2章 元殴り屋は全力でイチャコラを夢見る。

第1話 浮かれポンチだよ! 孝宏くん!

 さてさて、わたくし妻夫木つまぶき孝宏たかひろは、晴れて想い人である石原いしはらはるかさんと付き合う事ができたわけでありますが、これをまず誰に報告するかというと。

『何? 今最後の総仕上げ中なんだけど』

昂輝こうき……聞いて驚くな?」

 俺が驚かせる気満々で含みを持たせた瞬間であった。

『お、石原さんと上手くいった?』

「今言うとこだったでしょうがあぁ!」

『キレないでよ。へー! 良かったね。おめでとう。他に誰かに言った? 広めない方がいい?』

「広めたら柴咲しばさきがうるさくなりそうだからやめろ。隠す気はねぇけど」

『了解了解』

 軽い……。俺にとって世界の奇跡とも言える事象であるというのに。

「もうちょっとあるだろ。誘われたのまちづくりライブラリーだったぞ。脈ナシの方で勝ち星あげたんですけど。もっと褒めろ。俺をたてまつれ!」

『あー、初彼女が出来た男子特有の謎テンションね。嫌いじゃないよそういうの』

 そうは言いつつ電話口の声めっちゃめんどくさそうなんですけど、一気に現実に引き戻してくるんですけどこの子。その通り過ぎるんだけどさ。今現在謎テンション過ぎるが、発散の仕方分からんし。

 この辺の事情にお詳しい昂輝さんなら貴重な意見を聞けると思い、上手くいった事の報告も兼ねて電話した次第である。

「いやーマジであの遥さんよ? あんな天使が俺と付き合ってくれるなんて世の中捨てたもんじゃないよな」

『慢心してる場合じゃないんじゃない?』

 急に諌めるような、真面目なトーンで返される。

「あん?」

『石原さんって国立理系目指してる筈だけど。孝宏、三年生になったらうちの高校ってどうなるか知ってるよね?』

「……進路ごとに選抜クラスが組まれる」

『Exactly《そのとおり》』

「い、いやでももう付き合えてるし」

『あのさぁ、孝宏。ただでさえ初彼女なんて上手くいくもんじゃないんだよ? 孝宏って石原さんの事その程度にしか思ってないわけ?』

「はー? 結婚する勢いだわマジで! 俺の全てをかけて幸せにする覚悟だわオラ!」

『いや重過ぎるから……いや、ヤンキーって出来た彼女の事そういう風によく言うか』

「聞こえてんぞ。偏見ですよ。後もうヤンキーではない」

『そうだったね』

 電話越しで柔らかく笑う昂輝、こいつ絶対テスト勉強の息抜きに俺で遊んでやがるな。

「で、やっぱり同じクラスにならんとまずいかな?」

『二年秋で今の生徒会も終わるし、完全に接点無くして、孝宏はアルバイトに没頭、石原さんは国公立を目指して、同じクラスの仲間達と勉強に没頭。学力に格差が出来てしまい当然行く大学は別になり……』

「分かった分かった! ようは俺も死ぬ気で勉強して同じクラスになるしかないってこったろ!?」

『Exactly』

「気に入ってんじゃねぇ」

『ハハッ、バレた?』

 こんにゃろう、真面目に聞いてもこれである。しかし、実際問題その辺の進路の問題って俺特にやりたい事ないし、好きな子に合わせてそういうの決めるのは流石に一人間としてどうなのかとか思っちゃうんだよな。これ言うと遥さんへの想いはその程度なのかとかまた言われそうだから黙っとくけど。

 それに……。

『でも孝宏どっちかっていうと文系なんだよねぇ』

「そこなんですよねハイ」

 正直理科系科目よりかは、丸暗記すりゃ何とかなる文系科目の方が遥かに楽な感じる。遥に楽に感じる? 遥……遥ぁああああ!!!!

『もしもーし、聞こえてる?』

「あ、すまん、聞こえてなかった。何?」

『絶対変なこと考えてたよね……』

「変な事じゃないぞ。遥さんの事だ」

『ごめん変なのは孝宏の思考回路だ』

「好きな人の事って、ずっと考えちゃうよな」

『ハイハイ、まぁさっき言ったの纏めると、取り敢えず、二年の成績で三年の行けるクラスも変わるんだから、どうするかはともかく、どうでも出来るように今回のテスト勉強も頑張りなよってこと』

 昂輝の意見は真っ当で、それは俺が悩んでいる問題も、選択肢を持った上で、決断すれば、自分に納得を持たせることが出来る気がした。

「……そうだなぁ。夢のキャンパスライFOOOOO! 目指して頑張るか」

『うわーこの人うるさっ、そうだ。取り敢えず今回つきっきりで教えたんだから、一つでも赤点取ったら、マジでもう教えないからね』

「オイ、今から死ぬ気で勉強するから電話切るわ」

『あはは、冗談。今回の孝宏なら大丈夫だって。けど、俺も勉強したいし切るけどね……でも、孝宏。石原さんと付き合えておめでとう』

 ……さっきは軽かったくせに、終わり際はちゃんと祝福に熱を持たせる爽やか策士、ほんと油断ならん奴だぜ。

「ありがとよ。じゃ、頑張るからまた学校でな」

『うん、それじゃあ』

 電話を切り、うっしゃ! と気合を入れてから、目の前の問題集達に向かって俺はメンチを切る。

「テメェら全部解いてやるからな。覚悟しとけや」

 ふっ、決まったと思っていたら、パル○を食べてる愛衣ちゃんが、残念そうな物を見る目で此方を見ている。

「兄い、そういうの卒業してね」

「……うん」

 こう謎テンションは誰かに見られる事によって、一瞬で冷静になれるんだなぁと、勉強になりました。マヂむり……勉強しよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る