第53話 俺の好きな可憐ガール
広げてくれたサンドイッチを目の前にして、遥さんが言う。
「作ってきたけど、要らなかったら別に」
その言葉に、
「た、
「も゛お゛お゛さ゛あ゛あ゛あ゛。な゛ん゛な゛ん゛て゛す゛か゛あ゛あ゛! こ゛ん゛な゛ん゛な゛く゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
遥さん、俺の為にお弁当手作りで用意してくれてたのかよおおおお!
もうそんなんされたら泣くに決まってんじゃかよぉおおおお!
「ごべん、ぢょっどおぢづぐまでまっで」
「う、うん」
俺がしゃくりあげたせいで遥さんの目がまん丸くなって可愛いのは大変喜ばしい事だが、気持ち悪いからって理由で高速でフラれるわけにはいかない。
落ち着け孝宏。深呼吸深呼吸。
「ごめんな、俺がサンドイッチ食ったり、飯誘って微妙な顔してたの、作ってきてくれてたからだったんだな」
「……うん」
短く、ちょっと困った笑顔による頷きに、申し訳なさと、改めて自分の至らなさを思い知る。
「ありがとう……食べていいか? てゆうか、遥さん食欲は大丈夫?」
「……一緒に食べたい」
言ってから恐る恐るこっち見るのやめてもらえないだろうか。可愛すぎて死んじゃうんだが。
「じゃあ、いただきます!」
一つたまごサンドを取って頬張る。
「美味い! これ、パン普通の食パンじゃなくないか?」
「うち、ホームベーカリーあるから」
「へー! ……あれ? でもあれって焼くの結構時間かからないか?」
「朝から四時間で焼いた」
「四時間!?」
「朝、遅れちゃいそうになった」
申し訳なさそうに笑う遥さん。
え、ちょ、ま、待った。じゃあなんだ? 遥さん家が金山にあるとはいえ今日用意含めて朝早く起きてくれてるって事? 俺が心の中で般若心経唱えて眠ろうとしてる間に?
「ありがとう……だから、雨の中、急いで来てくれたんだな。濡れてまで」
問うと、遥さんは短く頷く。何処までも俺なんかに優しい遥さんに、感極まり、また涙腺ダイナマイト爆発三秒前といったところで、遥さんは一口ぱくりとかじったハムとレタスのサンドイッチの
「前、渡せなくて。だから今日は、渡したかった。言いだせなかったけど」
「前?」
「生徒会に入った日。本当は、孝宏くんにお弁当作ってきてた。助けてくれたお礼にって」
「え!?」
あの日はー、えっとあの日はー。昼飯どうしたっけー? ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?
「新垣に弁当貰った日?」
「……うん」
おのれ新垣ゆかなぁああああ!!!
何処まであいつ俺の恋路の邪魔しとんのじゃああああ!!! あん時のしょうが焼き確かに空前絶後に美味かったけどもおおお!! それとこれとは話が別じゃああああ!!!
「新垣さんのお弁当凄かったし、私のなんか、要らないかなって」
「要らないわけないじゃねーか!!」
弱々しい言葉に対して、大声が出てしまったのは。
君にそんな寂しそうな顔をしないで欲しいから。俺がどれだけ君の優しさが大好きかを
君じゃなきゃ、守る為に、あれだけ殴られたり、蹴られたりする事に必死にならなかった。
俺の強い言葉に遥さんは何度か目を瞬かせる。
「ごめん、大きい声出して。遥さんって、多分俺に対して色々遠慮とかしてると思うけど、思った事そのまま口にしていいんだ」
「思った事?」
「うん、遥さんって、色々考えて、周りに気遣って、迷惑かけないと思う事をいつも口にしてると思う。そうじゃなくてさ。俺相手には、素直に思うがままを、俺に言ってくれ。俺はバカだから、それをそのまま受けとる。約束する」
俺の言葉に、遥さんは聞き入るようにした後、うんと大きく頷いた。
「……分かった」
「よし、約束」
「待って、私も」
「ん?」
「孝宏くんも、私に思った事を言って。私、多分、色々間違う。だから、その時は教えてほしい」
俺のお願いに対するように、呼応するように、彼女もまた俺に願ってくれる。そんな嬉しい事あるだろうか。
「分かった。そうする。約束だ」
「うん」
優しいいつもの、朗らかな笑み。俺も今、心の底から笑えている。君に会えて、君と付き合えて良かったと心の底から、感謝する。
こうして、
しかし、この後色々な障害が、俺の前に地獄のように襲いかかってくる事は……言うまでもないのであった。
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