第26話 きっとそれは情愛
生徒会室から飛びだした俺はすぐそこの階段を上りきった踊り場で、
「んで? 俺の何が変だって?」
尋ねると、陣内は口先をとんがらせるようにしてボソボソと喋る。
「……今日会った時いきなり私を避けるかんじだったじゃん」
「理由そんなことかよ。別にあっただろそんな時くらい」
「無いよ。
「いやいやそんなこと……え、マジで?」
「うん、マジで」
えぇ、いやそりゃ、確かに陣内には包み隠さず喋るようにしてるというか、いつのまにかさせられてるところはあるなぁ。
てゆうかそんな事であんなにテンパるって本当に陣内って俺のことが好……。
なんて考えていたら、陣内がこっちに迫り、いつもと違う少し自信なさげな表情で俺と目を合わせる。
「妻夫木に私の気持ち分かる?」
「え、おぁ?」
ち、近い。めっちゃタイプの顔がそんな風にドキドキさせるような表情してたら、こっちだってドキドキしちゃうでしょうが!
「私の……」
陣内が真剣な表情で自分のカッターシャツの胸元を握り、こちらを見る様子に俺も思わず息を呑んでしまう。
「うん……」
「完全に
脳内で3回くらい、こだまとなって響いた。うん、知ってた。そんなんだと思ったよ。前から思ってるけど、こいつが男子を好きになるイメージとか湧かないもん。よし、明日会ったら昂輝にぜってぇしっぺ喰らわす。
「おい、何勝手に手懐けた気になってんだコルァ」
「だーはっは! いやぁー、信じてる妻夫木に避けられるって結構キツイわー」
頭をぐわしと掴んでぐわんぐわん揺らしてるのに、バカウケとでも示すように楽しそうに大笑いしてやがる陣内。
「はぁー、俺の取り越し苦労で良かったよ」
「なんかあったの?」
「いや、陣内が俺のこと好きなんじゃねぇかって昂輝に言われてちょっとな。どうして……」
「どうして?」
陣内が視線も合わせて俺に言葉の続きを促す。いや、なんで俺今こんな言葉を思い浮かんだのか。振り払うように首を数度横に振った。
「なんでもねぇ。取り敢えず、知り合いの異性が自分のこと好きかもなんて聞いたら多少、よそよそしくなるもんだろ」
「あぁ、そういう。男子あるあるだね」
「それで片付けられるとすげー馬鹿にされてる感じするな」
てゆうか陣内の奴、実際馬鹿にした顔してやがりますね。
「あれだよね。男子ってそれ言われてその子を好きになったりするよね」
身に覚えがあるような事言うのやめろ。たとえそれを言われてもうまく立ち回れずに敗北した男たちが、世の中にいったい何人生まれてると思ってんだ。
「いやその現象は確かに男子はいっぱいあるけども。てゆうか女子に起きないのは何でなんだ?」
「男子は取り敢えず女子と付き合いたいが先行してるっていうか、先行したうえで先走って惚れやすいんじゃないの?」
「あ、脚が速いだけで惚れる女子だって相当だろ」
「そんなんで好きになるの小学生の中学年くらいまででしょ。高学年ぐらいから女子ってその辺上手く絞り始めるよ」
「狙うとかじゃなくて、絞るってのがやけにリアルだな……」
確かに女子ってそのころぐらいから打算的って言葉を学習し始めるというか、男子が馬鹿が楽しい時期に入っていくのと同時にどんどん賢くなっていく反比例みたいな構図があんだよな。
付き合うのは○○くんだけと決めてる一途な女子とかはそのままでいいかも知らんが、ある程度のステータスというか、形成された立ち位置を持つ女子は、ただ好きな人を好きになる事が出来なくなってそう。最低でも自身に近いステータスや立ち位置が条件になって雁字搦めに見える。
だから、【付き合ってもいい】とかいう、極めて上から目線なのに、お互い受け入れあう事の出来る愛だの恋だの関係ない合格ラインがあるのが中学、高校の恋愛の良いところだと、バイト先の店長も言ってたなぁ。それ果たしていいのか? 全く良くなくない?
「にしても副会長がそんなこと言うなんてねー。明日説教だなこりゃ。憶測で人の好意を語ってはいけませんって」
むーっと珍しく軽く怒ってる様子を見て、最後の付け加えを聞いて、本当に取り越し苦労だったのだとホッとする。ホッとしたら俺もムカムカしてきた。
「勝手にその好きな奴にされた俺の気持ちもその説教に込めておいてくれ」
「だーはっは、了解したよ。だから妻夫木も私に今まで通り接すること。いいね?」
「おうよ」
陣内は俺の横を通り過ぎて自身の髪ををくしくしといじりながら、真っ直ぐ軽い調子で階段を降りていく。
ま、昂輝の勘違いならそれに越した事は無いのだ。だって俺には
だからさっき俺はなんで【どうしていいか分からなくなった】なんて言いそうになったんだろう。
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