第16話 祝い方エグいよね。

 言われた方向に歩いていくと、なんかデカそうな建物の大広間へと着く。

 あ、新垣あらがき発見。

 携帯を触りながら立っているので、こちらには気づいてないみたいだ。

 近づいていっても、反応がないので肩をトントンと叩いた。

「おい」

「え……」

 叩かれた新垣はポカンと間抜けな表情を一つ見せてから、不覚とばかりにキリッと表情に力を入れて、余裕を醸し出す。

「まぁまぁじゃない」

「いや、新垣に言われてもな」

「あんたね……」

 余裕崩れるの早いっすね。頬ピクピクしてらぁ。

「あの生瀬さんって人すげーな。俺結構硬い髪質してんのに、一瞬でこんなフワッフワな感じで髪の毛いじってくれたんだけど」

「当然じゃない。生瀬さんはテレビにも出てる世界的な有名なスタイリスト……え、もしかして知らないとかじゃないわよね?」

「俺テレビ見ねーから、知らんぞ。ヤベーオネェ出てきたって思っちゃった」

「あんた不敬にもほどがあるでしょ……」

「いや、じゃあ最初から教えてくれりゃいいのに。そうしたらもっと敬意払って接したわ」

「サプライズよ。喜ぶと思ったんだけど」

「お前のサプライズは混沌と絶望しか与えないな」

 嬉しくないサプライズなど、側から見るとイジメと捉えられても仕方ない事を誰かこのお嬢様にみっちり教えてあげる必要がありますね。俺以外のやつで頼みます。陣内じんないとかで……あれ?

「あ、そういや俺の携帯何処だよ」

「はいこれ」

 尋ねた瞬間に、新垣は持ってる手提げのポシェットから俺の携帯を取り出した。

「……なんかしてねーだろーな」

「してないです。だから、匂い嗅いだり、隅々まで見なくてもいいと思うの」

「いいか? どんな物事でも1から2にするのは簡単だ」

「きゅ、急に何?」

「でも、0になった信用と好感度を1にするのは難しいんだぜ?」

「今両方0なの!?!?」

 気品0の驚き&ショックを受けた顔。いい反応するなぁこいつ。

 携帯の中身を見ると、LINEで、遥さんが既に連行されてしまってる事を送ってきていた。というか謝っていた。良い子すぎる。

 ので、俺もLINEで謝り返しとこう。

 いーや、おーれーも、しーばーらーれーて、らーちーらーれーたーのーで、きーにーしーなーいーで。

 何だこの返信、高校生同士が送り合う内容じゃねーな。

 自然に眉根を寄せてしまっていた俺を見てか、新垣は不満そうに尋ねる。

「何よ? 別に何もなってなかったでしょ?」

「携帯を奪取してる時点で、反省しような……取り敢えず生徒会メンバー待たせてんなら早く行こうぜ。何するか知らんけど」

「……そうね、お父様も待ってるでしょうし」

「ふーん……え、お父様? テストのお疲れ会に、君の家親父が出てくんの? 斬新過ぎない?」

「あれ、言ってなかった? 今日が何の日で何で呼んだのか」

「いやだからテストのお疲れ会でしょ?」

「それもあるけど……まぁいいわ。着いてきたら分かるし」

「何だよ、何だってんだよ」

 腕を引っ張られて外へと連れ出されると、またあの長いリムジンが俺たちを待っている。

 てゆうか、こいつ確か親と色々折り合い悪いんじゃなかったっけ?

 新垣の家の親父さんって事は大企業の社長とかだろ? つまり、死ぬほど忙しくて、かつ娘といざこざしてる中、わざわざ娘のお疲れ会に顔を出すの? 無いだろ。どういう事なんだ?

「親父さんと仲直りしたのか?」

「仲直り? 別に仲違いしてないけど?」

 キョトンとした顔に対して、俺は頭をかきながら答えた。

「いや、この前PS4買いに行った時とか、色々親とあるみたいだったからよ。でも、わざわざテスト終わりなんかで、一々祝ってくれるってんだから、愛されてんじゃねーか」

 俺の言葉に、新垣は何度かパチパチと瞬きを見せてから、鼻でフッと笑った。

「愛……ね」

「感じ悪っ! 何だよ。だってそういう事なんじゃねーの?」

 聞いてみると、新垣は、その薄い笑みを携えたまま、車窓の外を眺めて言う。

「それこそ、来れば分かるから」

 それ以上は言うなと言外に匂わしていて、思わず黙る。

 こいつ偶に本当、同一人物かと思うくらいコロッと表情や仕草が変わるからな。大人の前、知り合いの前、俺の前、様々な場面で持ってる仮面を付けるのは結構だが、疲れやしないのか、ちょっと心配である。ちょっとだけだけど。

 気まずい雰囲気で10分ほど車に揺られていると、どうやら見たことのある大豪邸、新垣家へと到着したわけだが、なんかこの前と勝手が違うような……。

「なんか……人多くね?」

「そうね、お父様のお得意先まで様々来てるし」

「お前のテストのお疲れ会親父のお得意先まで出てくんの? 軽く狂気だな」

 もういよいよわけが分からないよ。車を降りて何人かの使用人のお出迎えを受ける新垣。

「おかえりなさいませ、ゆかな様、ご友人は既に言われた通りに」

「分かった。ありがとう。行くわよぶきお」

「ぶきお言うな。ったく」

 自動で開いた大扉を、二人で抜けると、さっきよりデカイエントランスな訳だが、そこでは何故か豪華な祝典でも開いてるのかというようなパーティーになっている。もう嫌だ、金持ち怖い。帰りたい。

 どういうこと? 金持ちって、テスト終わっただけでこんなに祝ってもらえるの? 俺なら一人でコンソメパンチ食って、コーラ用意して、ゲームしてたらそれがパーティなんだけれども。

 訳がわからん状態、かつ落ち着かない事もあり、あたりをキョロキョロすると、なんかでっかい垂れ幕の一つに目が行った。

【新垣ゆかな誕生日パーティー】

 ……はぁ?

「お前、まさか、今日」

「そう、誕生日、全力で祝いなさい、誕生日プレゼントはその身一つでいいけど」

「えー……」

 つまり拉致ってまで俺をここに連れてきたのは、自分の誕生日パーティーを祝ってもらうためって事だろうか。

 ……そうだった。こいつその道のヤバイ人よりヤバイ女だったわ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る