第131話 アカルム

「じゃあ、行くかね。」

師匠が家から出るのを私は追いかける。


そして、私は師匠の魔法で連れて行かれたのだ。

どこへ?

それはすぐに分かる。


魔法で連れられたのはちょっとした丘の上だった。

今私の前、丘の麓の先には大きな街が広がっている。

いくつもの家が立ち並び、ところどころに大きな建物も見える。

特に目を引くのが、中央付近に見えるお城だ。それは王都グランセニアで見た王城にも引けを取らない大きさと美しさを兼ね揃えた素晴らしいお城だった。

逆に全く目に映らないものもある。

もしかしたらそれがこの街の最大の特徴かもしれない。にそれぞれ門があ黒るだけで、今まで旅をしてきた中で見てきた城壁な無いのだ。

なのでまちのなかの様子も先程からよく分かる。

目に魔力を込めてよく見れば、中の様子も何となく伺うことが出来る。

とはいえ、活気があるようだ、くらいしか言えないが。


門も、本当に門だけだ。

凱旋門というのを知っているだろうか。

ちょうどそんな感じだ。

師匠はさらに門へ歩みを進める。

というわけで、私も後に続いたのだ。

ミリア師匠が門につけば、

「これはこれは、ミリアさま!!おかえりなさいませ!」

そう門番に迎えられる。

どこかでみたような風景だが、少なくともここでは城壁がなく、門から街も中央へ大きな道がと、つづく大きな道が目に入る。

改めてここはどこなの。

師匠が口を開く。

「ルーク。ようこそ、ワドールの首都アカルムへ。」

そう、私たちは今、魔族の国ワドールのその中心地へと来ているのだ。


門を超えて、街の中へと入る。

首都アカルム。名前は聞いたことがあったが、実際に訪れるのは初めてだ。

街並みを見てみれば、不思議と王国や共和国と変わりはない。

が、当たり前か。

確かに、魔族の中には体の大きい種族や小さい種族はいるが基本的に人間と姿形がかけ離れているわけではない。

材質はここも石造りがメインのようで、聞けばあまり遠くないところに、質のいい石材の産地があるのだとか。

かつての戦乱時代はそういった土地をめぐっての争いが絶えなかったらしい。

同時に、そこは長い間ドワーフと呼ばれる種族によって支配されてきたため、ドワーフには腕のいい石工が多いのだと。

この国での、種族的な特徴は、身体的な能力以外にも、戦乱の時代、種族毎に分かれて暮らしてきたことで、各種族がそれぞれの土地などにあった技能を育ててきた結果なのだろう。


街の中を進んでいく。

街には色々な種族がいて歩いているが特に驚きはない。

言ってしまえば、人間のいないカダスのようなものだからな。

街の規模としても大きいは大きいが、共和国のソフィテウスや王国のグランセニアも引けを取らない。

なお、私はというと仮面をつけており特に突っ込まれることはなかったが、相変わらず奇異の目線は感じていた。

なんだ人間も魔族も変わらないものだと、なんとなく嫌なところで感じてしまったものだ。


「師匠。今はどこに向かっているのですか?」

と尋ねると、

「うん?まあ、着いてからのお楽しみじゃよ。とはいえ、まだ急ぐ必要もないがの。」

と返される。

仕方ないので、引き続き黙って歩く。


実を言うと最初はそのまま、あの遠くからも見えた立派な城に行くのかと思っていたのだ。

実際、そこには立ち寄ったが、

「ルーク。ここが中央政府が集まる城じゃよ。現在ワドールでの政治はここを中心に行われておってな。年に一度開かれる役人試験に受かった役人と各種族の代表達が集まっているんじゃ。」

「なるほど。そこだけ聞くと、共和国に似た政治体制に思えますね。」

そんなやりとりをして終わった。

目の前に見た城はやはり巨大で立派だったが、尖塔のようなものはなく、グランセニアの城に比べ遥かに無骨だった。

城といるよりも要塞とかを連想させるし、もっと言うなら県庁などを思い出させる雰囲気を持った建物だ。


その後も、私は師匠の後に続いて街を見学している。

例えば病院のような場所があった。実はワドールには宗教と呼べるものがほとんどないらしい。

何故かミリア師匠が苦虫を噛み潰したような顔をしているが、そのせいで詳しくは聞けなかったのだが。

で、人間領でいうアレクシア教がない分、治療などを専門とする機関、病院が生まれたのだそうだ。

その他にも学校のような教育機関もあり、多様な種族の子供達が学んでいるらしい。

それに隣接して博物館のようなものもある。

興味を惹かれたが、

「そこまでの時間はなくてね。また今度連れてきてやるよ。」

と返された。


その他にも施設を見つつ、適当な食堂で昼をすませる。

そうは言っても巨大な都市だ。疲れこそしないが、ある程度回る頃には昼も過ぎた。目的が分からず歩くにはこの街は大きすぎる。


「さて、いい頃合いかね。じゃあ、行くとするよ、ルーク。」

その言葉に、私は少し安堵するのだった。

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