第25話 ボス、壊れる
生徒会室の扉の前に立ち、一つ深呼吸。いや、今までこんな感じになった事無いんだけど、なんか身構えてしまうっていうか……。
それもこれも、
「うーっす」
「お、
「誰が物理赤点輩じゃ、しかも赤点じゃねぇ」
相変わらず語呂悪すぎんだろ。
「なーんだ。赤点じゃないらしいですよ。
「それは良かったです」
全然良かった感じで言わない新垣。舌打ちでもしそうな勢いである。
「点数盗み見たのか!」
「多分、テストもらってあんな様子になったら誰だって赤点だったのかと思うんじゃないでしょうか?」
今度はにこやかに言われてしまい、俺は思わず手をポンと叩く。
「あ、そっか」
「ブッキー輩バカだなー」
そーだよそーだよ。
なーんだ。ブッキーったら、新垣を疑いすぎなんだからもー。
ほっと胸を撫で下ろしてるのも束の間、目を閉じていたのが
「今回は結構真面目に勉強したって聞いたけど? んー?」
俺ともあろう者が完全に不意を突かれた。
「うっせーな。お前には関係ねーし」
「え」
そんな新垣を見ると何故か面食らった顔をしてる。なんでびっくりした顔でも様になってんだよ。モデルか。
「なんだよ」
「え、いや、あんたって本当に意味が分かんないなって」
人前で猫被ってる時の声じゃなく、二人きりの時の素のトーンになってる辺りマジなやつ。だが……。
「お前には言われたくないなそれ……」
学生のくせに詫びのプレゼントにゲームのハード渡したり、銃突きつける忍者みたいな使用人がいたり、自分の誕生日だからって好きな男を拉致ったらする女にだけは絶対言われるべきじゃ無い事は馬鹿の俺でも分かるわ。
「ブッキー輩、副会長は?」
「テスト終わったし部活だろ。石原も今日は音楽部で来れないらしいし」
遥さんと言えば、まだ物理の点数の事言えてない無いんだよな。愛想尽かされてしまったら死ねるなぁ。
脳内遥さんによるイメージトレーニングをするとしたら……。
『
そんなわけねぇえええええええ!!!
いやまぁ、こんな新垣みたいな事を遥さんが言うわけ無いんだけども、無いよね? うん。とりあえず最低ラインのイメージは築いておかないと、俺の心が保たないのよね。
にしても、柴崎のヤロー、露骨にお前はいいから昂輝を出せとでも言わんばかりの顔だったな。
「会長、今日って来週の朝会の連絡事項決めるんでしたよね? 副会長とかいなくていいんですか?」
あ、真面目に考えてた。俺が被害妄想膨らませてただけだった恥っず!
脳内でだけ柴崎に謝ろうか、いや、やっぱいいやとなったところで、柴崎の眉根が寄った。
「会長?」
柴崎の声の先を見ると、陣内が席に戻りながらも何処か上の空で机をコツコツと指で叩いている。あれパソコン動かない時俺もよくやるわ。
「陣内?」
俺も声をかけると、陣内はハッとしたような様子でこちらを向く。
「え、あ、うん、ごめん、なんだった?」
「今日来週の朝会の内容決めんだろ? って、柴崎がお前に聞いてんぞ」
柴崎のアホ面を指さして言うと、陣内はうんうんと首だけ頷くという腹話術の人形みたいな感じで口を開く。
「あ、あぁ。そうだね。私の方である程度内容は決めてたから、もう副会長には話してあるんだ。石原さんは一応自己紹介する内容を考えてきてとだけ言ってあるし」
「さっすが、会長、完璧ですね!」
パチパチと手を叩いている柴崎に、陣内の笑顔は引きつってるようにも見える。
俺は立ち上がり陣内の前まで行って、デコに手をかざす。
「熱でもあるんじゃねぇのか?」
あ、無いな。平熱っぽい。でもなんか冷や汗的なのはかいてるか?
「きゅ、急に何?」
俺の手を思いっきり跳ね除けた陣内は、化物を見て信じられないような目をしている。誰が化物だ。
「いや、変だぞ今日のお前」
「それは妻夫木の方だろ!?」
「俺? 何が?」
「何がって……その……」
言いよどむ姿に違和感が半端ない。こいつズバって言う事に関しては、誰にも負けないだろうと思っていたが。
俺が何か変だったって……あー。そういや、昂輝のせいで最初変な態度取っちゃったけども、え、まさか、そのことか? だとしたら陣内ってマジで俺のこと……。
ええい、まどろっこしい。直接聞いてやる。
「陣内ちょっと来い」
「な、何さ」
「今後の俺らについてちょっと話すぜ」
そう言って弱い抵抗を見せる陣内の手を引っ張って、生徒会室を出ようとすると新垣と柴崎がポカンと口を開けてこちらを見ていた。
「いいから大事な話があるんだよ」
出る前に俺は伝えておく。
「柴崎、俺と陣内無しで、新垣とある程度段取り進めておいてくれ」
「ヒュー、無茶言う~」
そうは言いつつ余裕そうに口笛を吹いた後輩と……ワクワクした顔になっている新垣? なんだあいつ。陣内にあきたらずあいつもやっぱ朝から変だな……いったいどうしちまったんだうちの生徒会は……。
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