第15話 初めて気付いた事。
謎のオネェに何処かへと連れ去られた俺、現在椅子に座らされている。
カッコよくされるとか何とか言ってたけど、オネェの中であるなんかの隠語か!?
俺はもう何をされるかと疑いまくりだった。
「あらぁー、ガタイいいじゃない? ところどころ傷だらけなのが気になるけど」
「ヒィー! ぺたぺた触らないで頂きたいんだがァ!」
「いい身体見ちゃうとついねーん」
「ついねってあんた……」
物申そうと思ったらかちゃかちゃとした音がした。なんの音だ?
耳を澄ましても、もう聞こえなくなってしまったのだが、パサっとした音と共に俺の胸に布地が当たった。
「うーん、普通のジャケットコーデは厳しいか。張り付いたような着方になって
「あのぉー、もしかして、服選んでくれてるんすか?」
「何言ってんの。それ以外無いじゃない」
「いや手縛られて、目隠しされて、オネェに連れてかれたら、色々勘ぐっちゃうでしょーが!!」
「あんた、ツッコミ慣れしてんのねー。さすがゆかなちゃんの男だわ」
「いや、俺、新垣の男じゃないんで。てゆうか逃げねーから早くこれ外してくれよ」
「確かに、一流の腕を見れないのは苦痛よね。ほら、外したげる」
腕の縄を解かれ、付けられたのはアイマスクだったのか、光が目に突き刺さる。
パチパチと瞬きすると、そこにはハンガーラックにこれでもかと色んな服が掛けられている。よく分からないが新垣関連だし、高いブランド物とかなのでは?
そして、次に映ったのは、短い金髪に派手めな服を纏うおっさん。ちゃんと化粧までやってんよ……。
てゆうかイケメンだなオイ。昂輝とは違って大きな瞳に、彫りの深さも日本人離れしてんぞ。日本人かしらんけど。細身の割にさっき肩を掴まれた感じからして、あの服の下は筋肉質であるのは間違いない。
「自己紹介がまだだったわね。私は
服をどれにしようか悩みながら、俺に話しかけてくる。自分の仕事を生業とか言えちゃうのちょっとかっこいいな。
「俺は
「
自分の名前を言いかけると、そう言い遮られた。
「へーどんな悪口っすか?」
「なぜ悪口だと思うの……」
めっさ心配そうな顔をされてしまったぞ。新垣が裏で俺の事どう思ってるかなんて、多分昔好きだった奴が残念になってました的な話が多数占めるのでは?
「まぁ確かに、頭が悪いとか素っ気ないとか口が悪いとか、色々言ってるけども」
「でしょうね」
「でも、私が出会ってからあんなに誰かの事楽しそうに話すゆかなちゃん、初めてだったけど」
「…………」
俺は、新垣がこれまでにどんな歩みをしてきたか知らない。けど、泣き虫で、いつも弱腰だったあいつが、あぁまでなるのには、きっと色々あったはずだけど、あいつからは言わないし、俺も聞かない。それでいい。下手に突いてやぶ蛇なんて笑い話にもならないのだから。
「ま、ゆかなちゃんの応援はしてるけど、あの子結構張り詰めてるからねー。これから大変かもよ」
「あいつがっすか? 俺がっすか?」
「両方」
「うへぇ」
確かに現時点で拉致されたり大変な目に遭ってるしね。
「色々あるのよ。あの子にも。だから、昔の自分のヒーローには側にいて欲しいのよね。きっと」
服を俺に当てがうオネェこと生瀬さん。この人がどういうつもりで俺にそんな話をしてるのか、全く分からなかったが、俺自身にその気はないって事は知ってもらっておいた方が良さそうだ。
「どこまで聞いてるか分からんっすけど、俺、今もう彼女いるし、新垣の想いには応えられないんすよ」
「あー知ってる知ってる。何よ真面目ねー。別にゆかなちゃんと付き合えなんて言ってないでしょ? お、これいいかも。あそこで着てみて」
「あ、はい」
おざなりに言葉を返されつつ、渡されたのは、紺のテーラードジャケットに、白のワイシャツ、灰色のワイドパンツ。
あそこと指さされたのはカーテン付きの服屋によくある試着部屋。
パーティにワイドパンツなんて着てきていいのか? とも思ったけど、着て鏡を見てみると、纏まりの良さからか、俺なんかでも品の良さみたいなのが見て取れる。
「うん、いいんじゃない? はい、髪セットするからそこ座る」
「え、はぁ、でも俺いつもはオールバック」
「あ゛あ゛ん゛?」
「ナンデモナイデス」
今の絶対地の声だろ! すんげーバリトンボイスだったもん!
でも確かにこのジャケットでオールバックしたら台無し感あるけどさ。
「はい、終わり」
「え、もう? お、おぉ〜」
とか思ってたらいつのまにかダウンバングにされてるぅ!?
髪下ろしたのも良いって遥さん言ってくれたし、嫌じゃねぇ……っていうかすげぇなこの人、一瞬で今髪型造ったぞ。
「すげぇ、ただのオネェじゃなかったんすね!」
嫌味なしに言ったのだが、失礼と取られたのか、じろりとその大きい目が、俺を捉える。
「あんた、結構偏見あるタイプじゃない?」
「お、俺が?」
「うん、お嬢様だからとか、好きな女の子だからとか、オネェだからとかで、結構決めつけるタイプでしょ?」
「いや、んなことは……」
そこまで言って俺は自分を初めて省みた気がした。
俺自身が元ツッパリだからという偏見で見られることを、しょうがないと決めつけてるのと同じように、俺だって色んなものに対して偏見を持ってるのではないだろうか。
当たり前の事のようだけど、言われてハッとした。
「大人になった時、そう言った偏見を持たない方が人生楽しく思えるわよ」
「は、はぁ」
「じゃーね。
「え、あ」
俺の背中を押しながら、そう言って部屋を出て行かせる生瀬さん。マジ何者なんだろうこの人。
部屋を出た時、偏見についての言葉がぐるぐると回っていたせいで、お礼を言ってない事に気付いたが、なんとなく、また生瀬さんには会えるような気がして、次会った時でいいかと、俺は示された道をまっすぐに歩き出した。
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