エレベーターの中で
私は伊藤桜。
年齢:26歳
好きなもの:ドラマ、動物、本
嫌いなもの:満員電車
性格:感情に素直、親切、少し抜けている、1つのことに全力を注ぐ
職業:OL
私は会社の飲み会が終わり家に帰宅中~。
右手にバッグ、左手にコンビニ袋~。
そしてほろ酔いのせいで陽気に歌う鼻歌~。
「今日の飲み会は楽しかったなぁ~。田中部長は相変わらず可愛くて癒されたし。吉田課長とは席離れてたし。あの人嫌いじゃないんだけど、怖いから苦手なんだよなぁ。でも、佐藤先輩が途中で帰っちゃったのは残念。まだ話ししてなかったのにぃぃぃ。でもかっこいい先輩見れたら満足満足」
そんなことをひとりで言いながら歩いているとマンションに着いた。
私を待っていたエレベーター君に乗り23と閉じるボタンをポチッ、ポチッ!
ゆっくり閉まっていくドアの隙間から宅配便のお兄さんが見えたから開くボタンをポチ。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
爽やかにお礼を言われて気分が悪くなるわけない。
この時間に宅配便か。そう言えば昨日ぐらいからお隣に新しい人が引っ越してきたんだよな。
どんな人だろう。この人みたいに優しい人がいいな。もしくは麗しのお姉さん!
なーんて、いい人そうなら誰でもいいや。怖い人じゃなければ誰でも。
あっ、そういえば佐藤先輩も引っ越しして荷ほどきがあるから先に帰るって言ってたっけ...。
はっ!もしかして!お隣に引っ越してきたのって!まさか!佐藤先輩!
佐藤先輩と隣同士。一緒に出社して一緒に帰宅。はぁ~どうしよぉ~。
やばいやばい。横もいる人が急に両手で顔を挟んで首振りだしたら完全に変人だよ。もしくは変な酔っ払い。気づかれる前に止めよ。
それにこんなドラマみたいな展開あるわけないない。
エレベーターもそろそろ着きそう。
「どうぞ」
「すみません。ありがとうございます」
私は宅配のお兄さんのためにボタンを押して最後に出た。
廊下を歩きながらまた鼻歌を歌いだす。
部屋の近くまで来るとさっきのお兄さんが荷物を渡していた。私のお隣さんに。
もちろん興味のあった私はお隣さんを見たくてもう少し出てこないかななんて考える。
一応自然に挨拶するように話しかけるという選択肢も頭に浮かんでいた。
今なら少しの酔いに任せて実行できるかもれない。
でもその必要はなく、荷物を渡したお兄さんにお礼を言いながら会釈をした時に顔が見えた。
頭の中の言葉を思わず私は声に出してしまう。
「佐藤先輩?」
その声にお隣さんも顔覗かせた。
「あれっ?桜ちゃん?」
「もしかして引っ越してきたのって?」
失礼にも指を差してしまう。
「もしかして桜ちゃんの家って?」
私につられたのか真似をしたのか佐藤先輩も指を差す。
「はい。ここです」
「そうなんだ。良かった隣が桜ちゃんで」
「私も引っ越してきたのが怖い人とかじゃなくて良かったです」
「お互い安心できてよかったね」
「はい」
私の心は浮かれていた。
「ん?今から呑むの?」
佐藤先輩の視線は持っていたコンビニ袋に向かっていた。
「えーっと。明日休みなので...ちょっとだけ」
飲み会の後にまた呑むなんて酒飲みって思われないかと不安が言葉を詰まらせた。
「明日休みなんだ。俺もだよ。あっ!もし良かったらうちで一緒にどう?」
家の中を指差す佐藤先輩。
「えっ?」
私は思いもよらない誘いに驚きを隠せなかった。
「先輩の家でですか?」
夢のような出来事に思わず訊き返してしまう。
「何もないけどね。あっ、嫌だった全然断って大丈夫だよ。先輩後輩なんて今は関係ないから。もしよかったらでいいよ」
「そんな!嫌だなんて!むしろ嬉しいです!飲みましょう!」
ここで断るなんてありえない。
ここで断るということは1億円をタダでくるというのに断るのと同じだ。
「それじゃあ。まだ段ボールだらけだけどどうぞ」
「お邪魔します」
玄関でヒールを脱ぐ頃には心の中はお祭り状態。
中に入ると段ボールの山と唯一の家具である2人用ソファとテーブル。
「適当に座って。って言っても座るところはひとつしかないんだけど」
先輩は荷物を置くとキッチンへ。
私はソファに座るとやってしまったのは他の人の家に来たらついやってしまうアレ。部屋中を見る。
「家具が無いだけでこんなに広々としてるんですね」
「すぐに物で埋まるって」
テーブルの上には開いたビール缶が1つ。
コンビニ袋からお酒やおつまみなどを出していると先輩がお皿とお箸を持ってきた。
「うちからお出しできる精一杯のおつまみです」
そう言ってテーブルに置かれたのはチーズを使ったおつまみ。
「おいしそう...。先輩、家で呑むときいつもこんなにおいしそうなおつまみ食べてるんですか!?」
「いつもじゃないけどたまにね」
「私なんてこんなんですよ」
買ってきた柿ピーやさきいかやナッツ類などの袋を取り出す。
「どれもおいしいやつじゃん。俺の好きなのばっか」
先輩は手を伸ばすと嬉しそうに私に見せる。
「喜んでくれてよかったです」
「じゃあ、呑もっか。1本貰っていい?」
「どうぞどうぞ。お好きなのを選んでください」
神様への捧げもののようにお酒たちを寄せた。
「これをもらおうかな」
「私はこれにします」
チューハイ缶の蓋を開けるとプシュっといい音が鳴る。
「今日もお疲れ様」
先輩はチューハイ缶をこっち側に傾ける。
「佐藤先輩もお疲れさまでした」
グラスのようにいい音は鳴らないけど乾杯した。
ひと口呑むと体にアルコールと炭酸が染みる。
「はぁ~。このひと口が仕事終わったって感じするぅ」
この呟きに対して先輩はふっと笑った。
「えっ?なんですか?」
「いや、なんでもないよ」
「むむ。なんかバカにされたような気が...」
「してない、してない。それよりこれ食べていい?」
先輩は柿ピーの袋を手に取った。
「どうぞどうぞ。私も食べていいですか?」
「どうぞ。はい」
そういいながらお箸を差し出してくれた。
口に入れるとすぐに料理上手だということを悟った。
「おいひぃ」
「ほんとに?よかった」
頬が落ちないように支えている私の横で先輩は柿ピーの袋を開けピーナッツと柿の種を食べた。
「ん~ん、桜ちゃんのこの柿ピーも最高!」
私に向かってグーサイン。
「丹精込めて買ったかいがありました」
私はもう一口食べ、先輩は柿の種とピーナッツの混合を口に放り込む。
「最近思うんだけど、中身を7:3の割合にして7をピーにしてほしいんだよね」
「分かります!ピー好きのための柿ピーを発売してほしいですよね」
「昔は柿の方が好きでピーいる?って思ってたけど、今はピーが好きかな」
「私も大人になってナッツ系が好きになったんですよね。最近はおつまみにナッツ系は欠かせないです」
そう言いながらピーを口に入れた。
「でも、柿ピーが好きなんて女子力に欠けてますかね?もっとこう...」
私はおしゃれそうなおつまみを考えた。
「私は生ハムとクリームチーズをおつまみに赤ワインを呑むのが日課です」
精一杯優雅なで大人な雰囲気で言った。
「桜ちゃんにとって女子力ある人ってそういう感じなんだ」
先輩は笑いながら言う。
それから何本かお酒缶を開けおつまみもどんどん減っていった。
お酒も進み話も盛り上がる。
「まさか先輩とこのドラマの話が出来るなんて思わなかったです」
「俺も最近ハマってたから誰かと話しできて楽しかったよ。早く続き見たいよね」
「楽しみでしょうがないです!」
私は持っていた缶をテーブルの上に置いた。
「先輩、お手洗い借りてもいいですか?」
「そこの左側にあるよ」
「はい」
ソファから立ち上がると酔いのせいか足元がふらつき倒れてしまった。
先輩の方に倒れた私は咄嗟にソファの背もたれと肘置きに手を伸ばす。
気がついたら先輩の顔と私の顔は息がかかるほどの距離まで近づいていた。
顔は酔いに恥ずかしさが混ざってより赤くなっていた。
「す、すみません!わざとじゃ...」
急いで離れようとした私を腰に回された手が再び引き寄せた。
一気に先輩に引き寄せられる体。
「俺はわざと。かも」
そう言った先輩の顔が私の顔にゆっくりと近づいて来た。
そして...
「おねーさん?」
我に返ると外で宅配のお兄さんがエレベーターのドアを足で押さえていた。
「着きましたよ」
「あっ!すみません。ありがとうございます」
エレベーターを降りると部屋に向かう。
部屋の前でバッグの中を探り鍵を探していると宅配のお兄さんが後ろを通って隣の部屋のインターホンを押す。
鍵を見つけたのと同時に隣の部屋のドアが開いた。
出てきたのは、知らない人。
「それもそうですよねー」
小さく呟くとドアを開いて帰宅。
妄想の中は相手は望んだ人で望んだ展開、望んだことを言ってくれて望んだ反応をしてくれる。
思い通りにいくことが少ない現実と違って相手もシチュエーションも選べて全てが望み通り。
妄想に生きる私は理想の恋愛をしてて羨ましい。
だけど...。
私は伊藤桜。
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