第56話 私達の選択は

さてどうしたものか。

私は、おそらく血の繋がった弟である目の前の少年からの依頼になんと応えたものかと考えながら、仲間に話しかける。

「みんなはどう思う?」

ユニがいつものようにすぐに答えてくれる。

「私は受けても良いと思う。」

「僕も。行き先が変わるわけじゃないし、この状況ではいさよなら、もちょっとどうかなって。」

「そうだよな。あたいも、反対しないよ。」

因みに貴族からの依頼というのは気にしていない。

貴族が冒険者に無理強いをすれば、立場が悪くなるのは貴族の側だ。その程度には、ギルドはあの国で立場を持っている。

グラント王国としても、魔物を狩ることで国を守り支えている冒険者は敵に回したくはないはずだ。


そうなると、結局は私の問題ということか。

ゼルバギウスの家をどう思うか、と聞かれると答えるのは難しい。

かつてミリア師匠に答えたように、恨んではいない。

捨てられることも弟が生まれた時点で、予想し覚悟していた。

改めて自分の内心を探っても復讐したいなどの悪意は出てこないようだ。

これは、決して私が優しいとかそう言う類の話ではなく、

私にとってかつての家や両親に関わることが、ミリア師匠やユニ達と出会うための繋ぎのようなものだからだ。

両親は私を家族と認めなかったが、結局それはお互い様。

答えるのが難しいのは、結局なんとも思っていないからだ。


そうと気付けば私にも反対する理由はない。

どうせお互いに偶然の出会い。

目的地までの付き合いだ。

それにそうと思ってしまうなら、このレイという貴族はこちらのことも尊重してくれており、少なくとも物語によく出る嫌な貴族とは全く違うのが、この短い時間でも分かる。


「分かりました。その御依頼、謹んでお受け致します。」

「おお!そうか、それは心強い!」

「つきましては、私たちが乗ってきた馬車を待たせています。先にそれを呼びに行ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。こちらも怪我人の手当などが必要だからな。」

レイ様がそういうと、アイラから

「あ、それならあたいが魔法で治しますよ。」

との提案が。

「ほう。貴女は回復魔法が使えるのか。それはありがたい。よろしく頼む。お礼は報酬に上乗せさせてもらおう。」

そんなこんなで、私が馬車を呼びに行き、ユニ達はここに残って警備と治療を手伝うことになった。


私は急いで馬車に戻ると、簡単に状況を説明する。

トマさんは驚いていたが、護衛のことも納得してくれたようだ。

曰く、

「ま、人助けなら仕方ないよな。」

とのこと。


私たちがみんなのところに戻ると、そこには先程のメンバーに加えて。3人の人間が増えていた。女性が2人に、男性が1人。

1人はふわふわとしたブラウンの髪をした、女性というより少女という方が正しいと思われる可愛らしい人物だ。

もう1人の女性は、女性としては一部を除き平均的な体型で、服は見覚えのあるメイド服を着ている。その一部について明言はしないが、慎ましい、とだけ言っておこう。若いが、私達よりは多少年上かもしれない。

ちなみにメイド服は、おそらく地球のものと同じだ。いや、正直前世ではあまり興味がなかったので、多少の違いはあるかもしれないが、やはり機能的な服装を追求すれば似たような物になるのだろう。

さて、最後の1人は年配の男性だ。年配とはいえ背はピンと伸びており、年老いた、という印象はカケラもない。

それぞれの関係性は、この時点でなんとなく想像はつく。

「おお、ルークか。待ちわびたぞ。貴殿にも紹介しよう。こちらは私の妹のミリアーヌと、我が家の執事であるマルコに、メイドのマーサだ。」

やはり、か。

「ご紹介、ありがとうございます。私はルークと申しまして、短い間ですが護衛を務めさせて頂くことになりました。どうかよろしくお願い致します。」

「こちらこそよろしくお願いします。お兄様から、とてもお強い冒険者様と伺いました。そのような方と一緒ならとても心強いわ。」

そう言って微笑む姿は花がさくようだ。

ミリアーヌと言えば、地元ゼルバギウス領でも美しく心優しい令嬢として有名だが、噂も的外れではないかもしれない。

「ご紹介に預かりました。私はマルコと申しまして、レイ様、ミリアーヌ様のお世話を任されております。」

「同じくお二人の身の回りのお世話をさせて頂いているマーサと申します。」

そう言って2人は頭を下げた。

マーサはともかく、マルコの名前は覚えている。

確か実際に私を森に捨てるという貧乏くじを引いた人物だ。


……。彼を見てさえも特に何も感じないあたり、本当にあの家には未練がないということだろう。

それに……。いや、これ以上気にしても仕方がないか。


「互いの挨拶も終わったところでこれからの説明だが、ルーク達にはミリアーヌの護衛を頼みたい。具体的には、一緒の馬車に乗って貰おうと思う。」

「ミリアーヌ様と同じ馬車に、ですか?」

それは、いいのだろうか?

「ああ。心配する必要はない。多少狭くはなるかもしれないが、ミリアーヌとマルコとマーサに、貴殿ら4人が座れる程度の広さはある。」

いや、心配してるのはそこではないのだが。

「もちろん、本来なら馬車の周りの方が気も楽かもしれないが、先程のことでミリアーヌも怯えてしまってな。」

「お兄様!私は怖がってなどいませんわ!」

「まあ、本人はこう言っているが、安心させる為にも貴殿らに一緒にいて貰いたいのだ。」

「もう、お兄様ったら。とはいえ、皆様がご一緒なら嬉しいのは本当ですわ。なんでもグラント王国からここまで旅をなさって来られたそうで。よろしければ、お話を聞かせて頂きたいのです。」

なるほど。つまりはお嬢様の護衛という名の暇つぶし相手ということか。

それはそれで不安だが、彼らなら多少の無作法は大目に見てくれそうだし、雇われた身としてはこの程度のことに拒否権もないだろう。

「かしこまりました。では、そのようにさせて頂きたいと思います。」


ちなみにトマさんの馬車には、レイ様から予定通りの代金に色を付けた額が支払われここでお別れとなった。

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