第2話 近くて遠い御朱印の境にアイスクリームがそこにある

5月2日、天気は快晴。前日の雨は嘘のように何処へやらだ。そのお陰もあり、参拝客で駐車場は満車。さすが国宝だ。車道から飛び出している列の最後尾に並ぶつもりも無い。一回りすることにした。そこでレオンが囁くのだ。

作中、レオンが囁く設定である。全く持ってノンフィクションでありフィクションでありノンフィクションなのだ。

それはさておき、レオンは言った。

「はよ、降りようよ」

早う早うと急かすレオンにちょっと待ていと呟いた。私には策略があった。皆、表から必死に入ろうとしているのだ。裏があるのだよ、裏が。国宝参拝者の専用駐車場の真向かいにある物産館的な場所がある。そこにも止めれるのだ。

そうしてラスト1台のスペースに滑り込んだ私とレオンは威風堂々と国宝へ向けて歩き出したのであった。


国宝へ入ればまず手水舎だ。柄酌で水を注ぎ、自らを浄めれば次はレオンの肉球にも水をつける。これが何時もの私たちの参拝手順だ。今の手水舎は水が自動で出て、自動で止まる。環境に配慮尽くされている。


さて拝殿の中央にやってきた。お賽銭を投げ入れてレオンと一緒に鈴緒を持てば後はガラガラと音をならした。最初の頃レオンがよくこの音にビクついていたが、今となっては慣れたものである。

祷りと感謝を捧げれば後は少し神社をぐるり廻る。それから社務所に向かうと人だかりが出来ていて。御守りを見ながら目を向けた御朱印授与所では列が出来ていた。

それならばと思い、近くのベンチに腰かけてレオンと少しの間休憩をした。そうしていれば列も人薄になるだろうと思っていた。大きな木々がさわさわと風に流されて気持ちが良い。清々しい。思っていたのだが、何と列は長い。レオンが囁く。

「ねぇ、御朱印貰わんの?アイス食べたい」

このベンチは木陰になっていて涼しいのだが、日中温度が25°を越えている。粘るよりもアイスだ。アイスの距離の方が一段と近く感じた。我々はミーハーではない。そうだ。テレビで御朱印が熱くなっていようが、我々は流れに乗らない。そういきり立って物産館へと戻ることにした。

物産館に戻ればまた此処も人でごった返しである。

レオンが好きなのはイチゴのアイスだ。イチゴとミルクが交互に巻かれるソフトクリームを1つ注文した。300円でお買い上げである。若い兄ちゃんがお待たせ致しましたとアイスを渡そうとすれば、今度はレオンが早よう渡せと吠える。それに怖じ気づいた兄ちゃんは慌てて手を引っ込める。私は短い腕を精一杯伸ばして受けとれば、レオンはキャリーリュックからニョキッと背伸びをしてくるので、アイスをゆっくり近付けてやればもう勝手に食べていると云うわけだ。私の分も残しておいてねと願うばかりだ。

さて車内は焼けるように暑い。すぐさま窓を開け、冷房も最強だ。その間左手に持っているアイスから離れないのはレオン様である。

私も負けずに反対からかぶり付けば、レオンも負けずにかぶり付く。

「ちょっと!の食べないでよね」

鼻先で頬をつつかれた。それから心行くまで食べ尽くされたアイスの残り、コーンの部分を私が美味しく頂いたわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る