I'm .

佐武ろく

余り時間に

僕は相ケあいがせ優也ゆうや


年齢;16歳

好きなもの:お寿司、紅茶

嫌いなもの:セロリ、グレープフルーツ

性格:内気、人見知り、1度熱中するととことんハマる

職業:高校生


高校1年生の1学期中間テスト2日目。

時間割は3番目、科目は数学。

一番端の前から5番目の最後尾の席で成績を左右する紙切れと向き合う。


今回は勉強した甲斐もあってすぐに解き終わった。

見直しも終え、あとは終わりのベルを待つだけ。

20分ほど時間を余らせた僕は窓際の席ということもありぼーっと廊下を眺めることにした。


強い日差しが2階へ続く外階段と教室前のベンチ、教員用の駐車スペースに生えた雑草を照らしている。

暖かく朗らかな気候に加えこの平和な景色を眺めていると自然と気持ちも落ち着き眠気さえ襲ってくる。


窓外を眺めていると目の前の廊下を見知らぬ男が通った。

全身黒ずくめで帽子とマスク、サングラスという典型的な怪しい男。

不思議に思ったのもつかの間。男はこの教室に入って来るや否や懐に入れていた手を抜いた。

突き出されたその手には拳銃。


「おい!お前ら!動くな」


マスク越しから叫び拳銃を持つ手を色んな方向に向ける。

当然、突然の出来事に教室中がパニックになった。

それを黙らせる銃声。


「うるせぇぞ!」


天井に向けられた拳銃は再び僕らに向けられた。


「な、なんですか!あなたは!」


担当の一愛ひとみ先生が少し身を縮めながら男に言った。


「黙ってろつっただろ!」


男の怒鳴り声にさらに身を縮めた。


「そこのお前」


拳銃で指名されたのは僕。


「後ろの鍵を閉めろ」


言われた通りに後ろのドアの鍵を閉めた。

その間にベランダ側のドアの鍵も閉めるように一番近い男子生徒:高橋たかはし宏樹こうきに命じる。


「よし。まずお前らそこに集まれ」


男が指示したのは黒板を前にして教室の左後ろの角。

指示をした後に男は近くの女子生徒:伊藤桜の腕を掴んで無理やり引き寄せる。

そして銃口を頭に突きつけながらこう付け足す。


「騒いだり変な動きしたらこいつをぶっ殺してやるかな」


桜ちゃんはあまりの恐怖で動けずにいる。

しゃがみ込もうとする桜ちゃんを男は腕を引っ張り立たせていた。

他の人達は一愛先生の誘導で教室の端に集まっていく。

だけど僕は両手を頭の高さに上げながら男の目の前に歩いて行った。

男の視線だけでなく教室中の視線が僕に集まる。


「ゆ、優也君!?何してるの」


恐怖よるものか男を刺激しないようにか一愛先生はヒソヒソ声のような小さな声で僕に話しかける。

聞こえてはいたが返事はしなかった。


「おい!何してる!さっさと行きやがれ!」


男は僕に拳銃を1度向けると「こいつがどうなってもいいのか?」と言わんばかりに桜ちゃんに銃口を向けた。

ある程度の距離まで近寄ると立ち止まった。


「僕が代わりに人質になるので桜ちゃんを離してくれませんか?」


なるべく怒らせないように丁寧に頼んだ。


「かっこつけやがって」


男は少し嫌な奴を見るような目で僕を見ると、一度桜ちゃんを見た。


「まぁ、いいだろう」


男は僕に拳銃を向けながら桜ちゃんの腕を離した。


「ゆっくりこっちに来い」


まだ怯えている桜ちゃんとすれ違いながら僕は男に近づく。

額に銃口が当たったぐらいで立ち止まり男をまっすぐに見た。


「俺はお前みたいな女の前だからってイキがるやつ見てるとイラつくんだよ」

「そう言われましても。男なんですから好きな子の前でかっこつけたいじゃないですか」

「じゃあ、その子の前で死ね」


少しづつ男の引き金にかかる指に力が入っていく。

だけど男が引き金を引く前に僕は拳銃に手を伸ばした。

そして流れるように拳銃を奪い取る。

まるで昨日見たアクション映画の主人公を演じていたジェイソン・ステイサムように。

頭の中では完全にシンクロしていた。


まぁとにかく拳銃を奪った僕は逆に突き付けてやり男を無力化する。

そして駆け付けた先生たちに男は取り押さえられた。

警察を呼んだり生徒の安否を確認したりと先生たちが忙しなく動き回る中、桜ちゃんが近づいて来て僕の肩を叩く。


「さっきはありがとう。優也君とっても勇気あるんだね」


恐怖はまだ残っていたが安心した彼女はいつもの笑顔を見せた。


「助けなきゃって思ったら勝手に体が動いちゃって。でも、あとで先生に怒られるかも、『悪くはないが危ない行動だ』って」

「吉田先生の真似?」


笑ってくれた桜ちゃんからもう恐怖心は感じられなかった。


「伝わった?」

「うん。それと、さっき言ってたことなんだけど」

「ん?」

「好きな子の前だとかっこつけたくなるってやつ」

「そんな恥ずかしいこと言ってたかなぁ~」


か少しとぼけながら言った。


「もしかしてさ。それって...私のこと?」


桜ちゃんは恥ずかしそうで勇気を振り絞った様子だった。


「.....うん」


僕もつられて恥ずかしくなってしまう。


「嬉しい。実は私、優也君のこと...」


キーン、コーン、カーン、コーン


「はい!終了してください」


テスト終了の鐘と教室に響く一愛先生の声が僕を暇つぶしのから現実に引き戻す。

ちょっといい感じところで終わって残念だけどこの後の展開は僕次第だし、それにこれはただの妄想。

現実じゃないから意味がない。


妄想の中の僕は勇気があって強くて普段なら絶対しないものまねなかして彼女を笑わせていた。

現実の僕じゃそう簡単に出来ることじゃないことをいとも簡単にやってのける。

妄想に生きる僕は理想の僕で素晴らしい。


だけど...。


僕は相ケ瀬優也。

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