第4話 私②
この高校の文化祭は十月上旬に開かれる。早いクラスは夏休みの間から文化祭の準備をしていたけど、私のクラスは二学期が始まって一週間が経とうとしている今日に出し物を決めていた。
「文化祭の出し物、なにかいいアイデアありますかー?」
教壇に立った学級委員の
最終的に、黒板には七つの案が並んだ。それを見比べて相方さんは考え込む。
「うーん、結構でたねー……。じゃあ、取り敢えず多数決で絞ろっか。みんな好きなのに一つ手を挙げてね。一つ目がいい人ー」
何人かの手が上がる。慎が集計して、黒板に書いた。六票。
「二つ目ー」
九票。
「三つ目ー」
七票。
結局、どの案も得票数には大きな差がつかなかった。これだと多数決でも決めにくい。相方さんは更に渋い顔になる。
「うーん……」
「じゃあさ、その案を纏めるっていうのは?」
と、どこからかそんな声が聞こえた。それを聞いた相方さんは前のめりになって目を輝かせる。
「いいねそれ!そうしよう!」
話はその方向で纏まって、出た七つの案のうち合わせられそうな五つを合わせて、それを文化祭の出し物としてやることになった。
準備が始まるのは明日から、ということになって、今日のHRは解散した。
みんなが部活や帰宅で教室を出て行ってしまうと、一気に教室が静かになる。でもいつも通りの席に慎は残って、いつもより沢山の紙を広げていた。
いつもみたいに前の人の椅子を借りて座る。
「学級日誌?」
「そう」
「ふうん。……じゃあ、これは?」
学級日誌の横に、見たことのないノートが置いてある。めくると、まだ最初の方しか埋まっていない。
「それは文化祭のやつ。今日出た案とか書くんだよ」
慎の言う通り、最初のページは今日の黒板をまるっと写したように埋まっていた。それだけじゃなくて、出し物をやる上で必要な物、作業が大まかに書いてあった。ただの議事録じゃない。
「これ、結構大変だよね。五つも纏めるなんて……あと一ヶ月くらいしかないよ」
「そうかもね。急いでやらないと」
「止めればよかったのに。こんなの、慎だって大変じゃん。こういう細かいことは相方さんやらないでしょ?」
普段から学級委員としての裏方仕事、事務作業は全部慎に任せっきりな相方さんのことだから、この文化祭だってクラスの指示出しとかはしても、ここに書いてあるような書類提出だとか会計はやらないに違いない。それで、慎が全部やらなくちゃいけなくなる。
「でも、みんなにとって最後の文化祭だから、出来るだけ大きくしたいってのも分かるし、それに、」
慎は消されずに残った黒板の字を見て微笑むと、私を見た。
「それに、これが僕の仕事だしさ」
邪気のない笑顔。昔から慎はなにか引き受ける度にこんな風に笑っていた。私が慎を思い浮かべるとき、真っ先に出てくる笑顔。
「……慎らしいね。でも、無理はしないでよ」
「大丈夫だよ」
慎がそう頷いたのを見て席を立つ。美術部も、文化祭に向けての作品制作が始まっていた。私も自分の作品を完成させないといけない。
それにまあ、慎が大丈夫って言ってるなら、大丈夫なんだろう。今までだって、慎はそつなくこなしてきた。この文化祭だって、なんとかしてしまうに違いないんだから。
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