閑話 幼馴染から見たルークという男2

テオの場合


ルークは、僕達双子にとって幼馴染であり、それ以上に特別な存在だ。


ユニからみたルークについては置いておくよ。それはいつか、ユニ自身から聞いてほしいからね。意外にもう誰かに話しているかもしれないけどさ。


じゃあ、僕についてだね。

僕、テオから見たルークという男は不思議な男だった。

初めてあったのは子どもの時、父さんと母さんがやっている道場で母さんから弓の指導を受けていた時だった。

そう、僕は母さんから弓を教わってね。

少しは自信があるよ。まあ、母さんには遠く及ばないけどさ。

で、その日も的に向けて狙いを定めていたら、ユニが来てね。

変なことを言うんだよ。

父さんが呼んでるのはいいとして、ラト先生がゴーレムを連れてきたって。


ラト先生はルークの師匠で凄い魔法使い。それに、僕やユニ、道場に通う子ども達の読み書きの先生だ。そして、初対面で僕が男だと分かってくれた最初の人でもある。


で、そんなラト先生がゴーレムを連れてきたらしい。確かに先生ならゴーレムも作れるかもしれないけど、だからって稽古中に呼び出されるのは不思議だった。

ユニと行ってみると、そこには本当にゴーレムがいた。真っ白なお面みたいだけど、目も口もない。顔以外は普通の男の子そっくりの何かだった。

正直に言えばその時は僕は怖くてね。ずっと、ユニの後ろに隠れていたよ。

それでも話を聞いて分かった。

彼はゴーレムじゃなくて、ラト先生の弟子でルークという同い年の男の子。

挨拶はほとんどユニがやってくれて、僕は返事をするだけだったけどね。

ちなみにこの時、ユニが僕は男の子だってルークに教えてくれて。驚いてたって事はやっぱりルークも勘違いしてたんだろうね。

うん、最初は分からなかったけど、今思い返してもあれは驚いていたね。

喋っていないルークの感情が分かるのは、ラト先生以外では僕とユニくらいだろうね。長い付き合いさ。


まあ、そんなこんなあってさ。同い年ってこともあって僕たちは一緒に育つ幼馴染になったんだ。

特にゼムスの相手をしてくれるのはルークぐらいでさ。これでもいいライバルなんだよ。

あれ?知らない?ゼムス。

ゼムスは昔。何代目かのゼルバギウス辺境伯様が考えて騎士に広められたのが始まりだそうでね。駒を使って互いに攻め合うゲームなんだけど、これがなかなか面白くてさ。ガインの街では毎回大会もあるんでよ。僕もルークも。未だに予選を突破したこともないけどね。

大きくなって冒険者にも同時になって、その後の依頼もずっと3人でやってきたし、多分これからもそのつもりだよ。


そして、冒険者になって1年ぐらいかな。あの事件があったんだ。事件って程でも無いんだけどね。

つまり、そう。初めて人を殺したんだ。盗賊をだけどね。

それは確か4回目くらいの護衛依頼だった。そんなポンポン遭遇するもんじゃ無いんだよ、盗賊は。

その日、僕達はガインの街からライって言う町まで向かう商人の護衛をしていたんだ。

大した距離はないけど、ガインの周りは魔物が多いからね。短い距離でも護衛を雇う人は多いんだ。

で、その帰り道ガインに戻る途中で丸太が落ちていてね。

なんだろうと馬車を止めたところを、待ち伏せしていた盗賊に狙われたんだ。

盗賊自体は全然強くなかった。

簡単に倒せたよ。僕は足や手を狙って、今日みたいにルークも魔法で動きを止めていた。

そう、その時の僕らはまだ盗賊を殺すのが怖くて、先送りにしようとしたんだ。

だけど、ここで問題が起きた。

ユニがね、本当に滅多にないんだけど手元が狂って、深い傷を負わせたんだ。僕が見ても助からないのは一目瞭然だったよ。

ユニは泣きそうにしていた。というか、既にちょっと涙を流してルークを見ていた。

そうしたらルークは盗賊の方に腕を出して、いつもの土魔法でユニが傷を負わせた盗賊も含めて、全員の頭を貫いたんだ。

「盗賊は殺すのが決まりだ。ユニは何も悪くない」ってね。


そんな話を僕はアイラにしたんだ。



少し時間は戻るけど、盗賊を退治してクーベルに戻った後、オタカルさんの馬車を修理する為の職人を呼ぶ途中、ユニがアイラと話す中で宿の話になった。

「アイラも同じ宿にしない?」

「いいのかい?ユニ」

「ん、もちろん。」

今日はあんなことがあったんだ。1人で宿に泊まるのは辛いだろう。

多分ユニがそう思って誘ったんだろうけど、僕も賛成だ。

「じゃあ、お願いしようかな。」


そしてその晩、僕らは2人部屋を2つ取り男女で別れた。

久しぶりに男2人になった僕らは、たわいも無い話をして過ごしていたんだけど、扉が開いてユニとアイラが入ってきたんだ。

「ルーク、お喋りがしたい。」

「そうか?構わないぞ。そこに座るか?」

「ううん。折角だから2人でお喋りしよ?私たちの部屋に来て。テオはアイラの相手を。」

そう言ってユニがルークの手を引っ張っていく。ちなみに単純な腕力は、僕達3人の中でユニが1番強い。

ルークが教えてくれた腕相撲では、現在ユニの1人勝ちで、ヨコヅナとか言っていた。

で、呆気にとられているうちに、部屋には僕とアイラの2人。

どうしようと思っていると、

「あの、実はユニにテオと話したいって言ったらこんな風になって。その、ごめんな。」

「いや、良いけれど。」

話、か。なんだろう?

「今日のこと、ちゃんと謝りたくて。」

「ああ、あのナイフのこと?良いんだよもう治して貰ったし。」

「でも、痛かっただろ?」

「そりゃ多少はね。けど大丈夫だから、そんなに気にしないで。それよりあの回復魔法、凄かったね。」

「テオ、ありがとう…う、うん。まあな。これだけは昔っから得意で先生にも褒められるんだ。」

「先生って魔法の?」

「それもだし、宣教師としてもだ。あたいは先生に憧れて宣教師になったんだ」

「へぇ、そうなんだ。」

「テオはなんで冒険者になったんだ?」

「僕の場合は親がそうだったってのもあるけど、ルークとユニもいたからかな。」

そんな風にお互い昔の話をするうちに、アイラから初めて盗賊にあった時の事を教えて欲しいと言われ、さっきの話になったというわけ。


「だから、僕たちも初めから平気に盗賊を殺してないさ。というか、今だって平気なわけじゃないよ。」

「そうだよね。」

「アイラはこれからどうするの?」

「とりあえず宣教師は続けるから、冒険者はやるけど、護衛依頼はどうしようかな?テオは、あたいに出来ると思うかい?」

「それは、僕には言えない。覚えることは多そうだけどね。ただ、冒険者としての基本を覚えれば、アイラはきっと人気の冒険者になると思うよ。」

「そ、そうかな?」

「そりゃそうだよ。あれだけの回復魔法が出来るんだもの。きっとアイラは僕達じゃ、想像もつかないほど沢山の人を救えると思うよ。」

「そっか。テオにそう言って貰えれば、自信が出てくるよ。テオはどうするんだ?」

「僕たちは旅をしてるんだ。世界を見てまわるね。」

「世界を?」

「そう。最初に言ったのはルークなんだけどね。何か大きな目的があるわけじゃ無いんだけど、みんなで冒険者をやりながら世界を旅している。」

「へぇ。世界を、か。あたいは考えたことも無かったよ。」

「僕も、ルークに言われるまで考えていなかった。ルークがいなければずっとガインの街にいただろうね。」

「そっか。ルークは凄いな。」

「そう、ルークは凄いんだ。強いし、頭もいいし。もちろん僕もユニもそれぞれ負けないものを持っている。だけど、やっぱり僕たちを引っ張ってくれるのはルークなんだ。」

ルーク、ユニを褒められるのは、自分が褒められるより嬉しいかも知れない。そう熱くなる僕の話を、アイラは馬鹿にすることなく笑って聞いていてくれた。

その後も僕たちはいろんな話をした。特に、アレクシア様の教えなんかについては時間を忘れてしまった。

アイラの話は面白く、分かりやすいもので、彼女が宣教師としても優れていることがよく分かった。


その後、ルークとユニが戻ってきたのは遅い時間だったけど、不思議と僕はまだまだ話し足りないと思ったのだ。


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