐにあった。

リビングに繋がる廊下にドアがあり、そこには西洋占星術研究所のステッカーが張ってある。

中に入ると、ソファーと大きな机、椅子があり、壁の色が濃い茶色なので昼間なのに暗い印象だ。大きな花瓶に花が生けてあり、その花の色が鮮やかなピンクだったので、部屋の暗さとの違和感が半端なかった。


殺された占い師の女性の遺体はソファの反対側を向き、うつぶせになっていた。腰の部分から大量に出血したらしく、大きな血溜まりが出来ていた。凄惨な現場はこれまでも見てきたがやはり気分が悪かった。


遺体に手を合わせた小山田刑事は刺された箇所を覗き込んだ。立てに五センチくらいの一直製の刺し口だったが、刺してからナイフをぐりぐり動かしたらしく、傷口は大きく開いていた。


「一撃で殺したか。部屋が散らかってないから、すばやく刺したな。やはりプロの仕事かな」


「そうですね」相棒の刑事が相槌を打った。


まずは、家族に話を聞かなければならない。帰宅して母親の死体を発見した高校生の息子から聞かなければならない。そして、連絡をしてまもなく帰宅するという父親からも聞かなければならない。

その間、他の刑事たちは近所への聞き込みを開始していた。また、犯人が近所に潜んでいた場合もありうるので、地域課をフル動員してパトロールと不審者捜索、近辺の防犯カメラの収集に当たらせるように指示を出した。



署に戻ると、捜査本部が立ち上がっていた。本庁からの応援や近隣所轄からの応援も交えて初めての捜査会議が行なわれた。


「被害者は53歳。本名は長谷川美佳子。職業は占い師。犯行時刻は現在の見立てでは午後三時すぎ。殺害方法は鋭利なナイフ様のもので腰部を深く刺したことによる失血死。凶器は現場には残っておらず、近辺を現在も捜索中であります。なお、被害者の生活状況ですが、自宅を占いの店にして客を呼ぶ形式の商売を営んでいました。夫は56歳。都内の清掃会社を経営しています。犯行予想時刻には会社にいたことが確認されております。また、第一発見者の息子は都内の私立高校の2年生で、当日は部活がなく、早めに帰宅したところ母親の遺体を発見したということであります」と事件の概要が刑事課長から報告された。

捜査に当たった刑事たちからは、現状の捜査報告などが行なわれた。

被害者は、週刊誌に連載を持つ人気占い師であり、これまでにも多くの人の占いをしており、その線でも怨恨の可能性もあること、家族間、親戚間、友人間など怨恨の可能性は明日からの捜査待ち、物取りなどの流しの犯行の可能性は、現場が荒らされていないこと、刺し方が手早く鮮やかなことなどからその可能性は否定できないが、少ないのではないか。詳しい現場鑑識の結果や、解剖の結果などは明日になることなどが確認された。

小山田は、もしかすると今度の事件は長引く可能性があるのではないかと刑事の勘で感じていた。そのために、今夜の飲みは止めて大人しく帰宅して、明日からの過酷な捜査活動に備えることにした。


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