第91話 調査依頼2

さて準備はいいだろう。

では、これからダンジョンに向かおうと言うところで、モハマドさんから待ったがかかる。

「やる気があるのはありがたいけどね。」

続けて彼が口にしたのは、先日持ち込んだダンジョンアント諸々の買取代金のことだった。

忘れていたわけではないのだが、今回の調査依頼の報酬と合わせてだと勝手に思っていたのだが。

ちなみに、今回の調査依頼。1人に金貨1枚の報酬が出る。いつものように一般人換算すれば、ほぼ3ヶ月分の収入と同様。難易度に見合った報酬と言えるだろう。

私達はモハマドさんを先頭に、なぜかムバラクさん達も連れて、以前の買取をお願いした部屋に向かった。


で、肝心の買取額だが、なかなかのものだ。

「まず大量に持ってきてくれたダンジョンアントなんだけど」

と、なぜかギルド長直々に教えてくれる。

それによればダンジョンアントは数えたところ普通の大きさのものが400匹。状態などもあり一律ではないが、合計で大銀貨4枚。平均して、10匹で銀貨1枚(平均日収相当)の計算だ。

数に比べて安く感じるが、大して危険もないし適正価格といえばその通りだろう。

そして、深い階層に出たやや大振りな個体などは、その大きさや状態に合わせて1匹で銀貨1枚や5枚になるものも出てきた。

「特にこの個体は、大きさも状態も素晴らしいね。」

モハマドさんがそう褒めるのは、大型犬並みの大きさで、頭を縦に裂かれているダンジョンアントだ。顎が巨大で、片方だけでも小さい子どもの腕ぐらいある。

状態から見るに、ユニが仕留めた物だと思だろう。

なんでも、顎部分がそのまま残っているのがありがたいらしく、少し加工すれば質の良い短剣としても利用できるとのこと。

これが大銀貨2枚になった。

結果、大振りな個体達は合計で、金貨2枚になった。なかなかの成果だ。

また、例の毒を持つダンジョンアントだが、残念ながらルカイヤさんのハンマーで潰されたのか、それと分かるものはいなかった。

あれ1匹とも考えにくいが、もしかしたら見た目では分からないのかもしれない。そうなると今回の調査依頼、かなり面倒になるな。

「でだ。問題はこれだな。」

そう言うモハマドさんをはじめ全員の視点が集まるのは、あの巨大な虎の魔物ソードタイガーだ。改めて、背中の剣のような棘の大きさと鋭さに目が奪われる。

まあ、私達のような小さい相手には大して役には立たなかったのだが。

本来ソードタイガーは毛皮がいくら、牙がいくら、背中の棘がいくらと状態毎に決められる。

しかし、今回は、

「まるごとの値段として金貨5枚で頼むよ。」

とのこと。なんでも、今後の研究のためだそうだ。

まあ、私達に断る理由もない。

結果として、金貨7枚と大銀貨4枚。1日の稼ぎで考えれば、命の危険を考えても十分すぎる稼ぎだ。

分けるのは後で良いと、とりあえず私が代金を受け取る。

長くなったが、今度こそダンジョンに向かえることになった。



で、私達は今、ダンジョンは地下の7階に来ている。つまり私達が例の大剣級に襲われた階だ。

ここに来るまで、特に変わったことはなかった。地元冒険者であるムバラクさん達から見ても同様らしい。

というわけで、長居せずサクサクとここまで来たわけだ。

で、この階から時間をかけて見て回ることになっているのだが。

この階の探索を始めて、2時間。今のところ成果は、ダンジョンアント20匹と、普通のソードタイガーが1匹だ。

このソードタイガーは、本当に普通の虎サイズで、まあ、生身の普通の人が遭遇すれば確実に命の危機なんだろうが、戦闘を想定して武装した7人のプロにすれば的が大きい分野良猫よりも相手がしやすい。

結局、出会い頭斬りかかるムバラクさんに気を取られている隙に、私が土の槍を出して一発。

以前は何度も避けられたが、今回はそんな素振りもない。

どうやら大きさだけでなく、反応速度など総合的な戦闘力でも大剣級は優れているらしい。

もしかしたら、そういう優れた個体が何かしらの理由で巨大化したのだろうか。


「それにしても。」

ソードタイガーを倒して再度歩き続けると、少ししてアフマドさんから私に声がかかる。

アフマドさんは例の毒を受けた男性ラフィさんの恋人で、槍使いの男性だ。

余談だが、この2人。いわゆるバカップルという類の人種のようで、ギルドからここに来るまで手を繋いだり、待ち時間にはアフマドさんがラフィさんの長い髪を撫でながら見つめ合ったりと、気がつけば2人の世界に旅立っている。

まあ、悪い人達ではないし、ダンジョンに潜ってからは仕事に集中してくれているので、文句はないが。

さらにどうでも良いが、ルカイヤさんがこっそり教えてくれたことでは、これが仕事のない休日だと気づけば街中でもキスをしていることもあるらしいが、すみません。興味がありません。

話を戻そう。

そのアフマドさんが話しかけてきたわけだが、

「俺たちも冒険者はそれなりにやってるけどさ。ルークみたいに戦闘に魔法を使う奴は始めて見たよ。」

なるほど。

「私も自分以外には見たことはありませんね。普通魔法を使うには正確なイメージと魔力を練るという予備動作が必要ですから、戦闘には不向きなんですよ。」

「それでもルークは使うのかい?」

「ええ。私の場合、拳の方も習いましたから、その時々に合わせて使い分けています。」

「いや、言うほど楽なことじゃないだろ。さっき使った魔法も一瞬で使ったように見えたし。」

私の場合、身体強化を含めて、戦闘が始まればすぐに魔力を練るようにしているからな。

「そこは訓練の賜物ですね。それに、」

それに、なによりも大きい理由は、

「私は師匠に恵まれましたので。」


実際、ミリア師匠は自身も優れた魔法使いであり、魔道具の製作者だが、指導者としても優秀だ。

あらゆる知識に造詣が深く、説明もわかりやすい。

私が身体強化を開発すると、それを有効活用する方法を一緒に考えてくれた。まあ、魔力を練るということ自体が魔法使いの基礎の基礎なので、改良するよりもなんども繰り返しての反復練習が必要だという結論になったが。

拾われた恩を無しに考えるのは難しいが、それを除いても、なんというか弟子をやる気にさせるのが上手い人なのだ。

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