第30話 アタシ⑩
卒業式が終わって、HRも終わった放課後、定番の黒板アートをしよう、ということになった。
部活に入ってた人は何人かそっちに行ったみたいだけど、残りの殆どの人は銘々勝手に黒板に落書きを重ねていく。
「あー!おい、重ねて描くなよ!消えちゃうだろ!」
「別にいーだろ、どうせ大した絵じゃないんだから」
「お前のだって似たようなもんだろ!?」
「ねね、これ上手く描けてない?」
「あ!なんだっけ、それ。ちょっと前に流行ったよね」
「ほら、これだよ。このストラップの」
「そう!それだ!懐かしー」
普段は味気ない記号や意味の分からないアルファベットを描くだけで面白くもなんともないチョークが、線を引く度、文字を形作る度、笑いを巻き起こす。しょうもないギャグでみんな大笑いして、最高にハイってやつだ。
「スー、グー!」
完全に空気に酔ったアスカが肩に手を回してくる。なんだかダル絡みしてくる酔っ払いみたい。
「スグもなんか描いた?」
「描いたよ。ほら」
絵なんか普段ほとんど描かないけど、ここでなにも描かないほどノリが悪いつもりはない。
「えー、どれどれ……これ?」
アスカはアタシの指差した先を見ると、伸ばしていた首をすっと引っ込めた。
「えっと……なに描いたの?」
「なにって、そんなの……」
……あれ、アタシ、なに描こうとしてたんだっけ。
自分自身なにを描こうとしていたのか見分けがつかない。輪郭がぐしゃぐしゃだし、特徴も掴めない。おかしいな、描いてるときはもっとちゃんと描けてると思ったんだけどな。
アスカの反応が微妙なのは、このせいか。
「……いや、なんでもない。間違えた」
「えー、消しちゃうのー?勿体ない」
「うるさい」
周りの絵を消さないように、でもなるべく早く黒板消しを動かす。と、なにか線のようなものが薄っすらと残っている。
よくその線を辿ると、字が書いてあるわけではなさそう……これ、絵?
花束のようなものが描いてある。
「なにそれー……ブーケ?」
後ろからアスカが顔を覗かせる。
「うん。これ描いたの、アスカ?」
「いや?違うよ。でもこれ結構上手いね……あ!」
しばらく悩んで、やがて閃いたようで手を叩く。
「これ、前に竹馬さんたちが書いてたやつじゃない?ほら、わたしたちが教室に遊びに来たときの」
「……あ、」
そうだ思い出した、あのときのブーケだ。
教室を見回してみても、竹馬さんはいない。たぶん、美術部に行ったんだろう。
「……………」
なんとなく、チョークで消えかかった輪郭をなぞってみる。みるみるうちに真っ白な花が出来上がっていく。
「なにしてんの?模写?」
「……んー、そんな感じ」
ブーケはすぐに完成した。さすがは美術部副部長の作品。絵心ゼロどころかマイナスなアタシがなぞってもそこそこ形になる。あとは、これになにか描き足せば……。
「……よし、出来た」
「えー、なにそれー」
二、三歩後ずさってみると、二つとも小さくてなにが描きてあるのかよく見えなかった。けど、よく見ればブーケの方はぼんやりとだけど見ることができる。
なかなか満足できる感じだ。
竹馬さんと簾内が入って、ようやくクラスとしての黒板アートになった。気がした。
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