第48話 福山くんは名探偵。

 火曜日から金曜日の現在まで、俺は全ての学科への研鑽けんさんを惜しむことは無かった。

 昂輝こうきに頭にネイルハンマーでも喰らったの? と心配される始末。

「ここの自由落下運動の公式ってどれ使うんだ?」

「この辺の公式は数字が出てないものに焦点を当てるんだよ」

「いやだってこの問題文全然数字出てきて無いじゃん!」

「重力加速度は9.8って、問題文より前に記述あるでしょ」

「見逃してた」

「というかそんなのテストやる前から常識として覚えときなよ……」

 昂輝さんの猿でも分かる勉強の教え方についていくのは、やはり一年時それなりにサボっていた俺には厳しいようです。テスト前なのにこの物理への理解力の無さは異常とか言われる始末。

 物理は得意なんだけどなぁ!! 物理は物理でも物理攻撃だけどな!!

 昂輝に俺の物理(攻撃)を教えてあげようかな☆なんて、冗談交じりに思っていたら、昂輝は俺の答案用紙を見ながら口にする。

「でも、本当どうしちゃったのさ。英語と物理だけは赤点回避レベルで頼むってくらい嫌いだったのに」

「あー……まぁ、色々あんだよ」

「色々ね、会長か、石原いしはらさん絡みかな」

「…………」

「分かりやすいなー」

 クソォ!! 喋ってもバレるし、黙ってても悟られるし、どうしろってんだ!!

柴咲しばさきには絶対言うなよ?」

「って事は石原さんかな」

「えぇー……」

 昂輝さん最早怖いんですけど……俺の短い問題文から答え導き出すんですけど……これが学年一位か。いや、勉強関係ないだろこれ。

「会長関連なら柴咲にバレても、ダメージにならないだろうなと思っただけだからね? だから、その化け物を見るような目やめようね?」

「その読みはなんだ? 趣味レベルの将棋で身につくのか?」

 尋ねると、はぁーとため息をつかれてしまった。

「将棋関係ないし、でもどうゆう事なの? 内緒にするから教えてよ」

 ……まぁ、昂輝ならその辺アドバイスくれるだろうし、自ら噂撒いたりはしない奴だからな。

 俺は指をちょいちょいとこちらに来るようにジェスチャーして、昂輝は耳を近づけてくる。

「……土曜日に遥さんと勉強すんだよ」

「ヒュー、やるじゃん」

「えー、すげー軽いのな」

 俺的には今世紀最大の突然神イベントってくらいに思っていたんですけれども……。誰かに聞こえないようにする為、立ち上がって教室の後ろ窓際まで歩くと、昂輝もそれに付き合い、うーんと枕詞をつけてから口を開く。

「でも、俺一緒に勉強しよって女の子に頼んで断られた事ないけど」

「多分俺がそれ言っても、なんの勉強ですか? って怯えた表情で言われちゃうぞ」

「あぁ!」

「いやそんなに納得顔しなくてもいいじゃない。泣いちゃうぞ俺」

 それあるーって顔するんじゃないよ本当。

「でも今回俺誘われたんだよ。勉強しませんかって。これってさ、脈ありかな?」

 月曜からのテンションを抑えられず、ウッキウキで聞くが、昂輝の顔は何故か渋い。

「うーんそれは早計じゃない? 孝宏たかひろが勉強出来ないって聞いて、今度は自分が助けてあげたくなったとか」

「優しい……なんて女神なんだ遥さん」

「他にも生徒会に入ったから色々孝宏に聞いてみたいとかあるんじゃない?」

「真面目だ……なんて上昇志向なんだ遥さん」

 神が生んだ奇跡に感動が止まらねぇぜ。と思っていたのだが、俺の感動に辛辣な評価が下される。

「孝宏って……チョロいよね」

「それ陣内じんないにも言われたけどよ。普通惚れた女相手には多少なりとも熱を上げんだろ」

 言い返すと、昂輝は何故か一瞬黒目を大きくしてから、短く笑った。

「そうだね」

 ……なんだ今の。全然思ってなさそうな顔されたような。

 しかも、多分こいつ無意識だったぞ。

 突っ込みをいれようかと迷う間に、昂輝に先越される。

「でも、その熱を勉強に向けられるんだから、やっぱり孝宏って凄いよね」

「そ、そうかぁ? これぞ愛の力ってやつだぜ」

「凄い凄い」

 昂輝の奴め! 褒め上手なんだから!! あれ、何か言おうとしてた気がするんだけど……まぁいっか。

「とにかく、その愛の力では今のところ等加速度直線運動にはてなマーク点灯中だからよ。ご指導ご鞭撻のほど、僕によろしくお頼み申す」

「あはは、お頼み申すって何……了解」

 昂輝は楽しそうに笑ってから、あ、と気づいたように尋ねてくる。

「そういや、勉強どこでやるの? 場所で石原さん脈あるかどうか読めるし」

 お、なるほどなるほど。ではその洞察力を活かしてもらおうではないか。

「集まるのは金山駅だったぞ。金山に勉強出来るところなんてあったっけか」

 俺が首をひねると、昂輝は何故か驚きを隠せないようだった。

「……マジ?」

「おぅ、何? 分かんのか?」

「……孝宏。二択だよ。可能性は多分二択。その二択のどっちかによって、脈ありか脈なさげか分かるよこれ」

「なん……だと」

 ……昂輝の確信顔は今まで見てきたどの顔より確信を持っていた。

 昂輝の教えてくれた二箇所のうちの一つを聞いた時、俺の目がまろび出そうになった事は言うまでもない。

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