第21話 私⑦
「見目さん」
慎が見目さんに話しかける。
昼休みの騒がしくなった教室で、その声だけは切り抜いたようにはっきりと聞こえた。
「お昼食べながらでいい?」
「別にいい」
「じゃあ、行こっか」
短いやりとりをして、二人は連れ立って教室を出て行く。前から約束してたみたいに。
いつの間に?
文化祭が終わってから、慎が誰かに話しかけることはなくなった。本生さんたちとだって、話しかけられて初めて答えるだけで、慎からグループに入っていくとこはみたことがない。
なのに、今日は慎から話しかけるなんて。
「友ちゃーん。お昼にしよー」
「あ……ごめん、私ちょっと用があって……」
「えー?そうなのー?」
「うん、だからごめん」
お弁当を持って食堂に向かう。
普段使わない食堂は思ったより人が多くて、慎と見目さんを探すのが大変だった。けど、この人混みのおかげで向こうからは私は見えないだろう。勝手についてきた私からしたらちょうどいい。
割と出入り口に近い所に向かい合って座っていた二人から見えにくいような位置に座る。
「それ、全部自分で作ってるの?」
「え?……ああ、うん、まあ」
二人はお弁当を覗き込んでいる。慎が毎朝自分で作ってるお弁当の話をしてるんだろう。私も慎とお昼を食べたときはいつも凄いなと思って見ていた。慎は、確実に私より女子力が高い。
でも、わざわざ打ち合わせて食堂にきてする話が慎のお弁当の話じゃないはず。騒がしくて聞き取りにくいけど、耳を澄まして、
「あ!竹馬先輩!」
「え?」
一際大きな声で私を呼ぶ声がする。私が声の主を見つけるよりも早く、二人組が私の右隣りに座る。
「え……あ、竹視(たけみ)さん?それに梅松(うめまつ)さんも」
誰かと思えば、美術部の一年下の人たちだ。この二人はずっと仲良しで、竹視さんが私によく話しかけてくれたからか梅松さんともよく話した。
でも、まさかこの二人にここで会うなんて。
「せんぱーい、なんで打ち上げ来てくれなかったんですかー?」
私の首に腕を絡めて、抱きつくような距離まで迫った竹視さんが口を尖らせる。親戚の集まりで悪酔いしたおじさんみたいだけど、この人はいつもこれくらい距離の取り方が近い。
「ああー……うん、ごめんね。ちょっと体調悪くて……」
「でも文化祭の時は元気そうじゃなかったですか」
「うっ……」
三年生の私たちは文化祭で実質的に引退することになる。だから文化祭後の打ち上げはお別れ会みたいなものでもあったんだけど、私はそれも休んでしまった。竹視さんが不満に思うだろうとは予想してたけど、まさかここまでとは思わなかった……。
「ごめん。本当にごめんね」
「……代わりに、今日のお昼は付き合って下さいよ」
手を合わせて平謝りに謝ると、竹視さんはしぶしぶといったふうに腕を離してくれた。
「……小百合、竹馬先輩が来なくてホントに落ち込んでたんですよ。さっき先輩を見つけたときなんて、すっごいキラキラした目で走ってったくらい」
鼻歌混じりにお弁当を開ける竹視さんを横目に見ながら、梅松さんがコソッと教えてくれる。
「ちょ、それ言わなくていいやつじゃんっ!」
それに気づいた竹視さんが梅松さんに噛み付いて、私の周りが途端に騒がしくなる。これじゃ後ろの声は聞き取れそうにない。
私が竹視さんたちから解放されて席を立った頃には、二人ともいなくなってしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます