第90話 調査依頼1

お茶をご馳走になった後、ムバラクさん達と別れることになった。

ちなみに建物が大きかったのは、馬車などの修理をナーシルさんが自分でやるかららしい。

ところで、明日の実力テストの話やソードタイガーの話は出てこなかった。特に口止めされたわけでもないが、彼らから言ってこないと言うことは、まだ話が言ってないのだろうか。


日は高く、お昼時。

私は簡単な軽食を屋台で買い、宿に戻る。

その後は私もユニとともに部屋でのんびりとテオ達の帰りを待つことにした。

なお、ユニは昼を食べた後再度寝入っている。

信頼されているのだと、自分自身に言い聞かせたのは私だけの秘密にしよう。

閑話休題。

ユニではないが、最近は長期依頼を受けたこともあり、ゆったりとした時間が私の体と心に染み込んでくる。

そういえば、レイ様達はもうグラント王国に着いた頃だろうか。

確か、私達の降りた港町ラーカとは別のイルサとかいう港町を超えれば、次はグラント王国最大の港町ドルムブルクに着くはずだ。

とはいえ、内陸のゼルバギウス領はそこからが長いのだが。

まあ、彼らならきっと、旅路を楽しんでいることだろう。

夕方前、テオ達が戻り、ユニが目を覚まして、昨日のように夕食を頂きに行く。

さて、これで休めば明日はダンジョンに行く予定だ。

朝一でギルドに行くとしよう。



翌朝。

今日もダハの町は快晴だ。乾燥した風を肌で感じながら、私達はギルドを目指した。


「ルーク、今日はよろしくな。」

「ムバラクさん。こちらこそ。」

ムバラクさん達のメンバーは先に来ていたようで、私達に気づき挨拶をしてくれた。

「調子はどうですか?」

「ああ。お陰様で、あれから問題ない。むしろダンジョンに潜る前よりも元気になった気がするぜ。」

そう言葉を交わすのはアイラとラフィさんだ。

今までの旅を通して、こういう相手への気遣いというか優しさをアイラらしいと思えるようになっている。

私としては、もちろんラフィさんの回復は喜ばしいが、ダンジョンアントの毒に対してアイラの回復魔法が有効であるというデータを嬉しく思ってしまうのだ。

「さあさあ、ここで話してても仕方ないだろう。モハマドさんも待ってるだろうし。」

「ん。早く入ろう。」

そう促すのは、ルカイヤさんとユニだ。どうもこの2人は、雰囲気はともかく正確が似ているような気がしなくもない。

とはいえ、2人の言う通り。

私達は素直に、2人の言葉に従って、ギルドの中へと入ることにした。



「やあやあ、待っていたよ。今日はよろしく頼むね。」

ギルドに入ると、そのまま全開の部屋に通され、そのすぐあとにギルド長のモハマドさんが入ってくる。

のんびりした口調に反して、顔には緊張が伺える。

「さて、改めて話を整理しよう。本日はギルドからみんなに、ダンジョンの調査を依頼する。成功条件としては、明らかな変化となる証拠の発見だが、これは見つからない可能性。つまりそもそもダンジョンに大きな変化が起きてない可能性も考えられる。そこで、ムバラク達が遭遇したと言う毒を使うダンジョンアント、もしくはルーク君達が遭遇したと言う大剣級のソードタイガーの発見と可能ならそれらの討伐および死体の回収を目指してもらいたい。目標が見つからないなどの場合の撤退は、ムバラクの判断に任せる。なお捜索範囲は、ダハのダンジョン内と横穴の先、グイのダンジョン手前までだ。ここまでで何か質問は?」

モハマドさんが、そこまでを一気に話す。

グイのダンジョンとは初めて聞いたが、おそらくダハの町の隣町の名前とそこにあるダンジョンであり、ダハのダンジョンとは横穴で繋がっている。

そういうことだろう。

ムバラクさんから、質問というか確認がいった。

「つまりだ。横穴を抜けてということだが、グイのダンジョンまでは見なくていいんだよな。」

「うむ。それで構わない。」

と、モハマドさんが頷いている。

他には質問は出ていない。ソードタイガーについて触れないあたり、やはり昨日モハマドさんからムバラクさん達に話が言ったのだろう。

また撤退の判断をムバラクさんにというのにも異論はない。どう考えても私達より彼らの方がダンジョンには詳しいからな。

「ではもう1つ。これは昨日ムバラク達にも言ったが、今回の調査では並行して、ルーク君達の実力テストも兼ねて欲しい。ということでムバラクは帰還後、報告を頼む。」

「おう、任せとけ。とはいえ、大剣級を狩れるなら心配してないがな。」

そこで気付いたことを口にする。

「あの、大剣級というのは?」

確かに、以前大きなソードタイガーを見つかった時に大剣という異名がついたとは聞いたが。

「ああ。これは昨日決まったのだがね。とりあえず、巨大なソードタイガーのことを大剣級とまとめて呼ぶことにしたのだよ。毎回大きなソードタイガーと言うのも分かりにくいからね。」

なるほど。言われてみればその通りだ。

「分かりました。ありがとうございます。」

「なに。気にしないでいいよ。それでだ。先日言った渡したいものなんだが、こちらだ。」

そう言ってモハマドさんがいくつかの品をテーブルに乗せていく。

「まずはポーションを人数分。それと、横穴には月光花がないのでね。こちらのランタンを渡そう。共和国で作られた最新式のもので、魔力を通せばかなり長く光るらしい。後、これだ。」

そう言って最後に取り出したのは、小さい見覚えのある皮袋だ。

「これは、もしかして。」

そう口にするルカイヤさんの声が震えている。

「御察しの通り、収納袋。しかもダンジョン産だ。これを貸し出すので確実に素材を回収してきて欲しい。」

なるほど。ダンジョン産の収納袋といえば個人で持てるようなものでは無い。

ギルドもそれだけ真剣だということか。


なんにせよ、これで出発の準備は整った。

2度目のダンジョンへと足を踏み入れる瞬間までもう少しだ。


余談だが、空間魔法の収納の場合、容量の限界が無い。少なくとも今現在、限界まで入れたという記録はないらしい。

また、魔力自体もしまう時と取り出す時にしか消費していない。

そのことから、ミリア師匠の立てた仮説が、世界の隙間に何もない空間があり、そこにしまわれているのではないか、というものだ。

ダンジョンアントの時のように、私という存在がいて思いついたそうだが、世界が複数あるとして、その世界の間には隙間があるかもしれない。

もしくは、何もない世界というのもあるかもしれない。

この時点でかも、ばかりだが、とにかくそういうここではないどこかに一時的に収納し、しまう時と出す時に魔力を使って穴を開けているのではないか、といわけだ。

とはいえ残念ながら、そもそも空間魔法自体感覚的過ぎて、使っている私達自身も把握できていない。取り出す時にこそ、取り出す物についてのイメージはしているが、しまう時はなんとなく袋に入れるようなイメージしかしていないしな。

アイラの回復魔法をとやかく言える立場ではない。

なんにせよ、そう言った理由のため、師匠の仮説に答えが出る可能性はかなり低いだろう。

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