けものフレンズ True Explorer ~小話集~

フタキバ

ロバ、インパラ、一時

 コポコポと薬缶の中で温まった水、お湯が音を立てる。不思議な雰囲気の物知りなフレンズ、イエイヌちゃんが教えてくれた紅茶がこんなにフレンズの皆に人気になるとは、教わった時の私達は考えてなかった。思い出すと、お茶を淹れながらイエイヌちゃんはよく外を気にしてたっけ……こうならないように気にしてたのねー。こんな状態になったら旅を続けるどころじゃなかったもん。というか、こうなるんだったらもう何日か居て貰ってるとこだよ。


「ロバ―、次のお茶、用意出来た?」

「ちょっと待ってよ、薬缶二つ使ってるけど追い付かないってば!」


 インパラに手伝って貰ってるけど、カフェの中に集まったフレンズの皆に紅茶を出すのが追い付かない。いやまぁ皆ゆっくり待つって言ってくれてるから焦る必要は無いんだけど、それでも頭数が多い。四匹で座れる席が四つある中と、同じ数の席がある外。そこが埋まるだけフレンズの皆が集まるなんて聞いてないよ! いや、美味しい飲み物作れるようになったんだ! って宣伝したのは私だけど!

 それがあっと言う間に近くで暮らしてる皆に知れ渡ってこの惨事。イエイヌちゃんが私達だけに教えた理由をもう少し考えておけば良かった……。

 皆知らない良い匂い……イエイヌちゃんは香りって言ってたっけ。それがお気に入りになっちゃってもう大変。とりあえず何杯も飲む物じゃないって言って一匹一杯までにしてもらってるけど、朝からだからもうクタクタだよぉ……私も紅茶飲みたい。

 とりあえず待ってた皆に紅茶を出し終わって、落ち着けるようになったのは太陽が真上に来る頃だった。まぁ、いっぱいお茶を淹れたお陰で、ティーバッグ毎に違う香りの紅茶が淹れられるって事には気付いたんだけど。

 とりあえず、取っておいた私の一番のお気に入り……イエイヌちゃんが最初に淹れてくれたティーバッグの紅茶を淹れてる。他の紅茶のティーバッグは、全滅。ラッキービーストが足してくれるのを待つしかないかなぁ。


「お疲れ様。いやー、大変な事になったね」

「大変なんてもんじゃないって……通りでなんかイエイヌちゃんがこっそりしてるなーと思ったよ」

「本当に頭の良い子だったよね。こうなる事が分かってたから、私達に特別に教えてくれたんだろうね」


 本当に、そこまで教えてくれてれば……なんて、私の事だから教えて貰っても多分他のフレンズの皆にも飲んで貰ってただろうし、今更か。とりあえず今は私とインパラの分を淹れちゃわないとね。

 うーん、やっぱり初めて嗅いだ紅茶の香りがこれだからかな。これが一番良い香りな気がする。インパラも一番気に入ってるみたいだしね。


「はい、お待たせ」

「ありがと。あ、ジャパリまん持ってきておいたよ」

「ありがとー。お腹空いたわー」


 席の方へ行って、座る。ずっと立って紅茶淹れてたから疲れたわ本当に。まだ何匹かフレンズの皆は居るけど、もう私も休んでいいでしょ。


「ジャパリまんも美味しいけど、紅茶に合わせるならイエイヌちゃんのサンドイッチが欲しくなるねぇ」

「あれねー……一度作ろうとはしたけど、上手くいかなかったしなー」

「やっぱりあのアムールトラに頼んでた食べ易い大きさに切るのが大事なんだろうね。ロバのサンドイッチ、爆発してたし」

「あれでもすっごい頑張ったんだぞー? まぁ、爆発してたけど」


 爆発してたって言うのは、食パンって言うのから挟む物が飛び出してたって事だよ……。薄く切るのも大事なんだろうな、あれ。どうにか切る方法無いかなーと思ったけど、見つけたのはイエイヌちゃんから危ないから触らないようにって言われたピカピカする切れ味の良さそうなのだけだし。あれ、多分上手く使えば熱くするのみたいな美味しい物作る奴なんだろうなー。指切ってから怖くて触れないけど。

 とりあえずジャパリまんを齧りながら紅茶を一口。これだけでもいつものジャパリまんだけ食べるのよりは数段美味しく感じるんだし、贅沢は言わない方がいいか。


「そう言えばさ、イエイヌちゃんジャパリまん見ながら面白い話してたよね」

「そうそう、ジャパリまんって色で味が違うって話だっけ。気にした事無かったけど、思い出すと確かに違ったかも」


 って話をしながらお互いのジャパリまんを見る。丁度違う色を持ってる……。当然、比べてみようかってなるよね。

 私が食べてたのは黄色いので、インパラのは黒いの。それぞれ食べてみると、確かに味が違ってた。気にしてみないと分かんないもんだねー。


「うん、私黄色い方が好きかも」

「あ、じゃあ交換する? 私黒いののちょっと苦い感じ好きー」


 この味もなんて言うか、イエイヌちゃんなら知ってたのかな? 聞いとけば良かったかなー。いや、そこまでイエイヌちゃんに聞いたら大変だったかな。イエイヌちゃんが。

 お互いのジャパリまんを交換して、また一息。基本的に一個食べたら満足しちゃうし、美味しいから味まで気にした事無かったもんな。こういうの考えるようになったのもイエイヌちゃんと知り合ったからだね。


「……考えるってさ」

「うん?」

「いやね、イエイヌちゃんを見てたらさ、考えるって凄い事なんだなーと思って。そりゃあ私達も今まで何も考えずに過ごしてた訳じゃないけど、あんなに色々考えて調べたり使ったりってしなかったでしょ? せいぜいこれ楽しーとかこれ危ないーとかだけだし」

「あー、そうかも。この紅茶淹れるのだってビックリする事だらけだったもん。それでもこれだけ覚えれたんだから凄いでしょ」

「いやまぁそれは置いといて」

「ちょっ」

「やっぱりそう考えると、イエイヌちゃんって不思議なフレンズだったんだよね。なんと言うか、頭の使い方が違うって言うのかな? フレンズ離れしてたというか。知恵比べしたら絶対勝てなかったろうなー」


 それは間違いないだろうねー。よく知恵比べでやる、物を高く積む―とかやっても絶対勝てなかったろうなー。寧ろ知恵比べでそれを提案したらそれに驚かれる気がする。

 って、知恵比べから力比べの事を思い出したのかインパラが机に倒れてる。あれは勝負を挑んだ相手が悪かっただけだって何度言っても思い出してはこうなってるんだよねー。


「はぁーぁ……」

「またインパラは……あれはあのアムールトラがおかしかったんだって。チーターに勝ったフレンズなんて聞いた事無いし」

「でもあれ、勝てそうじゃない?」

「……と、とにかく! あんなフレンズそうそう居ないだろうし、イエイヌちゃんも言ってたでしょ? インパラ速かったって」

「うん、あれは普通に嬉しかった。あとイエイヌちゃんの抱き心地が凄かった。ふわっふわだった」

「え、何それ」

「……ふわっふわだった!」


 いやもう聞いたから。インパラ予想以上にイエイヌちゃんの事気に入ってたんだねー、私はイエイヌちゃんの事撫でたりしなかったからなー。うわ、インパラの目がキラキラしてる。そんなに気に入ったんだ……。

 そう言えば、シャワーの事もフレンズの皆に教えたら大人気なんだよね。特に水が好きなフレンズがシャワーを浴びて活き活きしてたりする。いつでも水浴び出来るからあれは本当に便利だよね。


「……私も、旅してみよっかなー」

「え、どしたの急に?」

「んや、アムールトラは旅して強くなったーって言ってたし、旅すればここみたいに便利だったり楽しいところ他にも見つけられるかなーと思って」


 そう言えば、インパラって元々はそうげんチホーに居たのがこっちに遊びに来て、私と知り合ってこっちで暮らすようになったんだっけ。言ってみれば、そうげんチホーから旅してきたって事なんだよね。だから旅に出るなら止めたりは出来ないんだろうけど……。


「……冗談だよ。ここはここで楽しいし、今はもっと楽しくなったしね」

「そ、そう?」

「そ・れ・に、私が旅に出るーって言ったら露骨に寂しそうにしてくれる友達も居るしね」

「べ、別に私は寂しそうになんてしてないし!?」

「あれー? 私は別にロバの事だって言ってないけどー?」


 ぬ、ぐ、インパラにからかわれるとは、不覚。ちょっと顔が熱いのは紅茶飲んで誤魔化そう。


「あ、イエイヌちゃんで思い出した。あの時さ、イエイヌちゃんが助けたフレンズって結局なんだったんだろ?」

「あーシロウサギだって言ってた子? 気付いたら居なくなってたっけ。すっごく怖がってたから逃げて行っちゃったんでしょ?」

「あの後さ、居たヤブノウサギに聞いたらそんなウサギのフレンズがこの辺りに暮らしてた事は無い筈って言われたんだよね。で、白いウサギのフレンズならユキウサギなら知ってるって言われたんだけど」

「ユキウサギって、もっと寒いところが好きなフレンズでしょ? たまにヤブノウサギに会いにおんだんチホーまで来てるみたいだけど」

「うん、暮らしてる訳じゃないんだよ。しかも見て知ってるけど、シロウサギとユキウサギじゃ見た目違ったし」


 あー、確かに。なんかシロウサギは頭は白かったけど青くてヒラヒラした毛皮だったっけ。もーやだーおうち帰りたいーお餅突きたいーとか言って泣いてたから結構はっきり覚えてるんだよね。


「あの子、結局なんだったんだろ?」

「さぁ……セルリアンに襲われてたから、フレンズだったのは確かじゃない?」

「なの、かなぁ? なんか微妙に違った気もするけど」


 ……思い出してみると、なんかあのセルリアンも襲っていいのか躊躇ってたような……? じゃなきゃ普通は叫び声もあげられずにバクーで終わりだし、それくらい出来て当たり前な大きさだったしなぁ。あの三匹が戦ってる時も、あの伸びる口の速さから考えて、叫んでから何もされてないのに、今なら違和感があるかも。まぁ、どっちももう居ないんだから確かめようも無いんだけどさ。

 疑問は残るけど、あまり考えても分からないしね。もしまた会えたら聞いてみようかって事で終わった。シロウサギ、か。お餅突きたい……まさかね。

 ふぅ、お話してたらなんだか眠くなってきたなぁ。あったかいし、お腹も程よく満たされたし。ちょっとお昼寝でもしようか。


「ん? ロバ、なんか眠そうだね。疲れた?」

「そうかも。ちょっとお昼寝させてもらうわ」

「私もそうしようかな。起きたら鍛えたいし」

「アムールトラに勝つ為に?」

「もっちろん!」


 頑張るねー……私なら無理ってなるけどなー。まぁ、頑張ろうとしてるのを止めさせるつもりは無いけどさ。

 なら少し横になって休もうかな。座ったまま休んでもいいかなーと思ったけど、変に疲れそうだし。


「それじゃ、ちょっとお休みー」

「うん、お休みロバ。私も寝よっと」


 起きたら頑張るインパラの為にまたお茶、用意しようかな。あ、でももうティーバッグが無いんだっけ……イエイヌちゃんから教えてもらったジュースで代用しよっかな。

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