??.Aina's Brain Is A Cockroach

ーReminiscence? Delusion? No.Illuminati.


「アイナを移動させろ」

「でも今、大暴れしてますよ」

「これ持って注射しろ」

「分かりました」

イオリは助手に睡眠剤入りの注射器を持たせた。閉鎖病棟に入るとアイナの叫び声が聞こえた。アイナが収容されている部屋に行くと、鼓膜が破れそうだった。鍵を開け、アイナを抑えた。

「おい、うるせえよ。黙れ」

「やめろ!やめろ!殺すぞ!」

細い腕のわりに、力が強くて吹き飛ばされそうだ。こちらが吹き飛ばし馬乗りになると、アイナの腕に注射器を突き刺した。

「いたぃ!痛い!痛い!」

「ったくうるせえな、黙りゃいいもんを」

「やめ、ろ」

即効性の睡眠剤なので、アイナは一瞬にして深い眠りに落ちていった。注射器をポケットにしまうと、廊下に出た。収納されているストレッチャーを取り出した。アイナの拘束具を外す。睡眠剤が効いているとはいえ、刺激を与えたら目覚めてしまうかもしれないので、慎重にストレッチャーに寝かせた。ゴロゴロと押して、イオリのもとへ戻った。

「暴れたか?」

「ええ、意外と力強くて」

「そうか。じゃあ、行くぞ」

昏睡状態のアイナと、二人が向かったのは、怪しげな雰囲気を醸し出す、真っ白な研究所だ。真四角の部屋で、わけの分からない機械がずらりと並んでいる。中央には大きな拘束椅子があって、頭部にはヘルメットのような被り物、左右からはプラスチックの蛇腹状パイプが伸びていた。パイプの先端には、四角い透明の箱に繋がれていた。

「アイナを座らせろ」

「了解です」

助手がアイナを抱き上げると、身体は完全に脱力して、しかも、冷えていて、死んでいるようだった。

「先生、どんだけ強い睡眠剤入れたんですか?」

「到底患者には処方できないやつだな」

「そうですか...死体と変わらないくらいですよ」

「そのくらいにしないとダメだろ?」

これから行うことはイオリと助手しか知らない。重度の疾患患者を診ていたころ。何度か、統合失調症患者にやってみたことがある。あまりにもリスクが大きいのだが、効果は絶大だった。助手とはその頃からの付き合いだ。アイナを抱いている助手は、拘束椅子に座らせた。首、胸、手、足、それぞれを金具で止めた。

「それ、やる必要あります?」

「俺の趣味を邪魔するな」

「はいはい。分かりましたよ」

イオリは黒いマニキュアを持ってくると、しゃがんで、アイナの不健康で臭い爪に、小さな筆で塗った。なんの意味もない、ただの趣味だ。助手は趣味が悪いと呆れながら、温室庫の鍵を探していた。細い鍵を手に取ると、マニキュアを塗り終えて満足気な顔をするイオリに渡した。

「ああ。どうも」

「先生。早くしないとアイナが起きますよ」

「分かってるから。急がすな」

イオリはしゃがみ直すと、アイナの黒い爪に息を吹きかけた。逆流してきた風が独特な匂いの臭みを鼻に持ってきた。

「失禁するだろうから、やっといて。俺持ってくるから」

「え?僕がですか?」

「そうだ、お前がだ」

とてもやりたくない作業だが、先生が言うなら仕方ない。助手は渋々、様々な小物を常備してるポケットから小バサミを出した。そして、アイナの股間部分の布に切り込みを入れた。陰茎を出すと、特殊な収尿器を持ってきて、先端を亀頭につけた。なんで僕がこんな気狂いのを、と絶望した。一方イオリは、鍵を使い、温室庫を開けた。言葉にするのが不可能。アイナの爪より独特すぎる匂いが漂っていた。しかし、不快じゃない。やはり、生まれつき埋め込まれているから慣れているのだろうか。透明の棚にズラズラ並べられているのは、人間の、脳みそ、だった。イオリにしかわからない方法で脳みそを保管していた。助手も入らせてもらえない。鍵を握ることは許されているけど、もし入ったら、この棚に並べられてしまうだろう。イオリは良さそうな脳みそを選んでいた。脳の前には小さなプレートに、たったひとつ、病的な性格や言動のみ記されていた。棚に鼻をくっつけて匂いを嗅ぎながら、下目でプレートを見ていた。

「よし、こいつだ」

プレートには「日常生活ではまともで優しい人格。しかし、追いかけていた獲物を目の前にすると、着実に人格を失う。」典型的なサイコパスだった人間の脳みそを選んだ。一区切りの扉を開けると、透明の箱に包まれている脳みそを取り出した。名も、顔も、年齢も、声も、分からない、ただ、サイコパスであったという脳みそ。見る限り20代前半だろう。温室庫を出て鍵を閉めると、ワゴンに脳を乗せた。そばでアイナを監視してた助手のもとに押していく。

「どんな脳なんですか?」

「典型的なサイコパスじゃないか?」

「適当ですね。自分の息子だというのにいいんですか」

「適当じゃないぞ。ちゃんと嗅ぎ分けた」

助手はイオリの変態性に溜息をつくと、パイプの配線が繋がる機械の前に立った。そして、イオリは、アイナの頭にヘルメットを装着した。少し力を入れると、バキッと音がした。

「押しても大丈夫ですか?」

「ああ」

イオリの返答とともに、大きな赤いボタンを指の腹で押し込んだ。鼓膜が破れそうなくらい機械音が響くと、アイナの脳がジュルジュルと吸い取られていった。透明のパイプに、流れていく赤ピンク色のドロドロした物体が見えた

「あっあ、あっあ、あっあああ、あああっ、ヴっヴぅぅっ、ああああっ、ああああっ、ああヴっヴっヴううううう」

拘束され眠っているはずのアイナが、唸り声を上げて大きく痙攣し始めた。

「強くしますか?」

「いや、そのままで」

アイナは目を閉じたまま口を大きく開き、ヨダレを垂らした。収尿器にジョボジョボと尿が溜まっていく。

「あっぁっあっうううう、ああああ、うう、あぁっああ、ああ」

「ああ、自分の息子が脳○される快感よ」

「...頭おかしい」

助手は機械音に紛れて呟いた。それをよそにイオリは痙攣するアイナの前に躓いて、

「ああ...神よ...」

と。手を上げていた。

助手は、温室庫から取り出した脳をぐちゃぐちゃに潰し、別の二つの透明の箱に半分半分で注ぎ込んだ。

アイナの脳が一通り吸い取られる。毒々と波打つ脳が入った透明の箱をパイプから外し、黒い袋が貼られているゴミ箱に捨てた。

「アイナの脳にはゴキブリがいたのか。」

「ええ?本当ですか?」

「ほら、見ろ。ゴキブリとその子供、何百匹が...」

珍しくイオリが驚いた顔をしたので、助手が覗いた。

「ヴゥ...」

両方の透明な箱に、ゴキブリの成虫が泳いでいた。そして、数え切れない量の幼虫が浮かんでいた...。


アイナの新しい脳となる汁が入っている箱をパイプの先端に設置した。次は黒いボタンを押すと、先程とは逆に脳が流れてゆく。スピードを強にすると、とんでもないスピードでアイナの頭部に吸い込まれてゆく。

「ああぁっああっ。ううううううううううううう。ヴウッ!!!」

ビクン!と跳ね上がったアイナは、大きく目を見開いた。口をしっかりと開けて話し始めた。

「ぼくは、新しいアイナ。」

「ああ。アイナだ。目を覚ませ。アイナよ...愛せ.....アイナよ...全てに...。」


「ぼくは花より美しい...。」


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