倒叙推理の書き方を考えてみる

小石原淳

第1話 「コロンボ」や「古畑」に何を見てきたか

 タイトル通りの内容を、つらつらと気軽に書いていこうと考えています。

 が。

 最初に、倒叙推理ってなんぞや?という向きもあるかもしれないので、ざっくり説明しますと、


1.物語の序盤から犯人が読者・視聴者(以下、読者)に明らかにされ、


2.その犯人がなした犯行がいかにして暴かれるか、

   もしくは

  犯人が計画した犯行がいかにして食い止められるかを、


3.読者にも推測可能なように伏線を敷きつつ、


 描いた物語……ということになると思います。例外もありますが、大枠はこれで大丈夫でしょう。



 具体的にシリーズ作品名を挙げるなら、漫画になりますが、『探偵ボーズ21休さん』(原作:新徳丸 作画:三浦とりの 秋田書店)とか。

 小説では、オースチン・フリーマンの短編集『歌う白骨』(中央公論社など)が嚆矢とされています。

 また、映像作品としては、日本では超の字が付くほど有名で人気を博したテレビドラマシリーズが、内外に一つずつあります。

 倒叙推理が受ける素地が、日本には(にも)あるのかもしれません。



 そんな倒叙推理を書くにはどうすればいいか。

 私見では、次の三点を決めて取り掛かれば、とりあえず倒叙推理の体をなした物語が書けるのではないかと考えています。


※ここでは作中で扱う事件を殺人に限定しています。あしからず。



一.殺人を自殺や病死、事故死などの非・他殺に偽装する場合、非・他殺であることを疑うきっかけがある。


 事件の幕が切って落とされ、探偵役による捜査がスタートするには当然、殺人だと認識されなければなりません。

 事件が端から殺人であると分かっているのなら、何の問題もない。この項目は飛ばしていいです。

 自殺や病死、事故死など、一見殺人とは思えない死に様を呈していたのであれば、探偵役が「いや、これはもしかしたら他殺じゃないか?」と考える過程が必要となります。

 ではどんなきっかけがあるのか。例を挙げてみますと、


・自殺した人が目覚まし時計をセットしている、ライブのチケットを予約している、車のガソリンを満タンにしている等


・夜七時頃に病死したはずなのに、家屋の電灯が全てオフ状態


・コンタクトレンズをはめている上に眼鏡を掛けていた



 他によくあるのは、事故死した日に限って被害者は普段と異なる行動を取り、それが死につながった、というもの。回り道をする、料理を作る、銭湯に行くなど。上述の例よりは弱いですが、一応、事故死が実は他殺なんじゃないかと疑うきっかけにはなり得ます。




二.犯人に疑いを向けるきっかけになる、ちょっと捻った理由がある。


 またきっかけです。


 基本的に、探偵役と犯人との間で繰り広げられる丁々発止のやり取りが、倒叙推理の魅力の一つと言えます。それを展開するには、探偵役が犯人に疑いを掛けなければ始まりません。


 作例は……


・知り合いの死を聞かされたとき、「いつどこでどう亡くなったんですか?」という意味の質問をしない


・同じテーブルで一緒に食事した人物が毒死したのに、自身の心配を全くしない


・社長の死をまだ知らないはずなのに、定時連絡をしなかった秘書



 注意したいのは、このきっかけを動機に求めるのは、案外失敗しやすいという点。

 常日頃から被害者を殺してやると口走っていたとか、遺産相続で利益を受けるとか、被害者を排除することで有力者と結婚できるといった、動機に関する理由は序盤から明々白々で、面白味を欠く場合が多いので。


 さらに補足すると、「犯人は被害者の旧い遺言書を信じて殺害するも、より新しい遺言書が出て来て、捜査側からすれば動機が消滅する」なんてのもあり。それなりに複雑にすれば、動機でも面白味を演出できる可能性はありそうです。




三.探偵役が犯人の抵抗を封じる決定的な決め手がある


 倒叙推理の一番の肝はこれ、という考え方が主流だと思います。私も同意見です。

 それ故に先の一、二に比べると案出するのが難しく、独自色を求められがちな項目であると言えましょう。


 作例を挙げるのは、有名作品や傑作のネタばらしにならないように配慮しつつ挙例するのは困難なのですが、なるべく頑張ってみますと……


・全ての指紋を拭き取ったつもりだったが、家電製品で使用中の乾電池だけ拭き忘れていた


・犯人Aか友人Bの二人まで容疑者を絞り込めたあと、Bが高所恐怖症だと分かり、犯行現場に行くことすら不可能だと判明する


・犯行推定時刻に殺害現場の家にいる姿を、某グーグルの車に窓ガラス越しに撮影されていた



 その他、著名な例で多数使われているのが、主犯格を落とすのは厳しいので、共犯者を追い詰めるというパターン。

 ちなみに、そのパターン、私はあまり好きじゃありません。ただ、読者に対して主犯格は明らかにしておくが、共犯者は伏せたまま描いていき、終盤になって共犯者が突き止められる、という流れの倒叙推理が描けたら、ちょっと変わった面白さを出せるかもしれないなと夢想しています。


 それはさておき、繰り返しになりますが、これまでに記した三つのポイントを最初にしっかり設定した上で書き進めれば、とりあえず倒叙推理の形をした物語になります、多分。

 出来不出来を左右するのは、これまた繰り返しになってすみません、ポイントの三での工夫。さらには、探偵役のキャラクター、犯人役のキャラクターも大きな要素になるはずです。


 今回はここまで。

 もし続きを書くとしたら、倒叙推理における探偵役のキャラクターについて、うだうだと考えてみたいと思います。


 それでは。

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