第4話 6月21日

ガシャガシャガシャ……

プリンターからこの世の終わりのような音がし、僕はかけつける。

そして、これまたこの世のものとは思えないほどの紙詰まりをおこしているプリンターを恨めしそうに見ていると、


「なにやってるの?そろそろ出発するよ」

すっかり帰宅準備を整えた佐々木さんが声をかけてきた。


「見りゃわかるじゃないですか。プリンターがご機嫌斜めなんですよね。行かないでって泣きついているんですかね」


「もてる男はつらいね~。つまらないこと言ってないでさっさと行くよ。ほら、すずも待ってるよ」


振り返るとすずとよばれた人が佐々木さんの傍でこちらを睨んでいた。


「すず、何睨んでいるのよ。意外と人見知りなんだよね~。ほら、清村さんはほっといて先行くよ。他の人はもう出発してしまったようだしね。じゃ、清村さん待ってるね~。」


「はい、はい」


僕はそう答えながら、先週声をかけてきた女の人がすずという名前であることを初めて知り、居酒屋でない場所では意志の強そうな目が目立ち、愛くるしいというよりもすっとしているんだな~と、これでもかというほどのたくさん紙が詰まっているプリンターから目を背けるようにぼんやりと考えていた。


僕はその後1時間ほどプリンターと格闘し、残務処理と併せて正味2時間遅れで指定されたお店に到着した。

お店に入ると奥の方の6人掛けのテーブルに佐々木さんをはじめ5人が楽しそうに話している様子が見えた


「こっち、こっち」と佐々木さんが呼ぶ声を頼りに近づいていくと、取り分けられたサラダと唐揚の詰まった皿が置かれている席が目に入った。


「遅かったわね、とりあえず生で良いよね?」

僕がうなづくよりも早く、生ビールが追加分も併せて人数分注文されていた。


「あれ、すず、清村さんとは初めてだっけ?」

「うーん、そうかも、よろしくね~」

「こちらこそ」


アルコールが入りテンションの上がっているすずさんの様子を見ると、今日の会話も明日には忘れてしまうのではないかと思いつつ、まずは乾いた喉にビールを注ぎ込んだ。


僕が着いた時は一通り皆が話したいことを話してしまったようで、佐々木さんは会話のネタにすべく、僕に話しかけてきた。

「そういや、清村さんって彼女いるの?」

「どうしたんですか?そんな話面白くないでしょ」

「面白いか面白くないかは私たちが決めることなの。で、どうなの?」

「ちょうど先々週別れたところですよ」

「へー、何で何で」

「男女の出会いと別れに理由はいらないんですよ」

「いや、普通に理由はいると思うけど」

「結局のところ、人生いろいろなんですよ」

「全然わからない。ま、これ以上話が広がりそうにもないし、この辺にしといてあげるわ。何はともあれがんばれよ」

と、佐々木さんの全く心のこもっていない励ましを無視していたところ、

「そう、そう、頑張るんだじょ」

面白がって相槌を打つ、すずさんに苦笑し、冷めて硬くなった唐揚げをつまんでみた。


一通り配給されていたつまみを食べ終わるころには、生ビールのおかわりがこれでもかという感じで注文され、いわゆる縁もたけなわの状況になっていた。


「で、何で別れたの?浮気?」

「急に昔の話に戻るんですね」

「昔と言ってもほんの1時間前の話じゃない」

アルコールがそうさせるのか佐々木さんの声は一段と大きくなっていた。

「大人の事情ですよ、大人にはいろいろあるんですよ」

「私の方が大人だし!で理由は?」


5歳年上の佐々木さんがむしろ大人げなく勝ち誇って理由を聞いてくることがおかしく、またアルコールも入っているので仕方なしに答えてみた。

「遠距離恋愛が長く続いていたんで、まあ何となくうまくいかなくなったんですかね」

「ふーん」


しつこく聞いたわりには興味がなさそうな返事に苦笑いしていると、

「じゃ、すず、いっちゃいなよ。皆で飲めるし」

「何言っているのよ、佐々木さん。しかも何で付き合ったらみんなで飲みにいかないといけないのよ」とこれまたテンションの高いすずさんがジョッキを片手に適当に答えていた。

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