第5話 ウチ②

 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダダンッ、ダダンッ、ダダンッ、ダダンッ!

 聞きなれたボールの音が重なり合って、体育館全体を揺らす。

 今日は体育の二クラス合同授業。下のコートでは、A組の男子とB組の男子がボールを奪い合っている。その中でも A組チームを引っ張る水城くんは、一際輝いていた。

 パスを貰って、立ち塞がるディフェンスを二人抜いてゴールに迫る。そのままシュートしようとして……ゴール前で阻まれた。

「ああー!」

「惜しいっ。頑張ってー、水城くーん!」

シュートが外れた途端、両隣と向かい側の二階席から声援が飛ぶ。水城くんはそれには答えず素早く守備に移る。

「ほらほら、あれが水城くんだよ。カッコよくない?」

周りを取り囲んだバスケ部のみんなが期待した目で振り返る。

「うん、そうだね」

そんな目で見られては、ウチもそう答えるしかない。おかげで棒読みな返事になったけど、みんなは水城くんを追うのに必死で追及はされなかった。

 でも、やっぱりウチは素直にカッコいいとははしゃげない。

 さっきのだって、ゴールサイドにいた人にパスを出せば点を入れられた。それは水城くんにも分かってたはずなのに、彼はそうしなかった。

 ……分かってる。これは体育の授業で、大会じゃないんだから、そんな風に考える必要はないってことは。けど、彼のプレーを見るたびにそう思ってしまうウチがいる。

 はぁ……。嫌になる。

 と、水城くんが相手のドリブルをカットして攻勢に転じた。

「水城くん!頑張ってー!」

「上がって上がって!」

彼がボールを持った瞬間、二階席全体がざわめき立つ。ウチの周りの女子たちにいたっては立ち上がっていた。大会のときよりも大きんじゃないのってくらいの声量で声援を送る。

 前の席の子が立ったせいで、座っているウチからはコートが見えなくなってしまう。けど立ち上がってまで見る気にもなれなくて、隙間から見える隣のコートを見ることにした。そっちでも A組とB組の試合が行われているはずだ。

 こっちはこっちで、両チーム拮抗していて面白いことになっていた。水城くんみたいな花形がいないせいで注目されてないけど、何人かウチみたいに観てる人がいる。

 こちらでも、 A組の人がボールを持っていた。ドリブルで相手ゴールに迫る。けどゴール下はごった返していて、とてもドリブルでは抜けない。ボールの持ち主もそう判断したのか、足を止めてボールを手放した。ボールはコートと並行に鋭く飛んで、マークされていなかった味方の手に。突然のパスにもたつきながらも放ったシュートは、覚束ない軌道でゴールを潜った。

 二階席から微かに歓声が上がる。パスを出した彼は、シュートを決めた人とハイタッチして、またコートに戻っていった。

 彼は……簾内くんだ。クラスの学級委員だってことくらいは知ってたけど、運動もできるとは。

 今のは、ウチ的にはいいプレーだった。一気にボールを運べる突破力と、状況を冷静に判断できる分析力。ああいう人がチームにいるだけで、どれだけやりやすいだろう……なんて、だからバスケ部で考えても仕方ないって。

 首を振って水城くんたちに目を戻す。依然ボールの激しい取り合いが続いているらしく、歓声はやむ気配がない。

 結局みんなずっと立ち上がっていて、仕方ないからウチは隣のコートで動き回る簾内くんを見ていた。

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