第47話 妻夫木……お前消えるのか?

 自治会への要望もすんなり通り、四人で駅まで歩く俺たち生徒会。

 まだ危険が取り除かれたわけじゃ無いけど、取り敢えずこれでひと安心といったところか。

孝宏たかひろくん」

「おっふぉ! どうした?」

 全然慣れないぃ……好きな女の子に話しかけられるの全然慣れないぃ……。

「さっきの人、知り合い?」

「さっきの人って……あぁ、ヒロと黒木さんの事?」

 コクリと頷く可憐なはるかさん、はぁ、今日も幸せ。

「えっと、ヒロ……さかい浩史ひろしで、俺はヒロって呼んでんだけど、昔はよく一緒につるんでたんだ。高二こうにになってからは、あんま会ってなかったけどな」

 遥さんに伝えると、横から新垣あらがきが割り込んできた。

「ようは元ヤン仲間って事ですね」

「雑に言い直すよなぁお前。まぁ合ってるんだけどよ」

 半笑いで言われると青筋ピッキーン! なってもおかしくないまである。

「でも、結構有名だったよ。殴り屋と蹴帝の噂。何でも二人で五十人返り討ちにしたとか」

 俺のイライラを見かねたのか、陣内がフォローを入れてくれたのだが……。

「盛られてる盛られてる。多くても四十人ぐらいだったし」

「そこまで盛られてないじゃないですか」

 冷ややかーな目で睨んでくる新垣。こっちも無事じゃなかったけどね。翌日汁物食べたらお口が痛すぎてカーニバルしたし、ところどころ腫れが引かなくて俺は寝返り打つたびヒィヒィ言ってた。

「それで、お隣にいたのが天蘭高校の会長さんなんですよね?」

 新垣が陣内に尋ねる。すると陣内は軽く頷き、黒木さんの説明を始めた。

黒木くろき朋子ともこ会長。私と同じ一年で生徒会長になってる凄い人だよ」

「それ、遠回しに自分もって自慢してねぇか?」

「いやいや、天下の天蘭高校と、ちょっと優秀なくらいの公立高校のうちで比べちゃダメでしょ。あの人は怪物だよ」

 全くもって頷く他ない。黒木さんは全国模試一位、陸上で棒高跳び中学全国一位、しかも特別な英才教育を施されているとかではなく、普通の一般家庭から一般の勉強、一般の部活を行ってきただけらしい。そりゃ、化け物と思われても仕方ない。

 後はヒロがところどころ髪をかきあげる仕草が超絶可愛いとか、唇を触る癖が治らないの死ぬほど可愛いとか三十回くらい聞かされてきてるが、その情報は今いらなそう。

「二人にはそう見えなかったかもしれないけどね。まさかあんなに公衆の面前でイチャイチャする人だとは思わなかったし」

 陣内が意外そうに言ってるのを見て他二人がほうほうと頷いている。

 逆に俺としては最初っからヒロの事大好きな彼女という認識から入ってるからな……。

 紹介された時は何だこの黒髪長髪清楚系正統派美女は。と思ったけど。同い年とは思わんかったし。

「ヒロの彼女には勿体ねぇと思うんだけどな」

 ボソッと思わず言ってしまった言葉だったが、陣内が超速反応しやがった。

「うわー、妻夫木つまぶきひがんでるの? 柴咲しばさきいたらボロクソに言われてるよ?」

 既に物凄い馬鹿にした顔をされているわけだが。

「う、うるせーな。別に客観的な事実述べただけだろうが!」

「はいはい、悔しかったら妻夫木も彼女作りましょーね」

「お前だって彼氏の一人も作れないくせによく言うぜ」

「私は作ろうと思える人が世の中にあんまりいないからさ」

「そりゃ、お前をワクワクさせてくれる面白い奴なんてそうそういないわな」

「そうだね」

 ニッと笑う陣内。こいつも誰かと恋愛したりすんのかなとか思うと、それだけでちょっと面白いけど。多分口に出したら悪魔から失礼ですとタコ殴りにされそうなのでやめとこう。

「それよりテストですね。どうします!?」

 新垣が何故か慌てた顔でそんな事を切り出す。うわー、嫌な話題出してきやがる。

「どうするって、普通に一人で勉強する予定だけど」

 陣内がキョトンとした顔で言うと、新垣がうんうん頷いてから、次にこちらを見る。

「俺は学校で昂輝こうきに教わりつつ、帰ったら一人でやるぞ」

 言った俺は次に遥さんの方を見る。すると、遥さんは「一人で」と全くもって無駄のカケラも無い完璧な答えを出した。

「そうですかそうですか。では、明日から一緒に図書館で勉強なんてどうです?」

「断る」

「断られた!?」

 俺の即応に新垣が面食らった。

「いや、勉強なんて大人数でやれるもんじゃ無いってのが自論なんだ。お前らはともかく、俺みたいな学力パンピーはマンツーマンか一人でってのがベストなんだよ」

「ぐぬぬ」

 リアルにぐぬぬという生き物を初めて見ました……。新垣が悔しそうにしているのを見て、陣内はなだめるように笑う。

「副会長に教えてもらえばよっぽど問題ないでしょ。うちの高校に入る程度の地頭じあたまは、なんとか妻夫木にもあるからね」

「程度の? なんとか?」

 ところどころおかしいところがあった気がするが、スタスタと駅まで行ってしまう陣内。気づけばあと少しで地下鉄の駅というところまで来ていた。

「妻夫木はバスだっけ?」

「おう、ここから離れるけど家まで一本道だからな」

「そっか、送ってくれてありがとね」

「ありがとう、妻夫木くん」

「おう」

 改札口までの階段を登っていく新垣と陣内の二人。

 遥さんはとそちらに目をやると、何故か階段を登っていない。あれ、確か遥さんも地下鉄のはずだけど。

 不思議に思い視線を寄せると、遥さんは下にあった視線を俺へと通わせ、その短めの髪が勢いで揺れた。

「孝宏くん」

「おぉ、どうした?」

「今週土曜日、一緒に、勉強……どうですか?」

 ……神様、僕はもしかしてもうすぐ死ぬのでしょうか?

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