第29話 9月28日

いよいよ翌日、香港へ出発ということで、自宅の荷物を整理したすずさんが、いつものように遊びに来ていた。


荷物の整理といっても、そのまま親戚に住んでいたところを貸すことになっていたため、身の回りの荷物を貸し倉庫に預けたり、僕のアパートに送り付けられたりしていた。


明日、朝が早いということで、簡単に晩御飯を済ませ、僕の狭いシングルベッドに二人並んで寝ころんでいた。


「さすがにばたばたしてたんじゃないの?」

僕は、少し疲れ気味のように見えるすずさんに聞いてみた。


「ちょっと送別会が多くてね。もてる女の子は大変よね」

「あまり無理しない方が良いんじゃないの?」

「ん?妬いてるの?」

「いや、そういうわけでは決してないけど」

「決しては余計よ。でも少し疲れやすくなっているのかな」

「体調悪くなっているの?」

「そういうわけでもないんだけどね。まだしゅんちゃんよりも体力あると思うよ」

「それは間違いないだろうね」

「何だか嫌な言い方ね。しばらく会えなくなるのに、相変わらず憎まれ口叩いていると、そのままどっか行っちゃうわよ」

「はい、はい」

「まだ、はいを2回言うか」


いつもと変わらない会話で、寂しさが和らぐ気がした。


「そういえば、骨髄バンクのドナー登録ってできるようだけど、痛かったりして結構大変みたいだね。最初からすずさんのものに合致するかわかればいいのにね」


「そんな、都合のいいことあるわけないじゃない。でも調べてくれてありがとね」

すずさんはいつの間にか涙声になっている。


「ごめんね。病気になっちゃって」


この風景は以前一緒に見た映画と似ていた。

そして僕はといえば、自然と零れ落ちた涙をすずさんに気付かれないように横を向いていた。


「しゅんちゃんがいて本当に良かったわ」

隣から小さな声でつぶやくすずさんの声が聞こえ、

顔を横に向けたまま僕も答えた。


「僕もすずさんがいて良かったよ」

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