第2話 コロンボ警部や古畑任三郎に何を見てきたか

 本文に入る前に、関係ない話になりますが。

 前回分を家族に見せたところ、エッセイではなく、創作論に分類されるんと違う?との指摘を受けました。

 言われてみればそんな気がしないでもない。けど、論と呼べるほど系統立てていないし、まとまってもいない自覚がありますし、本作はエッセイということで通しますね。



 二回目です。

 前回の末尾に記したように、探偵役のキャラクターについて、つらつらと。


 まず、紛らわしさを払拭するために簡単な定義づけを。

 ここでいう探偵役とは、職業としての探偵や本格ミステリに登場するいかにもな素人名探偵のみを指し示すものではありません。刑事も制服警官も探偵役です。

 要するに、謎を解き明かそうとする役割を担った人物のこと。

 これにもまた例外(実は探偵が犯人とか)はありますが、このエッセイはシリーズ探偵を念頭に書いている文章ですから、例外はないということにして支障はないでしょう。

 ……最終回で殺人に手を染める探偵もいますが。


 ようやく本題です。

 これまで数多く作られてきた倒叙推理、それに登場する探偵役を思い描くと、あることに気が付きます。意外とバリエーションが少ないのではないか?と。

 メジャーどころの二人、コロンボ警部と古畑任三郎を見てみます。とぼけた感じの中年男性で、優秀さをおくびにも出さないという共通項で括れるでしょう。


 あまりメジャーでない倒叙推理漫画「探偵ボーズ21休さん」の探偵役・21代目一休にしても、中年男性ではなく中学二年男子という違いはあるものの、とぼけたキャラクターなのは一緒です。優秀さも犯人を追い詰める際に垣間見せるだけ。


 何故、こんなにも似通っているのか。

 日本では、「コロンボ」シリーズの人気が非常に高く根強いが故、後発作品が意識的か無意識にかは問わず、似るということはあるでしょう。ただ、似たようなキャラ設定にするのには、それだけでは済まないメリットがあるはず。

 ちょっと立ち止まって考えると、答は明らかと言えるかもしれません。


 前回、倒叙推理の魅力の一つに、探偵役と犯人との間で繰り広げられる丁々発止のやり取りがある、という旨を記しました。

 その魅力を発揮しやすいキャラクターが、とぼけた味わいの探偵ということになるのではないか。

 犯人はそんな探偵と初めて会った瞬間、相手を見下し、脇が甘くなる。こんなへぼ刑事(探偵)が、私の完璧な犯罪計画を崩せるはずがない、と。その態度が犯人を饒舌にし、探偵役相手にぺらぺらと喋る、探偵役のしつこい訪問にも付き合う。

 これがもし仮に、見た目からして頭が切れそうな、言葉の節々に優秀さがにじみ出るタイプの探偵役が出て来たらどうなるか。

 犯人はいくら頭のよい人物だとしても、殺人は初めてです(という設定にせざるを得ないはず)。そんな殺人初心者の前に、優秀そうな探偵役が現れれば、警戒して口がかたくなる。言動はより慎重になり、ぼろを出さなくなる。しまいには、探偵役と一切会話しなくなるかもしれない。

 そんなことでは、倒叙推理の魅力が出せません。

 とぼけた味の探偵役は、倒叙推理という形式の魅力を発揮しやすくするフォーマットだと言えるのではないでしょうか。


※以下、このタイプをコロンボ型、コロンボタイプの探偵役と便宜上呼ぶことにします。


 コロンボ型探偵役は確かに倒叙推理との相性がよいようです。が、このタイプを金科玉条、最高のものとして祭り上げているだけでは、倒叙推理は似通ったものばかり作られることになりかねません。

 他のキャラクター設定をした探偵役でも、倒叙推理の魅力を発揮しやすくなるものがあるのではないか。

 そもそもコロンボタイプの存在があまりに偉大であるため、それ以外のタイプは倒叙推理において、ほとんど試されてこなかったのではないか。裏を返せば、未開拓の大地がいっぱいに広がっているのでは?

 そんな未開の地に金脈を見付けたいなあ、という目論見があったりなかったり。


 と言っても、新キャラで倒叙推理を書いて試してみる余裕も能力も乏しいので、まずは思い付くままにキャラクター設定をしてみます。


押しが強い探偵

:弁が立つ上に巨躯から醸し出す圧迫感が強い探偵。犯人がかわいそうに見えるくらいとにかく追い込みまくる。多少の脱法行為も厭わない。


盲目探偵

:かつては優秀な刑事だったが視力を失って退職。目の見えない探偵を前に、犯人は油断する。※同様に、他のハンディキャップを個性とした探偵役とそれを見くびる犯人という構図は作りやすいし、犯人の人間性を悪く描ける。


ハーレム探偵

:被疑者から好かれる体質の探偵。我も我もと捕まりたがるため、いたずらに容疑者が増えてしまう。でも、犯人も確実に引き寄せる。


視える探偵

:担当した事件の犯人が誰なのかということだけ分かる能力を持つ。証拠や犯行方法を突き止めねばならない。読者とほぼ同じ立場で捜査に当たることになる。※現実味を保ちたいのであれば、告戒部屋で懺悔を聞く神父を探偵役にするのも手。


カリスマ探偵団

:国民的大女優や国民的アイドルなどで密かに結成された探偵団。容疑者の好みに合わせたメンバーを派遣し、あっさり自白させる。


カメレオン探偵

:演技派、性格俳優の探偵。相手に合わせてキャラを変える。ある意味チート。


ツンデレ探偵

:探偵役と犯人の関係が、明智小五郎と怪人二十面相もしくは銭形警部とルパン三世のような関係であれば、ツンデレ探偵が合うかも。毎回同じ人物が殺人犯というのはきついので、犯人側に変装の名人属性を付加せねばならないでしょうが。



 うーん。挙げていく内に、徒労感が段々増している気がする……。“倒叙推理にこういうキャラクターの探偵を起用すればまあ面白くなるかもしれない。でもね、コロンボタイプにはかなわないでしょ”という。

 探偵役と犯人とのやり取りこそが倒叙推理の魅力の大きな一つだ!という考えに執着する限り、コロンボタイプがやはり一番だと、逆に証明してしまいそうです。私は思い付けていませんが、「いいや、こういう設定の探偵なら、コロンボタイプの探偵役にも負けないし、倒叙推理の面白さを発揮できる!」という方がいるかもしれません。もしいらっしゃれば、教えてくださいとは言いません。そのキャラクターを探偵役に倒叙推理を書いて、ぜひともご披露を。ほんと、切に願います。


 ここで終わると、昔ながら倒叙推理を褒め称えただけになり、何ともしまりがない。

 そこで、探偵役と犯人とのやり取りを倒叙推理の眼目とすることに拘泥しない、と決めた上で、探偵役を考えてみました。


安楽椅子探偵

:犯人とやり取りしないのなら動かなくていいんじゃない? それって安楽椅子探偵と同じじゃない?という連想から。


弱気探偵

:若手刑事をイメージ。犯人に翻弄されっぱなし。退職間際の老刑事が陰から密かに支えてくれて、どうにかこうにか解決に至る。


王様探偵

:王の座を長男に譲って暇を持て余す元王様。暇潰しにと捜査に興味を持ち、やりたがるが、容疑者が恐れ入ってまともなやり取りが成り立たない。使いの者をいちいち派遣して話を聴く。



 今はこれが精一杯。コロンボタイプには及ばないにしても、方向性の異なる面白味を出せる余地はあるかな?



 今回はここまでです。

 次は、順序としては、犯人のキャラクターを見ていくのがセオリーかもしれませんが、大した分量にならない気が……。下手したら、職業を列挙して終わりってことにも。

 それだとつまらなくなりそうですし、予定変更し、別の切り口を探しています。


 それでは。

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