第6話 ワトソンの有無
久方ぶりの更新となります。
なのに、倒叙推理そのものとはあまり関係のない話になりますが、ご容赦を。
・「刑事コロンボ」と「古畑任三郎」それぞれのシリーズで、最も顕著な違いは何か?
こう問われた倒叙推理ファンの内の何割か――少なくとも20パーセントぐらい?――は、確実にこう答えるのではないかと想像しています。
:コロンボには、今泉(もしくは西園寺)に該当する役柄がない。
はい。確かにその通りと言っていい(ですよね?)。
古畑には、必ずと言っていいくらいに今泉あるいは西園寺刑事がセットで登場して、それなりに活躍します。刑事としては今泉よりも西園寺の方が優秀でしょうけど、事件解決へのきっかけを(偶然にも)提示するのは、今泉の方が多いかな?
一方、コロンボには部下や相棒がおらず、単独行動が目立ちます。もちろん部下がいないは言いすぎで、正確には、固定した名前のあるレギュラーとしての部下がいない、となりましょうか。
シリーズ諸作を紐解くと、時々の必要に応じて、部下や同僚の刑事と会話し、捜査している。その中には、この刑事はレギュラー部下にしてよかったんじゃないの?というキャラクターもいますよね。代表格は、ウィルソン刑事かと。『悪の温室』で初登場し、コロンボ的でない科学捜査を受け持ったあと、『魔術師の幻想』で再登場。ちょっと間が空きすぎだけどこれを機にレギュラーかと期待?させておいて、結局以降の登場はなし。
もう一人、クレイマー刑事はウィルソン刑事以上にちょくちょく登場しており、馴染み深いんですが、あろうことか他の役柄でも「コロンボ」に繰り返し登場しているため、扱いにくい。製作サイドに、クレイマー刑事をレギュラーとして定着させようという強い意図はなかったんだろうなと想像しちゃいます。
ここで考えたくなるのが、次。
・倒叙推理では、探偵役の人物に相棒的存在がいるのが普通なのか、いないのが普通なのか。
倒叙推理の本質に関係あるのかないのか分かりませんが、とりあえず既存の代表的な作品を振り返ってみますと――。
倒叙推理の代名詞的作品で、このジャンルを世界的に有名にした「コロンボ」シリーズでいないのだから、いないのが普通なんだろう……と思ってしまいそうですが、実際には逆のようです。
相棒的存在がいるのは「古畑」シリーズの他に、この不定期連載で取り上げた「21休さん」や「福家警部補」両シリーズでも、相棒と言える存在が配置されています。
そして世界最初の倒叙推理小説とされる「歌う白骨」においても、探偵役の科学者ソーンダイク博士には、記述者である医者や助手が付いています。
かような状況を鑑みると、さっきの設問はこう変えるべきでしょう。
・「刑事コロンボ」では何故、相棒役を配置しなかったのか。
多分、理由は色々あると思うんです。以下、想像ですが。
1.コロンボのキャラクターを際立たせるために、余計なサブキャラは排除した。
2.普通の刑事とはひと味違うコロンボが、部下と常に一緒に行動していたら普通っぽく見える。
3.相棒役がいると、何故かギャグシーンが増える。コロンボ作品は全体的にユーモアがそこはかとなく漂うのが理想的で、ギャグは抑えたい。
この三つ目については、「古畑」シリーズは言うに及びませんが、「21休さん」や「福家警部補」でも探偵役と相棒役の掛け合いによるギャグシーンは結構あったと記憶しています。
順序が逆になりますが、二つ目は、コロンボを単独で動かしたいという欲求が作り手側にあったんじゃないかいう気がします。学校の敷地内やテレビスタジオ内で、一見冴えない中年男性がもぞもぞとなんか動いている。何者だと思ったら警察の人間で、しかも徐々に優秀だと判明する。この流れをやりたいとすれば、部下や相棒がいてはちょっと面倒だなと分かります。相棒は毎回、コロンボを見失わねばならないのだから。そんな相棒って、相当まぬけな設定にしないといけないんじゃないでしょうか(笑)。
一つ目に関しては、「コロンボ」が初めて作られた当時は、この刑事のキャラクターは特異で、視聴者にすんなりと受け入れてもらえるかどうか見通しづらかったのかもしれません。物語のスタイル自体が、倒叙推理って何?というぐらいマイナーな物だったと思われますから、作品として売れることを示すために、コロンボのキャラクターを前面に押し出す戦略を取ったのではないかと推測します。そして倒叙推理という物が定着した現代では、探偵役一人のキャラクターに頼る必要はなくなり、バラエティ豊かなレギュラーメンバーの設定が可能になった、のかもしれません。
想像ばかりで決定的な論拠に欠けますが、代表的倒叙推理の探偵役であるコロンボに相棒的存在がいないのは時代の要請だった、と言える余地はあると思います。
だったら現代は倒叙推理を書くに当たって、探偵役はどんなキャラクターにしてもいいんだ! 相棒の存在もしかり!と言えれば楽です。
しかし、第二回でつらつらと書き連ねた通り、倒叙推理の魅力を最も発揮できる探偵役は、コロンボタイプのキャラクターだというのは多分揺るぎない。
そこに今泉という相棒役を付加して、成功を収めたのが「古畑」。ただし、今泉を配置したことによる弊害もあったと、個人的には考えます。
これらの作品を乗り越えるか、異なる方向の面白さを出せる探偵役及び相棒役の設定となると頂上の見えない山のように思えます。が、探偵役と相棒役の個性がぶつかり合って、科学反応的に新しい物が生まれるかもしれないという期待感もあります。
そんなこんなで、私感としては、「コロンボ」や「古畑」等のキャラクター設定に敬意を払いつつ、探偵役と相棒役の新たな組み合わせを模索するチャレンジはどんどんやるべき、といったところになります。少なくとも倒叙推理向けに探偵役を単体で考えるよりは、有望ではないかと。
それでは。
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