第18話 マイファザーブットバス

 スポットライトが眩しいなぁ……。こんなにスポットライトの存在を感じたのは、小学生の時にやった、アリババと40人の盗賊の盗賊の頭役をやった時以来だなぁ、いや待ておい、本当何で俺に当たってんだ?

妻夫木つまぶきくん、こちらへ」

 そう言った新垣あらがきの親父さん、待て待て、思考が完全に定まらんぞ。

 俺が婚約者? 新垣ゆかなの? んなわけねぇだろ。何が間違ったらそうなるってんだよ。うちはふっつーに貧乏な家庭なんだぞ?

 しかも当事者である俺が知らんとか、新垣もあの顔だと知らんみたいだし……一体全体どういう事だ??

 俺は恐る恐る階段の方へと歩き出し、後方のはるかさんを見て、俺も訳が分からないという事を伝える為に首を捻って見せたりなんかしたり。

 階段を登っていく間も、拍手が鳴り響いている。いや、あんたら俺の存在知らんのになんでそんな祝えるんすか?

 新垣ゆかなの婚約者だから? でも俺はただのパンピーなんですよ?

「あれ、妻夫木つまぶきってまさか……新垣さんが投資してた妻夫木生産のとこの子かな? なんでもスカイゲルの独自の生産方法に成功したとか」

「なるほど、宇宙分野に手を出し始めてる新垣さんからしたら、格好のビジネスパートナーなわけだな」

 どうやら親父がその道で凄い人だったらしい。親父ってただの潰れかけ下請け工場の社長くらいのイメージだったんだけども。何で俺より俺の親父の事に詳しいのか。あ、俺が親父に興味無さすぎるのか。納得。

 階段を登りながらそんな風に考えていたら、新垣の親父さんフューチャリング新垣と対面する。

「どうも」

 うわー、間近で見ると本当怖い顔してんな。反射でメンチ切り返すとこだったぜ。

「会うのは初めてですね。君のお父さんと仲良くしている新垣あらがき秀一しゅういちと申します。婚約の話は、お父様から聞いていますか?」

「微塵も聞いてないです」

「そうかそうか、ついてはだね、え、聞いてない?」

 目が点になった新垣の親父殿。耳を疑う様子に対し、俺は念のため、自分の記憶を再度捜査し回ってから、結論を再び告げた。

「だから、微塵も聞いてないです」

「いやいや、それは嘘だろう、普通婚約話なんて、真っ先に息子に伝えるべき内容だろう?」

 威厳のある顔がどんどん引きつっていくのを見て、俺の親父の至らなさに申し訳なくなる次第ですねハイ。

 とか思っていたら、親父さんの隣にいた新垣が俺より申し訳なさそうに、そーっと手を挙げる。

「あの、お父様、大変恐縮ですけれども、私も聞いてないです」

「ふぉぐぁ!?」

 ふぉぐぁって言っちゃったよ。もう威厳0だよ。

「ま、ま、待ちなさい。私自らこの前言っただろう」

「いえ、婚約者に会わすとは聞いてたんですけど、相手が誰なのかは聞いてなかったので」

「いやいや、婚約者が誰かというのは才原さいはらを通じて伝えさせていたはず」

「お父様、才原は私の護身以外は大体ポンコツって前から言ってるじゃないですか」

「聞いてなかったというのか……本当に?」

「えぇ、全く」

「えぇ〜」

 いや、こっちがえぇ〜なんだが。

 どうすんのこの空気。周りポカーンだし。てゆうか親が勝手に決めた婚約話とか、無しだろ無し。もうアホな自分の親父をぶっ飛ばしに行ってもいいかな?

「そんじゃ、親父尋問しに帰らせてもらいますわ」

「待ちなさい」

 チィッ、逃げれず。やはりこの機を逃す新垣ゆかなではない。

「婚約者ならしょうがないわよね。本当しょうがないわ。婚約者らしくするしかないとか、はーホント、嫌になるわお嬢様なんて」

「ニヤニヤすな。俺は断固拒否する」

「断固拒否を断固拒否するわ」

「断固拒否したてめーの断固拒否を断固拒否する」

「君たち、すごい仲よさそうだな」

「よくない!」「でしょう!?」

 新垣の親父さんの所感に対し、全然ハモらない声が重なった。

「うちのゆかなが不服かい?」

 お、ちょっと威厳が戻った親父殿。娘想いのいい親父さんじゃん。

「不服というか、娘さんとあまり仲良くないもので、今後仲良くする予定もありませんでしたし」

「やめてくれ! 娘があまりのダメージに膝をついている!! それ以上はやめてあげてくれ!!」

「ア、ハイ」

 必死な形相に思わず頷く俺。新垣はこの親バカそうな親父さんに対して、俺といる時になんで意味深な態度取ってたんだろうか。謎過ぎる。

 まぁ、いいや。辺りも困惑してるし、はっきり言っちまおう。

「てな訳で、婚約者と言われましても、俺彼女もいるし、ゆかなさんに見合う男でも無いと思うんで、無かったことにしといてもらえると」

「そうか……だとしたら、困ったな」

 新垣の親父さんが、口元に手をやりながら、難しい顔をする。

「困ったって何が?」

「君のお父さん、うちからの巨額な投資を受けているんだが、それも君と娘が婚約した厚意でという名目になっててね」

 私的理由で大金を動かしとる……これが大財閥の社長……。

「いやいや、それうちの親父に都合よすぎるでしょ。娘さんの気持ちガン無視してるし」

「いや、ゆかなが君の事が好きという情報は才原を通じて知っていたから」

「才原ァアアアア!!!」

 新垣ゆかな、満身創痍の中で怒りの咆哮である。お嬢様感0。

 ポンコツ扱いしてた使用人に、親へ好きな人チクられるってマジどんな気持ちなんだろ。

「じゃあ……巨額な投資を返すとどうなります?」

「うーん、多分今やってる研究自体凍結すると思うが」

「ということは?」

「君のお父さんが詰む」

「詰みますかーハッハー」

 親父が詰む=我が家が詰むわけですね分かります。分かりたくねぇけどな!!

「……親父と話し合ってからもっかい来ます」

「う、うむ。にしても君鬼神の如く顔が怖いが、大丈夫かね?」

「大丈夫です。ちょっと人一人半殺しにしてくるだけなんで」

「大丈夫じゃないな!?」

「ちょっ、妻夫木くん!?」

 言われるが早いか、俺は全力で階段を駆け下りて家路に急ぐ。マッハで帰る。元凶は滅ぼさねばならないからなァ!!おどれ待ってろクソ親父ィ!!!


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