第108話 王都での再会

王の道を歩き、女王の道との交差点にある広場に差し掛かる。

来る際にも通ったここは、サエル広場と呼ばれている。

サエルとは再生という意味の言葉であり、王都が1度滅びかけたあと、王都の再生を願って名付けられたという。

中央に2人の男性が手を取り合う像が置かれた円形の広場は、王都の民にとって憩いの場所なのだろう。

老若男女が集い、行き交っている。

すると、

「ねえ、ルーク。」

「どうした?テオ。」

「ほら、あそこにさ。」

とテオが指差す方を見ると、修道士の男性が看板を持って立っている。

そこには、

本日礼拝の文字と矢印が。

「ほら、ゴランにはアレクシア教の教会はなかっただろ?だから、久しぶりに教会に、行ってきたいんだけどいいかな?」

なるほど。もちろんダメという理由もない。

「ああ。いいんじゃないか?アイラはどうする?」

「それならあたいもテオと行くよ。」

とのこと。

そういうわけで、テオ達とはここで別行動になった。


「わあ!」

目を輝かせたユニが、喜びの声を出している。

サエル広場を越えしばらく歩くと、門が見えた。

その先が今回の2つ目の目的地である闘技場である。

門が見えた時点でユニはタタタ、と走り出す。先の声は、門を見た時の声だ。

ユニを追いかけていくと、そこにはいくつかの建物が立つ広場があった。

実を言うと、街の雰囲気と闘技場ということから、ローマのコロッセオのような円形の建物がポツンとある様子をイメージしていたのだが。

むしろ体育館を備えた運動公園と言った方が近いだろうか。

いや、奥の方を見ると、まさにコロッセオのような建物もチラリと見えているので、イメージも全くの間違いではないようだ。

私達から見て右手には屋外に広いスペースがあり、どこかの道場生だろうか、と大人も子どもも、幅広い年齢の人々が走っている姿が見える。

あそこは陸上のトラックに近い場所だろうか。

正面と左手にはまさに体育館のような建物があり、正面の建物の奥には、そのコロッセオのような丸みを帯びた建物がある。

もちろん、現代で見るような古い建物ではなく、鮮やかに塗られた外壁から、現役で使われていることが分かる。

まあ、コロッセオ自体、直接見たわけではないので偉そうなことは言えないのだが。


と、見つかった。

「ユニ。」

声をかけ、近くによると、ユニは目を閉じていた。

「どうした?」

「ん。懐かしくて。」

目を開けてこちらに向き直り、ユニがそんなことを言う。

「懐かしい?」

「うん。ルークも目を閉じて。」

そう言われ、仮面の中で目を閉じ、こっそりと少し耳に魔力を通す。

すると、ユニの言うことが理解出来た。

「なるほどな。」

「ね。」

かすかにだが、建物の中から声がする。

武術をする人たちの掛け声と、指導者だろう。発破をかける声。

確かに懐かしい、道場での声だ。

子どもの声だけでなく、大人の声も聞こえる。


「ルーク、行こ。」

とユニに手を引かれる。

宿で聞いた話では受付で料金を払えば騎士団の稽古の見学が出来るそうだ。

もちろんと言うべきか、大部分の訓練は王城内の施設で行われ、ここでの訓練はパフォーマンスに近いものだと思われる。

とりあえず、外には受付らしいものは無いので、正面の立派な建物の中だろうか。

ユニもそう思ったのだろう。

正面に向けて足を出した時、2人で懐かしい人物を見つけたのだ。



「まさか、こんなところでルーク達に会うとはな。」

そう言って笑うのは、レイ・ギ・ゼルバギウス。

カタルス共和国で一年程護衛をすることになった貴族だ。冒険者から騎士になったアントンさんを伴っている。

確か今は14歳。この王国、というか大陸では成人の手前という歳だ。

まあ、正確には、護衛対象は彼の妹であるミリアーヌ・ギ・ゼルバギウスだったが。

そして、決して教えるつもりはないが、血としては一応私の弟と妹ということになる。

もちろん、あの日私が森に捨てられた日から私たちは他人に過ぎないし、2人の顔と私の顔、さらに現当主とその奥方であるゼルバギウス辺境伯夫妻を見比べれば、血の繋がりを疑うことは不可能だろう。

「レイ様は、確かこちらでもう1年留学されるのですよね?」

「ああ、その通りだ。ミリアーヌはもう少し領地で羽を休めているが、私は父上達に挨拶をしてすぐにこちらに来たのだよ。ちなみにマルコ達もミリアーヌに付いている。あの時の者だと、アントンの他には、ライエ達がいる。今は訳あって別行動をしているがな」

王国と共和国の貴族子弟は共和国の首都にある学院で留学するのが普通だが、女子が3年学問と内政についてじっくり学ぶのに対し、男子はほぼ同内容を駆け足で学んだ後、最後の一年をここ王都で武術や魔物の討伐について学ぶのだ。


現在私達は、レイ様に案内されながら闘技場の中を歩いている。

予想通り受付は正面の建物の中にありそこで料金を支払うシステムのようだったが、レイ様の関係者ということで無料で見学させて貰えることになった。

なんでも留学生は無料らしい。

更に聞いたことでは、門を入って残りの左側の建物は寮になっており、レイ様のような貴族の男子が住んでいるのだそうだ。

ちなみに、レイ様は寮に戻ろうとしたところで私たちを見つけ、こうして戻ってくれている。

その親切に感謝しつつ、さて、そろそろこの国の騎士達の訓練を見学させて貰えるようだ。


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