第57話 馬車の中で

現在私達は、馬車に揺られソフィテウスを目指している。

「では、皆さんもヤタの町に行かれたのですね。」

「ええ、その通りです。」

向かいには、グラント王国有数の貴族であるゼルバギウス家の美姫として名高い、ミリアーヌ様達が座っている。

当然馬車も貴族用の豪華なもので、片方にミリアーヌ様達3人、残りに私達4人が乗っても、余裕とはいえないが、狭くない程度の広さがあった。


「もしかして向こうですれ違ったりしたのかしら。」

どこかワクワクした風のミリアーヌ様に、

「それはどうでしょうか。私達は平民用の宿に泊まりましたし、朝はギルドに寄りましたので難しいかと。」

そうな風に返すと、彼女は頬を膨らませる。何か怒らせたかと思うとすぐに答えがきた。

「むう。ルークさん、そんなことを言ってはつまらないわ。もしかしたらって考えるのが面白いのですわよ。」

なんてミリアーヌ様が言うと、何故かユニまでが、

「そうですよね。ルークはもっと会話を楽しんでくれたらいいんですけど。」

と同調している。

「あら、普段からそうなんですの?お兄様もそう言うところがありましてね。」

なんて今度は笑顔でユニとおしゃべりをしており、その姿は普通の町娘のようだ。

ちなみに、ミリアーヌ様の兄であるあの貴公子、レイ・ギ・ゼルバギウス様は私の3つ下のはず。

つまり彼は12か13であり、目の前の少女はその1つ下だ。

そう思えばこの姿も年相応ということなのかもしれない。


その後も、主にユニとミリアーヌ様が楽しげに会話を続け、馬車の中は平和な雰囲気に包まれていた。

ミリアーヌ様の左右に座るマルコさんとマーサさんも、こちらを威圧するような事もない。その表情は、大切なお嬢様が楽しそうで私も嬉しいです、と物語るかのように穏やかだ。

きっとこれが、ゼルバギウス家の本来の姿なのだろう。


「なるほど。留学のためですか。」

「ええ、その通りでございます。」

馬車は進んでいく。

ユニとミリアーヌ様の会話は、アイラとマーサさんに何故かテオも加わり途切れる事なく交わされている。

結果私はマルコさんと、という事なった。

「貴族、と申しましても、現代ではグラント王国とカタルス共和国にしか貴族はおりませんが、その2つの国では、12歳になるとカタルスの首都、ソフィテウスにあるカタルス学究院、通称学院に行き、一般的に、女性は3年間、男性は2年間を様々な学習に当てるのです。」

「なるほど。ところで、何故男女で学ぶ年数が違うのですか?」

「それは男性は14歳からの1年間はグラント王国に行き、武術の修練に当てるためですな。学院でも基礎的な物は学べますが、やはり知はカタルス、武はグラントで学んでこそでございます。その1年では、実際に魔物の討伐も行われると聞き及んでおります。」

「なるほど。そのような理由があったのですね。」

「ええ。貴族の方々の中では、男が武を持って民を守り、女は知を持って民を慈しむ、と言われておりますので、貴族の子弟の方々もそのような3年間を過ごされるのでしょう。」

「なるほど。」

師匠からも教わって互いに驚いたのだが、実はこの世界では地球の歴史と違って、男女の格差というものはあまりない。男女の役割意識、所謂ジェンダーは多少存在しているが。

アレクシア教でも女性の司教を認めているし、歴代の大主教には女性もいるらしく、貴族も女性の当主は珍しくないそうだ。第1子が女子なら、その子が跡継ぎになるのが一般的らしい。

推測だが、これは回復魔法やポーションのおかげだと、私は思っている。

なぜならこれらのお陰で、この世界では死産というものがほとんどなく、出産は確かに大変だが命がけと言うほどではない。

それに貴族ならポーションのおかげで幼くして死ぬ事もまた滅多にない。

ここら辺が、私がスペアとしても残さず躊躇なしに捨てられた理由かもしれないな。

なんにせよ、妊娠と出産が女性の最大の仕事とされた地球とは少し様子が違い、結果として、上流階級の女性達にもまた実力主義が適用された、のだろう。

ついでに言うと、ある理由から性犯罪もほとんどないらしいが、これはまたの機会に。

長くなったが、要するにこの世界では女性にも男性と同様か、分野によってはそれ以上の教育の機会があるということだ。


そんなこんなで時間は過ぎ、もうじき辺りも暗くなるかという時間に、私たちは芸術都市ファンに到着した。

そして今、貴族用の宿屋の一室を与えらている。当然レイ様達のご厚意だ。明日の朝早くに出発するらしい。

「まさか僕たちが貴族用の宿屋に泊まる事があるとは思わなかったね。」

部屋を見渡しながらテオが言うと、

「ああ。昨日のヤタの宿屋にも驚いたけどさ。流石ここはそれ以上だぜ。」

とアイラも答えている。

部屋の広さは同じくらいだが、ベッドを始めそれぞれの家具の質が高い。

まあ貴族用というよりも、その御付き用なので、正確には貴族待遇ではないのだが、私達には過ぎた贅沢なのに変わりない。


「話は変わるんだが。」

私はユニの方を見ながら口を開く。

「何?」

「ミリアーヌ様とは大分楽しそうに話していたな。特にユニは、随分仲良くなったんじゃないか?」

「うん、楽しかった。なんだかミリアーヌ様って、ルークに似ている気がする。」

「わ、私とか?」

その言葉に、私は動揺してしまった。みんなはただ驚いただけだと思ってくれたのか、特に気にした風でもないが。

ユニの言葉に、テオやアイラも反応する。

「それ、僕も思った。それにレイ様とも似てるよね。どこがって言われると困るんだけど。」

「あたいもさ。なんだろうね。ミリアーヌ様とレイ様が似ているのはご兄妹なんだから当たり前なんだけどね。」

うーん。そうなんだろうか。

私には分からなかったが……

「まあ、ユニとテオもだが、グラント王国の同じ地域の出身だ。それでなんとなく似てる場所もあったんだろう。」

かなり苦しいが、まさか本当のことを言うわけにもいかないしな。

みんなもそんな気になるほどの話題でもないのか、そんなものかと納得してくれた。


その後もいつも通りの雑談を終え眠りにつく。

環境が変わってもいつもと変わらない様子の仲間達に心強さを感じた夜だった。

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