第49話 雨、時々天使
生憎の雨模様。だが、俺の心ピーカン照り。その日の朝は完全にガンギマっていた。勉強で詰め込んだ知識を一つでも取りこぼさぬように、六時間睡眠をキッチリ行おうとしたが、日を跨ぎ、あと十時間後に
『
二段ベッドの上から、蔑みを込めた言葉が飛んできた。
『ごめん、
『九九とかにしてよ……般若心経聴きながら寝るとか怖すぎるから』
『了解、インイチガイチ、インニガニ』
『ごめんやっぱり黙って』
『え、九九ならいいって』
『いいとは言ってない。早く寝て』
うちの妹ももう中三だし、思春期なのだろうか。寝る前に般若心経を聞いて眠る事を嫌がるなんて、変わってるなぁ。
そんなやり取りから必死に寝ようとしたのだが、興奮で殆ど寝れず、今九時半。地下鉄に揺られながら、何度窓を見ても俺の目は充血している。
愛衣ちゃんに目が怖いからと目薬を数滴指してもらったが、あまり治らない。だが興奮で実際のところ身体的には全く辛くないという。
これから遥さんに会うんだよな、俺。
大丈夫かな! 一応愛衣ちゃんに見繕ってもらって、スカジャンとかは無しの、青と白のボーダーTシャツに紺の七分袖のシャツ羽織って、下は黒のカーキで来たけど……。
天使の隣に相応しい爽やかさ。それに似つかわぬ完全充血した瞳。写○眼かよ。
金山駅に着くと、待ち合わせ場所の二階のコーヒーショップへ行き、コーヒーとサンドイッチを頼み、席に着いて早々に目薬をさす。
馴染ませる為に、数度の瞬きをした時、ぼやけた視界からトテトテと早歩きでこちらの席にやってくる神々しいオーラが見える……天使か、天使なのんか!
「ごめん」
「え、いやいや、まだ十分前だぞ?」
「十五分前にはいようと思った……でも、服が」
「服?」
ぼやけた視界が完全に覚醒すると、俺はとんでもないものを見た。
オ、オ、オ、オフショルダー!? 物静かで控えめな遥さんが!? い、いがーい。て、てんしー。か、かれーん。
てゆうかおいおい。見れば息を乱して走ってきたからなのか、その服はどう見ても濡れてしまっている。
「濡れちまってるじゃんか! ほらこれ。ハンカチしかないけど」
「……ありがとう」
嬉しそうな笑顔を見せる遥さん。
持っててよかったハンカチーフ。ありがとう、ロバー○デニーロ。
ハンカチで濡れた肢体を拭く姿がどこか艶めかしい。
目のやり場を肌より服へと移行。
鎖骨、肩丸出しの黄色のオフショルダーに、薄い青のジーパン。確かに似合っているというか可憐というか天使だ。
「あ、朝飯食べてないからよ。このサンドイッチ食わせてくれ」
「え」
「え」
な、何だその落胆の顔ぉおおお!?
俺なんかやらかしたのか!?
「ごめん、大丈夫。食べて」
「お、おぅ」
なんか悲しそうに笑って言われたァ!! ぜんっぜん大丈夫じゃなさそうー!!
あれかな。勉強時間減らしてんじゃねぇよって事かな。そいつぁいけねー! 急いでサンドイッチをかきこまなければ!!
……んぐぅ!! 喉に詰まったぁ!!
コーヒーを!! あっちぃ!!! 舌火傷したァ!!
「大丈夫?」
心配そうに近づいてきた遥さんに、俺は手のひらをビシッと見せて制止する。
「だいどぉぶだいぞぉぶ(大丈夫大丈夫)。これであさふぇしかんるぉ(朝飯完了)!」
「そう」
こんなコーヒーとサンドイッチごときでカッコ悪い姿を見せてちゃ敵わんぜ。今日は爽やかに立ち振る舞うのだ!!
あ、そうだ昂輝といえば……。
「そういやぁ、今日どこ行くんだ? ここでは勉強しないだろ?」
ここのコーヒーショップは待ち合わせには最適だと思うが、駅の上という事もあって店の客の回転率や、駅の雑踏による声が姦しいというか、端的に言うとうるさい。
あまり勉強向きの場所ではないと思う。
「……場所は」
遥さんの続きの言葉が待たれる。
例の昂輝の出した二択の一つ目はまちづくりライブラリーという、金山駅の勉学マン
そして二つ目は……なんと、遥さんは金山駅の近くに家を構えているらしいのだ!!
昂輝が何で遥さんの自宅を知ってるかはこの際置いておいて、いや、結局置けなかったので、質問責めして、女の子から聞いたらしいのでアイアンクローを食らわせておいたが、とりあえず、この二択でどちらが脈アリかなんてのは言わずもがな。
つ、つ、つま、つまり、俺はお家にお呼ばれしてお家デー……ちが、お家勉強か……。
「まちづくりライブラリーってところ」
「ハハーッ、ですよねー! あそこいいよねー!!」
どうやら脈ナシのようです。昂輝さん、アイアンクローの刑ですわ。(八つ当たり)
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