第68話 魔剣
私たちは1つの部屋に案内された。
よくある応接間らしく、テーブルを挟んで向かい合わせのソファがあり、その1つにレイ様が座り、私達は後ろに立つとことになる。
待つこと数分。
「お待たせいたしました。」
ハールさんと、その後ろから箱を抱えた男性達が現れた。箱の形は様々だ。
「では早速ですが、まずはレイ様にオススメしたいものですが。」
そう言って品物を1つずつ紹介していった。
結果として、今回は何も買わないかと思われたが、最後に出された品を見てレイ様が反応した。
「こちらは今レイ様がお使いの盾を作ったリンブルド工房の最新作の盾でございます。」
ちなみにレイ様は、片手剣と盾という騎士としてはスタンダードな戦闘スタイルだ。ユニのように片手剣だけのスタイルに比べ動きが鈍くなるが、集団戦を前提とし、互いが動きをカバー出来る騎士には合っている。
「これは。持ってみても構わないか?」
「もちろんでございます。」
形は、いわゆる丸盾。シンプルな形だ。
この世界では、特に中世ヨーロッパのように家紋を入れたりはしていないらしく、盾も実用性重視ということらしい。
盾の丸みで打撃武器や魔物の突進の衝撃を、逸らすことが大切だと、カイゼル師匠から教わった。
「これは、なかなか軽いな。しかし頼りない感じはしない。」
「工房によれば、新しい合金を見つけたとか。もちろん詳しい話は聞けませんでしたが、今までの物と同程度の強度で軽い素材を使っているそうでございます。」
「そうか。流石は技術の都だな。よし、では今回はこれを貰おう。」
「ありがとうございます。」
ハールさんが有耶無耶しく頭を下げる。
次に彼が出したのは、剣だ。
つまり相手はユニ。
「剣も取り揃えておりますが、よろしければユニ様が現在お使いの物を拝見してもよろしいですか?」
「はい。」
そう言ってユニが腰から鞘ごと剣を渡す。丁寧に両手で受け取ったハールさんは、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
「なるほど。両刃の片手剣。いえ、この大きさなら、ユニ様なら場合に合わせて両手でも使えますな。重さはやや重みがある。ユニ様は、こちらの剣でなにかご不満な点などおありですか?もしくはここは気に入ってるなどは。」
そう問われて、ユニは少し悩んだ後に答えた。
「重さはこの程度が良い、です。軽いと一撃が弱くなる、ので。もしくはもう少し重くても。あと長さや形はあまり変えたくないです。出来れば、もっと頑丈なのが。」
ユニの持ち味は、剣速だが、それは遠心力などを利用した技術の賜物だ。そのためにはある程度の重さも必要になる。
「なるほど。では、こちらなどはいかがでしょうか?」
そう言ってハールさんが取り出したのは、普通の見た目で、それこそ今ユニが渡したものと同じような剣だ。
ただ鞘の部分に特徴がある。
「やはり慣れたものとあまりに違いすぎては逆に使いにくいかと。サラバルム工房という場所で打たれた剣ですが、切れ味より頑丈さに重きを置く工房でして。ユニ様のご希望に近いかと。」
「少し振っても良いですか。」
「もちろんでございます。そこの扉を出ると中庭になっておりますので。」
そう言ってハールさんは、1つの扉を指差した。
ユニは剣を受け取り扉を出て行く。
私も付いていっても良かったが、その前に気になることを確認しよう。
「ハールさん。」
「ルーク様、なんでございましょう。おお、手甲ですかな。それでしたらこちらに……。」
そう言って箱に手を伸ばすハールさんを制止する。
「いえ、そちらは後で見せて頂くとして。今ユニに見せてもらった剣。正確にはその鞘は魔道具ですか?」
「おや?よくお気づきに。」
「ええ。表面に呪文がありましたから。何か修復する効果の物のようですね。」
そう鞘の特徴とは表面に書かれた呪文のことだ。ただ、びっしりというわけではなく、見た目にも変にならない程度だが。
「なんと。そこまでお分かりになるとは。ルーク様は一流の魔法使い様でいらっしゃいましたか。」
「つまりは、これは魔剣と言うことか。まさかダンジョン産なのか?」
そう言ったのは、レイ様だ。
魔道具には2種類ある。1つが人の手によって作られて物。そしてダンジョン産。
この大陸にはダンジョンと呼ばれる場所があり、そこでは魔道具が見つかっている。これらはダンジョン産とかオリジナルなどと呼ばれ、それを人間の手で模倣した物のが一般に流通している魔道具達だ。こちらは人間産とか模造とか。ただ魔道具といった場合はこちらを指すことが多い。
そしてこれは、
「いえいえまさか。これはサラバルム工房で作られた物ですよ。」
「おお。そう言えばそう言っていたな。しかし、剣を修復するとはなかなかの効果ではないか?」
「修復とは言いましても、折れたり大きく欠けてしまえばどうにもなりません。多少の刃こぼれなら修復できると思っていただければ。」
「なんだそうなのか。」
「なんでもこの元になった物は、折れた物でさえも直すことが出来るそうですが。まだまだ人の手では無理ですな。」
魔道具作りを専門とする魔法使いにとってダンジョン産に匹敵する品を作ることは、最高の目標だ。
話をするうちにユニが帰ってくる。
「どうだった?ユニ。」
「ん。気に入った。これ、買います。」
「ありがとうございます。」
その後聞いた値段は金貨4枚。一般の人にとっての年収以上の値段だが、幸いにして金銭に余裕はある。
魔道具としての効果も思えば妥当な値段だろう。
値段に驚いた様子だったユニも先程聞いた魔道具としての性能について聞くと、納得したように頷いていた。
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