第132話 魔族の中心地アカルム
師匠に連れられた先は、見た目に変わった所のない住宅だった。
強いて言うなら、普通の家族が暮らすには少し大きめの建物ではあるが、豪邸と言うほどではない。
街で見かたところで見には着いても記憶には残らないだろう。
そんな建物だ。
ミリア師匠は自然な仕草で扉を開け、中へと入る。
私も後に続いていった。
中もまた、特に変わった様子はない。
と、見た目だけならば言えるのだが。
建物を包む緊張感が入った瞬間から感じることが出来た。
「ま、流石にわかるかい。ルーク。」
師匠がこちらを見もせずに口にする。
そこに宿るのは若干の憤り。
扉を抜け、左右に行くつかの扉のある廊下を渡ると、奥には他に比べて立派な扉があり、そこを抜けると大きな部屋があった。
調度品が置かれ、天井には魔道具の1つだろうシャンデリアのようなものがかけられ部屋を照らしている。
というのも、この部屋には窓がないのだ。
それが秘密主義的理由からなのかは不明だが。
そして、部屋の中央にはシンプルながら重厚な雰囲気をもつテーブルが置かれている。
部屋に先客がいた。
テーブルの奥に女性、いや少女が座っており、左右にはこちらも若いながら敏腕のエリートを思わせる雰囲気の女性と、反対には柔和な表情をした老齢と思われる男性が少女とは違って立っている。
つまり、今この部屋には私と師匠を含めて5人がいる。
と簡単に言ってしまったが、当然のように先客の3人は魔族だ。
最初に言った少女は、黒い髪を長く伸ばし、人間であれば病気を疑いたくなるほど白い肌だ。透けるような、というより本当に陶器のような色をしている。
そして最大の特徴は目だろう。
大きな目が、鼻の上にあって、その存在を主張している。
つまり1つ目ということだ。
そこでふと思い出したのだが、確か魔族も最初は人間の姿で生まれ徐々に魔族としての特徴が現れると聞く。
となると一つ目になる過程というのはどんなものなのだろうか。
ぼんやりとした雰囲気で表情からは感情が読めないな。
2人目の女性は、人間であれば二十前半程度だろうか。
こちらも肌が白いが先ほどの1つ目の少女ほどではない。
金色の髪が腰にまで伸びている。
彼女の特徴はというと、口から伸びている牙だろう。
それ以外はあまり人間とはかけ離れていない。
牙もあり、吸血鬼のように見えるが、こればかりは聞かなければ分からないな。
そして、この家に入ってすぐに感じた緊張感の出所はこの人に違いない。
むしろここまでくると殺気ではないかと思えるほどだが、理由はなんだろうか。
残りの男性はというと、こちらが一番特徴的かもしれない。
そもそも男性と言ってしまったが、その鱗に覆われた姿からは人間らしさを感じることはできない。
なんというか、人間らしさに針を振り切ったリザードマンのようだ。
というよりは、昔話題になった恐竜人間。ディノサウロイドと言っただろうか。
ただ髪などは生えており、短い白髪とこれまた白い髭を蓄えている。
こちらは一転温和な表情だ。穏やかな老紳士と言った言葉がよく当てはまる人物だ。
「おい!」
そんな風に、考えていると、吸血鬼風の女性から声が発せられた。
「いつまで突っ立ってる!どなたの前にいるつも……」
その言葉の途中。
「カーラ。」
老紳士が口を開いた。
決して大きな声ではないが、しかし有無を言わせぬ重みがある。
カーラと呼ばれた女性もピクリと肩を揺らして口を噤む。
「カーラ。貴方は、余計なことは言わなくて結構です。」
その後、こちらに向き直り温和な笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「ミリア様、大変失礼致しました。そして本日はお時間を頂き、ありがとうございます。」
そう言って深々と頭を下げた。
「はいよ。ま、今回は儂も話したいことがあったしね。」
と師匠が答えている。
「話したいこと、と言いますと?」
と口にしながら私に目線を向ける老紳士。
「それも含めて、まずは自己紹介と行こうかね。」
そうして師匠は話を進めるのだった。
「まず、儂は良いだろうね。じゃから、この子について話すとしよう。」
師匠が私の背中を押して前に出す。師匠に触られるのは久しぶりだが、柔らかいながら有無を言わせぬ腕の力に私は前へと一歩だす。
「この子はルーク。儂の弟子じゃよ。」
と師匠が言うと、
「なんと!ミリア様のお弟子様ですか!?」
と老紳士が驚いていた。よく見ればカーラさんとやらも目を見開いている。
表情が変わらないといえば、真ん中の少女くらいか。
いや、彼女にしてもこちらを凝視している。気がする。
圧は感じるが、相変わらずそのかんじょはよく分からない。
師匠はと言うとフフンと得意そうな顔だ。
そして話をさらに続ける。
「そう言うわけじゃからら、隠し事は不要じゃよ。」
という言葉を受け、今度は老紳士が口を開いた。
「それはまた驚きましたな。ですがそういうことでしたら。」
と前置きし紹介をしてくれる。
その紹介を聞き、今度は私が驚かされるのだった。
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