第24話 助けてはならない人


さてどうするか。

「テオはどう思う?私は連れて行っても構わないと思うが。」

テオが驚いた顔でこちらを見るが、すぐに私の考えを察してくれたらしい。

「分かった。ルークがいいなら、僕も反対しない。ならアイラ、すぐ行くよ。」

「あ、ありがとう。テオ、ルーク。」

まあ、私の考えといっても深いものではない。

ただ、アイラが何のつもりで付いてくるといったのかは分からないが、おそらく私の願った理由では無いだろう。


街道沿いの森中を元生き残りから聞いた通り歩くと、果たしてそこには忘れられた猟師小屋を修理、改築したであろう建物があった。外から見る限り、なかなかに悪くない出来だ。

聞き出した話では、彼らは普段近くの村に住んでおり、数ヶ月に一度盗賊業をしているそうだ。おそらくメンバーの中に大工や似た技術を持ったものがいたのだろう。


「あそこだな。まずは中の様子を見よう。」

そう言って、気配探知の魔法を伸ばす。

透視などが出来るわけではないが、建物の中に何人いるかは知ることが出来る。

ふむ、5人、か。盗賊から聞き出した通りだな。

しかもこの反応は。

2人を振り向き、

「5人だな。さて、どうする?」

「ルークの魔法で小屋ごと焼いちゃえば?」

テオが提案すると、アイラが慌てたように口を開く。

「そ、その前にさ。な、なんで盗賊は全員で来なかったの?人数が多い方が負けにくいでしょ?」

なるほど、フラフラだと思ったが、当たり前のことに気づける程度には、頭は動いているらしい。

実際、初めて人の死に触れれば、もっと動揺するものだ。

私たちもそうだった。

アイラの疑問にテオが答える。

「それが普通なんだけどね。なんでもくじ引きをしたんだって。で、残ってるのは当たりを引いた奴ら。」

「く、くじ引き?」

「要は遊び感覚なんだよ。人の物を盗むのも、殺すのも。」

「そんな!」

「声が大きい。で、アイラ。この事から分かる事はあるかい?」

「分かることって、盗賊の考える事なんてあたいには分からないよ。」

「まあそれが普通だよね。つまりはさ、あいつらは既に何回かやってるって事。何回か成功しているから、こんな風に馬鹿な行動も出来る。元々、盗賊なんて馬鹿ばっかりだけどね。」

「だけど、だからって殺さなくても!」

やはりそれが目的か。人死にを減らしたい。

宣教師としては、とても大事な考えなのだろう。

しかし、彼女の願いを聞くわけにはいかない。

テオが答えてくれる。

「それは出来ない。」

「な、なんでさ!?」

「決まりなのさ。盗賊は見つけたら、基本的に全て殺さないといけない。そうしないと、被害は無くならないからね。」

「それなら、せめて騎士団に引き渡すとか。」

「結局殺される。騎士団の仕事を増やすだけだよ。それに、下手に盗賊に情けをかければ、今度は僕たちが疑われる。何か繋がりでもあるんじゃないかってさ。」

「け、けど…」

そう言って俯向くアイラ。

辛くとも、冒険者として護衛依頼をうけたなら、少なくとも今は受け入れてもらうしかない。

とはいえ、

「テオ、焼くのは無しだ。森の中だぞ。」

「うん、分かってるよ。ごめん、ルーク。」

やはりアイラを煽るために言ったらしい。

「いや、気にしてない。今回は、いつだかやったように私が魔法で家の周りに壁を作るから、出口から出てきた奴らを弓矢で頼む。」

「いいよ。その時も思ったけど、よくあんなのに引っかかるよね。」

「まあ、訳のわからない状態になれば、人間とにかく逃げようとするものだからな。」


そう言って私は、足から地面に魔力を通す。

すると盗賊の家周囲の土が隆起して、扉部分以外を包む。

小さく一口食べた肉まんのような形になった。

中の人間は急に暗くなり驚いたのだろう。

家の中で慌てている気配が分かる。さっきも言ったが、人間こんな訳の分からないことをされればパニックにもなるだろう。

案の定盗賊共は、我先にと扉から出てきた。

全員が出た。そこをテオが弓矢で急所を貫いていく。

パニック状態の4人を殺し、残りも射るために矢をつがえた時、それは起きた。


「だ、駄目ー!!」

あろうことか、アイラがテオの腕にしがみついた。つがえたばかりの矢は明後日の方向に飛んでいく。

悪いことは重なるもので、最後の盗賊は、ナイフを持っていたらしく、さらに今の声でこちらを視認しナイフを投げてきた。

盗賊にしてはあまりに優れた動きだが、火事場の馬鹿力的なものなのか。

偶然だと信じたいが、ナイフは的確にテオを狙っている。

魔法に意識を向けていた私は咄嗟に動けない。


だが、テオも流石はカイゼル師匠の息子ということだ。咄嗟に手を動かし、急所を庇う。

ナイフがテオの左腕に刺さったところで、私はやっと動き出した。

盗賊を足元から串刺しにする。

これでこちらは終わったが、問題は終わらない。

「テオ、ごめん。テオ、テオ」

アイラがテオの服を掴み泣きじゃくる。パニック状態だ。

どうしたものかと思っていると、


パンッ!


音が響く。テオがアイラの頬をはたいた音だ。

「アイラ。なんで今叩かれたか分かる?」

「あたいのせいで、テオが、怪我したから。」

「そうだけど、そうじゃないよ。」

テオはアイラの顔を覗き込み、優しい声で語りかける。

「アイラ。僕もアレクシア教徒だ。君の、命を大切にしたい気持ちはよく分かる。でも同時に僕らは冒険者だ。この街道を歩く人たちのためにも彼らを殺す必要があったんだ。もしそれをしなければ、結局この道を行く人々がまた危険に会うかもしれないし、その人たちは身を守る術を持たないかもしれない。みんながみんな、護衛の冒険者を雇える訳じゃ無いからね。」

「…」

アイラは黙って、テオの言葉に耳を傾ける。

「分かるかい?アイラ。君は義務を放棄しようとした。そしてそのために、力のない人を危険に晒そうとしたんだ。」

「ご、ごめん。あたい、そんなこと考えてなくて。ただ、人が死ぬのが嫌で…」

「分かるよ。さっきも言ったけど、僕もアレクシア教徒だ。女神の愛子を殺したいとは思わない。でも、決めないと行けないんだ。助けるべき人と、助けてはならない人を。」

「テオ、ごめんなさい。」

アイラはそう言って謝った。

彼女の目にはまだ涙があったが、それでもその目は確かな意思があった。

これなら、もう問題はないに違いはない。

テオもそう思ったのだろう。

「うん、大丈夫だよ。」

そう言って笑う顔は今までに見たことないほど、綺麗で男前な顔だった。


さてこちらは良いとして。

「テオ、その腕。」

「そ、それあたいが。」

アイラが声を上げる。そう言えば、彼女は回復魔法の使い手とのことだった。

回復魔法は傷口に触れ続ける必要がある。

しかし、見たところ毒もなさそうだし、ここから馬車まで戻る間、魔法をかけて貰えば、自然治癒に任せられるところまで行くだろう。

テオもそう判断し、腕のナイフを抜きアイラの方を向ける。ナイフを抜く際、少し顔を歪めるが、それ以外には特になさそうだ。

「任せて。」

アイラはそういうとテオの傷口に手を触れた。

「女神アレクシアの癒しを」

そう呪文を唱えると、魔力が流れる。

そこで私は、彼女の魔力の質と量に気付いた。

こ、これは…!

そして数秒でアイラは手を離す。

そこには傷はなく、しかし服にある破れと血の跡が、そこに傷があったことを教えてくれている。

テオも驚いている。腕を上げ、握ったり開いたりしているが、あの様子ならなんの問題もないのだろう。

「アイラ、これは…」

テオが思わずという風に声を出す。

「あたいは確かに色々知らないしダメダメだけど、この回復魔法だけは自信があるんだ。」

そう言って彼女は笑う。

なるほど、この腕前ならC級も頷ける。むしろ彼女が冒険者としての言動を身につければ、すぐにB級になるだろう。

「と、とにかく、これで大丈夫だろう。私はあの家を最後に見てくるから、2人は馬車に戻って状況を伝えてくれ。戻るか進むかはオタカルさんに任せよう。」

そう言って2人を先に行かせた私は、盗賊の家に入り、先ほどの気配探知に引っかかった物を見つける。

それは水筒のような中に空洞のある円柱状の魔道具だった。

しかもこれは作動している。

筒から声が聞こえた。

「おい、どうしたんだ?おい!」

なるほど、これは遠隔地に声を届ける魔道具か。

しかもリアルタイムとは。

確かに無くはないが、かなり貴重なものだ。こんな盗賊が持っているのは不自然な程。

「まあ、それは後でいいか。」

「やっと返事したか!どうしたんだ!?」

「どうしたと聞かれれば、ここの奴らは全員死んだな。」

「死んだ!?誰だお前は!!」

「答える必要はない、んだが。場合によっては会うことになるかもな。」

「なっ!それはどうい」

そこで私は魔道具に魔力を流し、強制的に止める。

他人が使っている魔道具に魔力を流すと、時に悪影響もあるそうだが。

大丈夫だろう、どっちでも。というか、どうでも。

とりあえず魔道具を収納に入れ、用が済んだ私はみんなが待っている馬車に戻った。


「残念ですが、1度クーベルに戻りましょう。」

オタカルさんがそう判断した理由は、先の戦闘で馬車の車輪が破損した為だ。

あの時、私はシールドの魔法を使ったが人命優先のため、範囲を狭めた。その結果矢のいくつかは車輪に当たり、破損したようだ。

「元々古くなっていましたからな。チェルミに戻ったら新調しようと思っていたのです。運がなかったと諦めるしかありませんよ。」

「では、クーベルの街に戻るとして、応急手当をしておきましょう。」

車輪のことだ。私は壊れていない車輪を見ながら、土を固めて車輪を作る。かなり魔力を込めて作ったので、数時間なら大丈夫だろう。

こういう事が出来るから、土の魔法は便利だ。

もちろん雨が降れば何の役にも立たないので、街に行くまでの応急処置だ。

「何とまあ、魔法とは凄いものですね。」

オタカルさんに感心されたが、ユニが説明している。

「ん。だけど、うちのルークは特別、です。他の魔法使いに、同じことを、求めないであげて、ください。」

「そうなのですか?」

これは、ミリア師匠にも言われている。

私達が知っている魔法使いは、私以外は師匠しかいないので、実感は無いのだが、

「そもそも魔法使いは得意不得意が激しいんです。ですから、ユニの言うようにある魔法使いに出来たからと言って、他の魔法使いには出来ないことは多いのですよ。」

私も師匠に聞いた話を捕捉する。

そんなこんなで昼頃、私たちはクーベルの街に戻ってくるのだった。


その後、オタカルさんを門に残し、事情を説明する為私はギルドへ、残り3人は馬車の修理の為職人を呼びに行く。

用事が終われば、ひとまず朝まで使った宿で落ち合う約束をした。


「それは災難でしたね。盗賊退治へのご協力、ありがとうございました。」

私が触れている魔道具を確認し、受付がそう言った。

これは、小説で良くある嘘を見抜く魔道具らしい。原理はよく分からないが、さっきも言ったように魔法使いは得手不得手が激しく、私には魔道具関連の才能は無かったので仕様がない。


用事を済ませ宿に向かうと、意外な人物らにあった。人形劇のディックとベラだ。

向こうもこちらに気付く。

「おお、ルークの兄さん。まだクーベルにいたんだな。」

「ええ。それより少し元気が無いようですが、どうされました?」

彼らの雰囲気から何となく思い尋ねると、

「実はオーロフが急に倒れてね。今はトリーネが見てるけど、あの子も丈夫な訳じゃないし。」

「そうだ。良かったら、ルークの兄さんも見舞いに行ってやってくれないか?忙しければ良いんだけど、兄さんならあの2人の気分転換をさせてやれるかも知れないし。」

「ちょっとディック!?」

「だって、トリーネはずっと看病しっぱなしだし、オーロフも逆に気を使ってたろ?それで俺たちも出てきたじゃん。ルークの兄さんからもトリーネに言ってもらえたら、少しは休むんじゃないかな。」

「それはそうかも知れないけど。」

「私は構いませんよ。ちょうど時間も空いてしまったところなので。」

「ありがとう!助かるよ。」

「いいの?確かにありがたいけど、こないだといい私達に付き合わせてばかりで悪いわね。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。」

そうして、私は彼らの普段使っていると言うアパートに向かう。

地球でいうルームシェアのようにして暮らしているらしい。

私は教わった通りの場所に着くと、すぐにオーロフが横になっているという部屋に行く。

中には確かに人の気配があった。

ノックをすると、女性の声がする。

「どなたですか?」

「トリーネさんですか?私はルークです。覚えてらっしゃいますか?」

すると、トリーネが扉を開けてくれる。

「まあまあ、まさかルーク様がいらっしゃるとは。もしかしてディックとベラに何か言われましたか?」

「ええ、良ければお見舞いを、と。それにトリーネさんも休むように伝えるよう頼まれています。」

「それは俺も賛成だ。」

奥からオーロフの声がする。オーロフは、ベッドに横になっていた。

「ルーク、来てくれてありがとう。それにトリーネももう大丈夫だ。少し、気分転換に散歩でもするといい。」

「ですが…」

「安心してください。折角来たのですから、少し私もいますよ。私から見てもトリーネさんは少し疲れているようだ」

「そう言う事でしたら、お言葉に甘えて少し食材の買い物に行こうと思います。オーロフ、ちゃんと休んでくださいね。」

「ああ、大丈夫だ。」

「では、トリーネさん。いってらっしゃい。」

そう言って私たちはトリーネを見送った。


「改めてルークが来てくれて助かったありがとう。」

「いえいえ、お気になさらずに。」

「いや、俺もトリーネが心配だったからな。全く、珍しく倒れたら心配しすぎでな。こんなのはただ疲れただけさ。寝てれば治る。」

「いや、これは体内の魔力の乱れによるものだ。まあ、確かに寝てれば治るがね。」

「どうしたんだルーク。それに口調も…」

そこで私は、例の小屋で拾った魔道具を出す。ちなみにこの部屋に同じ魔道具があることは探知の魔法で確認済みだ。

「それは!?じゃあ、あの声はルークだったのか!」

「ああ、そうだ。もう一度言うが、お前の仲間はみんな殺してある。」

「俺のことはそいつらに聞いたのか?」

「いや、聞く前に死んだ。それに別にオーロフのことも探していた訳じゃない。ここで同じ魔道具の反応がなければ、そのままだったな。」

「それはなんというか、運が悪かったんだな。」

「悪いのは日頃の行いだろう?」

「ふん、そうだな。」

オーロフは誤魔化したり抵抗する気力も無いようで、こちらの質問に全て答えた。


経緯はこうだ。

まずオーロフはこの町ではなく盗賊達と同じ村の出身らしい。

随分昔、オーロフが村に住んでいた頃、ある流れの魔法使いがオーロフの作った人形を気に入り、この魔道具と交換した。

村の中では、特に使い道が無かったが、ある日オーロフが村から出てクーベルに住むと話すと、年の近い仲間内の悪知恵の働く男が、盗賊をやろうと提案した。

つまり、オーロフは街でカモを見つけたら例の魔道具で連絡し、村に住む仲間が殺して金にする。

初めは断り、街に行ってからも気にしなかったが、劇団に所属していない人形師の生活は苦しく、すぐにその日の食事にも事欠くようになった。

そして、運悪く明日1人で街道に向かうという旅人と知り合った事、正直この時まで忘れていた魔道具の片方が村の仲間たちのもとにあるのを思い出した事、いくつかの運の悪さと、彼の意志の弱さが重なり悲劇は起きた。

結局その時の収入に目がくらみ、オーロフ達は1人の旅人を見つけては盗賊行為を繰り返す。

今回、アイラが商人の護衛をすると酒場で知った彼は、これなら今までより大きく稼げると思い、仲間達に連絡した。

後は私達の知る通り、だ。


「ふん、なるほどな。」

「そういう事だ。ルークは俺を殺すのか?」

「言っただろう。ここに来たのは偶然だと。私には、興味がない。ただ、魔道具は頂いていくぞ。」

「分かった、これだ。」

そう言って、魔道具の片割れを渡す。オーロフの顔はどこかスッキリしている。

「確かに殺しはしないが、気が変わった。お灸ぐらいは据えておこう。」

「お灸?」

その問いかけには答えず、私は仮面を外す。

そこには、ご存知の吐き気を催す私の顔がある。

オーロフは私の顔を見ると恐怖に身をすくませ、すぐに吐き出した。

部屋に不快な音と匂いが広がる。

私は喋る事も出来ないオーロフに近付きその耳元で囁く。

「今回は見逃してやる。しかし、次はない。化け物に喧嘩を売って、人間のように死ねるとは思わない事だ。」

オーロフはただ、壊れた人形のように頷いていた。

「別にこの顔のことを黙っている必要はない。好きにしろ。」

まあ、吹聴したいものでもないだろうけどな。

いずれディック達も戻るだろう。

私は仮面を付け直し、部屋を出るのだった。



その後は特に何もない。

手に入れた魔道具に関しては、盗賊討伐の戦利品ということになる。

私が管理することになったが、みんな特に興味なさそうだった。

翌日、馬車の修理を終えた私たちは、クーベルの街を出発し、今度こそ関所に到着する。


紆余曲折あった出国も、その時になってみれば、あっさりしたものだった。


なお、その後の劇団『女神の戯れ』の様子は分からない。

その後も活動を続けたかもしれないし、解散したかもしれない。

ただ、初めてクーベルに着いたあの日に観た人形劇が面白かったのは確かだ。

私としては、いつかまた他の演目も見てみたいものだ、と心の片隅で思うのだった。



第1章『グラント王国編』完



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