第76話 ダハの町

ナーシルさんと別れた私達は、早速ダハの町のギルドに向かった。

ダンジョン自体はこの町の外れにあるそうだが、ダンジョンの管理はギルドが行なっているため、先にダンジョンに入るための許可を取る必要があるそうだ。

余談だが、この町はダンジョンの町であり、オアシスの町でもある。なんでも、ダンジョンのある場所にはすぐ近くにオアシスがあるらしい。

偶然ではないだろう。ダンジョンアント含む魔物も生き物は生き物だ。

生きていく上で水は必要不可欠であり、オアシスとダンジョンがほぼセットになるのも納得できる話だ。


それはともかく、ギルドに着いた私達は、ダンジョンへの立ち入り許可をお願いした。

「分かりました。ランクの方も問題ありませんね。では、こちらが許可証になりますが、運び人の方はどうされますか?」

運び人とは文字通り、素材などを運ぶ人を指す。

私達は今まで世話になったことはないが、ダンジョンに限らず、他の地域でも複数の魔物が予想される場合などは低ランクの冒険者を雇い連れて行く。

雇われる側も、低ランクの収入が安定しないうちは大事な収入源であり、同時に現地に行くことで貴重な経験にもなる。

新人の育成ということでギルドも補助金を出し、積極的に活用するようにと促している制度だ。

ただ当然というか、申し訳ないが、私達は遠慮している。

もともと収納があって不要な上、私の顔のこともあり必要でない限りこのメンバーで動く方が気楽だからだ。

まあ、そんなわけで今は関係ない。

「いえ、必要ありません。」

なので、そう言って断ると、

「そうですか。しかし、ダンジョンアントの素材は可能な限り、出来るなら全て回収して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

と念を押される。確かに魔物の素材は貴重なので回収が推奨されているがここまでいうのは珍しいな。

「そのつもりですが、何か理由があるのですか?」

と疑問を投げかけてみる。

「お聞きではありませんか?実はダンジョンアントの死体をダンジョンに放置すると、それをダンジョンアントが餌としてしまう可能性が、研究者の方々から指摘されているのです。ギルドとしてはその結果、せっかく冒険者の方々の死亡を減らしても、ダンジョンアントの異常発生に繋がってしまう可能性を危惧していまして、原則ダンジョンアントを回収してもらうようお願いしているのです。」

なるほど。そういう理由か。確かにダンジョンアントも魔物である以上は、魔力の塊と言えるし、蟻同士なら死体を食べるのも不思議ではない。

「また、ダンジョンアントの体を粉末にしてレンガを作る際に混ぜ込むことで、非常に質の高いレンガになります。それらはこの町でも使われていますし、特に多くの粉末を入れたものは高い熱に耐えられるということで、共和国のハマトの鍛治工房では必要不可欠となっています。」

とのことらしい。改めて、この周辺の土地がダンジョンに支えられていることを知った。

とはいえだ。その共和国の技術によって王国も支えられ、王国によって大陸が守られている。

そのことを思えば、今まで知らなかっただけでこの大陸自体が、ダンジョンに支えられていると言っても過言ではないのだろう。

「そうでしたか。ですがご安心ください。収納袋も用意してありますので、ダンジョンアントの素材は残らず回収するとお約束しましょう。」

と私が答えると、受付嬢が驚いた顔をしている。何かと思えば、

「収納袋をお持ちなのですか?流石はその若さでC級と認められるだけはおありですね。」

らしい。

確かに、最近忘れがちだが、私達はまだ16。旅の途中で1つ歳をとったと言えど、本来であれば冒険者としては駆け出しもいいところだ。

まあ、だからどうした、と言えばそれまでなのだが。


多少のお喋りはあったが、目的の許可証と共に、ダンジョンについての知識も新しく仕入れ、私達は町の外れ、ダンジョンに向かう。

その途中で屋台により、やや遅めの昼食を食べた。

どんなものが出るのかと思ったが、パンと豚肉の串焼きを食べた。

やや味付けがスパイシーに感じたが、店主によればこの地域では、辛い味付けを好むらしい。

ここダハは共和国とも距離が近くそちらからの穀物なども入ってくる。

またオアシスのおかげで農業も、少ない人口を支えてお釣りがくる程度には出来ているらしい。

砂漠ということで、勝手に過酷な環境をイメージしていたが、思っていた以上には過ごしやすいみたいだ。

「ここで暮らしていて困るのは砂嵐かね。共和国からの商人さんや冒険者さんなんかは風が強いとはよく言ってるな。」

言われてみれば、ここくる途中も巻き込まれはしなかったが遠くに砂嵐が見えた。

木などの風を遮るものが少ないためかもしれないな。


そんな風に地元民との交流もしながら目的地に向かうと、程なくして大きな建物が見えた。

色は他の建物と同じく土色だが、縦も横もほぼ周囲の建物に比べて倍はありそうだ。

ほぼ立方体の、立派な扉のついたその建物こそ、私達がこれから向かうダハのダンジョンの入り口である。

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