第11話 7月26日

海外帰りということで、佐々木さんが気を利かせて純和風の居酒屋で飲むことになった。


「メコン川を眺めて何やってたの?」


ひとしきりの体験談を話した後、佐々木さんがビールジョッキを片手に尋ねてきた。

「何かしないといけないという貧乏根性はいかにも日本人って感じでダメですよ。旅行に行ったときくらいはのんびりしないとね」


「で、何してたのよ?」

もうほとんど付き合い程度に佐々木さんが尋ねてくる。


「メコン川ではゆっくり川を眺めていただけで、頭の中でThe ClashのStay Freeが流れていましたよ。人生軽やかに生きていきたいですよね」


「何のこっちゃ」

佐々木さんは完全に興味なさそうにビールを飲み干した。


「やっぱり海外っていいよね。私も香港に帰ろうかな」

すずさんも僕の話には興味なさそうに焼き魚を箸でつついていた。

「あてがあるの?」

「まあその気になれば昔世話になった人が、また現地の旅行会社とか紹介してくれるかもしれないけど」

「あー、この前会ってた人ね」

「うん」

「しゅんちゃん、ちゃんとしないとすずはどっかいっちゃうよ」


「何のこっちゃ」

僕はすずさんが睨んでいる横顔から目を離しながらとりあえずそう答えた。

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