第17話 約束された勝利とは

 テストをお疲れとねぎらう会だと思ってたら、新垣さんが生まれた日だったらしい。知らんがな。というかそもそもそのお疲れ会にすら来る予定無かったんだが。

「みんなはどこだ?」

「VIP扱い。こっちで服用意しておいたから着替え終わった頃だと思うけど」

「あいつらもかよ。え、じゃあ俺は? 俺もこの家で着替えれば良かったのでは?」

「特別扱いよ。喜びなさい」

「わーい、やったー。帰っていい?」

「ぐっ、どれだけ頑張っても手応えがないぃ」

「いや、涙目……あと彼女いる男にお金をかけることで、落とす事が出来ると思ってる残念な感性、本当どうにかした方がいいぞ?」

「辛辣が服着て歩いとんのかおのれは!?」

 あまりの大声だったので大広間にいる大勢の大人の方々は、新垣あらがきを一点に視線を寄せた。

 オホンと恥ずかしさを隠すように咳を一つ起こした新垣。

 さっきから挨拶を受けた相手には、いつもの作ったような優しい笑顔で、誕生日パーティーに来てくれた事の感謝を伝えていたのに、今般若みたいな顔してたからね。

孝宏たかひろくん?」

 可憐な声が聞こえてきたかと思い、振り向けば、そこにいたのは、紫のドレスに身を包む、紛う事なき大天使、ハルカエルだった……。

妻夫木つまぶき?」

孝宏たかひろ?……立ったまま……気絶してる」

「可愛えぇ……」

「うん、感想言ってるし気絶はしてないねこれ。目を奪われてるだけだわ、馬鹿だね」

 これまた青のドレス姿(似合ってるのが腹立つ)の陣内じんないに頭をパシパシ叩かれたので、その腕を引っ掴んで、顔まで僅か数センチというところまでメンチを切りにいく。

「聞こえてんぞ」

「だーっはっは」

「はっは、何笑ってんだボゲェ」

 これが睨みレベル100%中の100%!!陣内さん、その楽観的な平和顔、煽ってるように見えるから。いや、煽ってんのかよし、いつか泣かす。

「だーーーー!!」

 大声をあげた新垣が何故か俺と陣内の間に割って入る。その顔は興奮していた。

「近いわよ!! ここ私の誕生日パーティー!! オッケー!?」

 興奮でハァハァ言ってる顔が、え、般若と親戚ですか? というぐらい怖い。体張るなぁ、新垣。

「あのな、大声出して渾身の存在感アピールは古いって。お笑い芸人でも最近あんま見ないぞ」

「本気で心配してくれてどうも!! あんたが、変なことしてなきゃ、清楚なお嬢様で貫き通せるんだけどね!!」

 変なことって……陣内をマヒ状態に出来るぐらいヘビ睨みしてただけなんだが……出来てないけど、めっちゃ笑ってたけど。

 落ち着けと言おうとして間違ってドウドウと言ってしまい、新垣にぶん殴られていると、遥さんが俺のジャケットの袖をくいっと引っ張って言った。

「孝宏くん、髪おろしてるね」

 ニコッと笑う顔が俺の心の臓を指し穿ち、突き穿つ。

「あーもう、おろしてるぜ! おろしまくりんぐ! 三枚おろし!」

「三枚おろしはめっちゃおろしてるって意味はないからね?」

 俺の遥さんの感想の答えが、昂輝こうきさん的に赤点だったのは、いいとして。それにしても……はーびっくりした……いつもの可愛さに色気が足されてて、遥さんが魅力的過ぎる。この子を彼女にしてる男がいたら、それは世界一幸せな男と言いきれるレベル。あ、それ俺だったぜタッハー!! 参っちゃうねこりゃどうも!!

「誕生日会なのに、私たち何も用意できてないんですけど、いいんですかねー?」

 あ、え、柴咲いたの? 気づかんかったー。遥さんの放つ輝きがシャイニング過ぎて、お前の黄色のドレスとか全く以って認識出来なかった。

 校長先生の長話でももっと入ってくるぞ、もっと頑張れよ。

「あ、妻夫木がクッソ失礼な事を考えてる時の顔だよ。石原さん覚えておいた方がいいよ」

「分かった」

「陣内ィ……遥さんにアホな事教えんな」

 遥さんも遥さんでどんだけまじめに頷くんだってばよ……。

 も〜。遥さんマジ上昇志向の塊〜。

「私は知ってましたけどね」

 新垣さんがドヤ顔かまして、マウント取りに行ってるよ。新垣さん、自分がなんで俺のその顔覚えちゃったのか、理由にお気づきでないのだろうか。まぁ、いいか、なんか満足そうだし(失礼な事を考えてる時の顔)。

 そんなやりとりをしていると、急に辺りがざわめき始めた。

 どうやら、新垣ゆかなの親父さんのお出ましらしい。

 すげー、スマホで、新垣、財閥、で調べたら一発であそこにいるのと、同じ顔が画像欄に出てきた。

 大広間の奥に馬鹿でかい階段があるのだが、新垣の親父さんは、その一番上でマイクを持って立っている。

 顔怖いな……めっちゃ融通が効かなそう。イメージだけど。

 金髪じゃないから、金髪なのお袋さんの方なのかなとか思ってみたり。

 マイクを持った親父さんは、その渋い声を響き渡らせた。

「今日は娘の誕生日パーティーにお集まり頂き感謝致します。ゆかな、こちらへ」

 言われて新垣は階段の方へ優雅に歩いていく。けど、あいつめっちゃピリピリしてるな。こちらまで緊張感が伝わってくるレベル。

 新垣が親父さんの横まで辿り着くと、新垣の肩を少し寄せ、また話し始める。

「こちらが我が愛娘のゆかなです。今日皆様をお呼びたてしましたのも、実は、うちの一人娘を祝うのと共に重大な発表があったからに他なりません」

 その発言に、新垣も分かっている話なのか、何処か意を決した様子に見える。

 はぁー、あいつに婚約者が出来たとかそういう発表なら万々歳なのになー。

「実は、我が財閥の後継者を決めるにあたり、娘の婚約者が決まった事を、ここでご報告させて頂きます……相手は」

 ……ば。

 …………ば。

 ………………万々歳だー!!!

 こんな俺の為かのような願望が叶う事なんてあるのかよ!!

 約束された勝利過ぎる……やはり、何人たりとも俺と遥さんの恋路を邪魔する事など出来ないという事だな!!

 ありがとう、名も知らん婚約者とやらー !!

「今日この会場に来ている人物、では、お呼びいたしましょう」

 辺りが少し暗くなり、良くあるドラムロールが流れ出し、スポットライトがぐるぐると会場を回り出す。ハハッ、演出が古過ぎません? これで婚約者様とやらが最後スポットライトに照らされるわけですね?

 さーて、じゃあ俺関係ないし、この場でパーティー用の美味い飯でも食ってさっさと帰って遥さんとデートを……。

「妻夫木孝宏くんです!!」

 ん?

 パチパチパチと沸き起こる拍手、わーっと湧く歓声、和かにこちらを見つめる新垣の親父さん、唖然とする生徒会の面々withハルカエル。

 そして口を手で押さえて信じられないという顔の新垣ゆかな、何故か俺に当たっているスポットライト……。

 ん?

 んーーーーーー?

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