第21話 ドラクエはVが至高。
親父と新垣の親父さんのスピーチが終わり、立席での食事や、お偉いさん方同士の世間話に花が咲き始めた。
「これもう席立っていいんだよな?」
「えぇそうだけ……ちょっと! 言い終わる前に行くなぁ!」
知らん、俺は一刻も早く遥さんの元に馳せ参ずるんじゃボケェ。
幸い新垣の友人=VIP枠ということで席自体は近かった。
「あ、玉の
「玉の輿輩って何……」
生徒会メンバーの席に近付いた途端、いきなり柴崎が意味不明な言動である。いや、そんな事より遥さ……。
「妻夫木、ちょっと来て」
ガシッと俺の手を掴み、青基調のドレスのスカートを揺らしながら、ツカツカと慣れなさそうなヒールで歩き始めた陣内。
「は? ちょっと待て、俺は遥さんに」
「いいから!」
「いや、よかねー!」
俺の弱い抵抗など何のその、大広間を抜け出して、廊下まで躍り出た。
さっきまでアホヅラで俺と新垣見てたのは知ってるが、急に真剣な顔だなオイ。
「どうしたってんだよ」
尋ねると、陣内は自身の興奮を落ち着けるように一息ついてから、俺に言う。
「赤ピアスを発見した」
「……マジか」
特定早ぇなマジ。こいつの人脈ちょっと異常だぞ。他校の誰かってのを俺らの証言だけで見つけてしまえるんだからな。
スマホを見ながら陣内は続ける。
「守海高校の生徒みたい」
「納得」
守海高校といやぁ、不良の温床とまで言われてるヤンキー高校である。
なんなら初めて血の出るような喧嘩する羽目になった不良の先輩も守海高校だったはず。
「名前は
半グレって暴力団じゃないけど、犯罪起こしまくる半端者って事じゃん。
「半グレって……前持ちなのか?」
「まえもち……?」
眉根を寄せ、怪訝そうな顔の陣内。
「あぁ、悪い。前科持ちなのかって事だよ。女の子襲ってるくらいだし……でも普通に高校生やってんなら顔は割れてなさそうだな」
だとしたらマジで懲らしめてやらねぇと。近隣の学校で不審人物とまで話が行ったせいか、今は落ち着いてるのかもしれないが、また遥さんみたいな目に遭う女の子が出ちゃいけねぇ。
と、……何か色々考えてたら陣内が俺をガン見してるんだけど。
「なんだよ」
「妻夫木そういう話の時だけは顔かっこいいよね」
ケラケラ笑いながら言うとる。こんにゃろう。
「そういう時以外について教えてもらおうじゃねぇか」
俺の顔はいつだって中の上ぐらいなんじゃないかと
「あ、かっこ悪くなった」
「真顔で言うない……で、どうすんだ? おめーの事だから、会っていきなりもうやめろ、って注意喚起ってわけじゃないんだろ?」
「だーはっは、そんなんしないよ」
「だよな」
「悪事を微塵も起こす気が無くなるほどの目に遭わせないとね」
……女なのかって疑うレベルのイケボと、さっき笑ってたとは思えない程の真顔でめちゃめちゃ怖い。俺何も悪くないのに何故か謝りたくなっちゃうくらい怖い。
「何かドス黒い事考えてんなら、やめとけよ。ドス黒いのは新垣だけで充分だ」
トランス状態な陣内を落ち着ける意味で言うと、あっという間にいつもの陣内の調子に戻る。
「あ、そうだった。婚約おめでとう?」
「めでたくねーだろ。遥さんいるってんだよ」
「いやー、モテる男は辛いねー」
ニッカニカな顔で肩を組もうと伸ばしてきた手を払い除けて、俺はふっと乾いた笑いが出る。
「陣内、俺はこの婚約とやらを受ける気は全く無い。だから遥さんに心配ない事を一刻も早く伝えてぇんだよ。そしてその事でお願いがある」
「何?」
「それとなく遥さんにフォローしてくれ。俺が遥さん一筋だということを。陣内からも言ってくれ」
「いやいや、それおかしいから。おかしい状況から妻夫木までおかしく……いや土下座はやっ!?」
「ふっ、俺のガチ土下座を見られるのはお前だけだぜ?」
「凄い良い声なんだけど、土下座してるんだよなぁこの人」
哀れまれたような声を受けてもなお、土下座をやめない俺。陣内がうんというまで俺、この頭を上げない! 絶対上げない!
「何をしているんですか?」
「あ、新垣さん」
「何ィ!? 新垣だとぉ!?」
あ、すぐさま頭を上げちまったじゃねーかクッソ新垣許すまじ!!
「早速ご機嫌とりというわけですね。忠犬ブキ公」
「誰がブキ公じゃこら」
早速って、何で俺が陣内に遥さんへのフォローお願いしてるの読んでるの? エスパー?
「もうすぐ会食があるから」
「んだよ会食って」
「私達の家族同士のみで食事するの」
「えー嫌すぎて吐き気がする」
「吐き気とまで言うか」
グサっと精神的に刺さったのかまた膝から崩れ落ちた。しかし何度でも立ち上がるので最早ゾンビなんじゃないだろうか。ドラクエ脳のせいか、こうバラモス的なとこあるよね新垣。魔王なんだけど、中ボス止まりっていうか、攻め方が
「また失礼な事考えてるなこれ」
「お前本当俺が考えた事直ぐ分かるのな」
「付き合い長いし……あと妻夫木分かりやすいもん」
「へぇへぇそうですか」
「ふがーーーっ!!」
うぉっと何だよ新垣の奴。バラモスみたいな叫び声あげて。あれ、ぬおーーー! だっけ? ちげーわ。それパパスだ。
「いいから来る!」
「おい、行かねーって! 俺は、はるっぐぁ!!!」
また背後をあのクソ執事を捉えられてたのだけが分かった。
そして今朝方のように、縄でいつの間にか縛られている。絶対こいつ忍者の末裔とかだぞ!
「陣内……後は頼んだぞ!!」
なんか俺がパパスみたいになってしまった。ドラクエV大好きかよ。
「え、あ、さっきの話か」
どう見ても俺が、新垣にさらわれている危機的状況だというのに、全く声音の変わらない陣内に見送られながら、引きずられていく俺なのであった。
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