第44話 柴咲さん、嘘でしょ?

 二人生徒会室に戻ると、陣内じんないが事務処理を黙々と行なっている。

「柴咲をテスト勉強教えるのに貸してくれだとよ。因みに匿名とくめい

「自分で頑張りましょうって、返信書にそれらしく書いといて」

「イェスマム」

「え、え、それでいいんですか?」

 俺と陣内のやり取りを見ながら、新垣あらがきがやや心配そうに発する。

「いいんだよ。生徒会は奴隷じゃない。個人に一々こういった悩みや願いを、匿名でぶつけてくるやつは大抵面白がってふざけて書いてるか、そいつ個人に何かあるかのどっちかだ」

「さっきは解決簡単だな! とか言ってたから、本当に会計さんにやらせるのかと」

 安堵顔の新垣、確かにこういった悩みに答えていたら近いうちに新垣と○○したいなんてのは結構来そうではある。

「まー俺はそれでもいいけど」

妻夫木つまぶきー?」

「あ、ハイ、冗談です」

 低い声音で陣内から釘を刺された。そもそも生徒会を大事にしている陣内が許すわけがないというわけで。

「だから、まぁ、お前にこういうのが来ても、理由つけて返せばいいだけだから。気にすんな」

「……ありがと」

 しまった。モジモジとそんな嬉しそうな顔されても困る。陣内と違って何も考えなくても好感度稼ぎみたくなってるのダメ絶対。

「あーそっか、新垣さんが入ったら増えるよね。そういうの」

「一回注意喚起しといた方がいいかもな」

「了解。テスト終わった翌週に、生徒会活動報告があるからそこで当たり障りなく言おう」

 陣内はノートPCを起動させて、タイピングし始めた。活動報告の原稿に付け加えているのだろう。

「当たり障りなくとか、それらしくとか、結構配慮してるんですね」

 陣内の隣まで来た新垣が、報告書を横目で見ながら口にする。

「まぁ、全く受け付けませんってやってもいいんだけど、抑圧すると、エスカレートする人達っているからさ。それよりも、こういうお願いは聞くと際限がないのでやめてくださいねってお願いで返す方が後腐れないんだよね」

「なるほど、確かにそうですよね」

 新垣の胃の腑に落ちたような顔。人との処世術を偏った形で極めてそうなこいつにとっちゃ、よく分かる話なのだろう。

「でも、よっぽど大丈夫だよ。今は妻夫木いるからビビってふざける人達明らかに減ったもん」

「俺は番犬かよ」

「番犬ではなく、忠犬ブキ公の間違いでは?」

「新垣さん? そのあだ名広めたりするんじゃないですの事よ? 俺の積み上げてきた威厳ゼロになるから」

「ふふっ」

 いや、ふふっじゃなくて。牙を抜かれた犬を見る目じゃなくて。もう嫌だこの嬢王、誰か助けて……。

「遅くなりました」

 助けを求めた刹那、ガラガラと扉を開けてきたのは、まさに神の思し召しだった。

 HA! RU! KA! ハルカー! 勝手に心の応援団が一念発起し始める。でもあれ? 来てくれるのは嬉しいが……。

「早くないか? 後輩ちゃん大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫」

 凄いな一時間足らずでしっかり指導してきちゃう遥さんマジ神の子。

「お、じゃあ石原さんも来たし、丁度不審者の件で、自治会のところ行く準備しようと思ってたけど、二人とも来る?」

「行きます」

「行く」

 陣内の問いに二人とも即答。判断早すぎないかな。君達二人で帰ってもいいっていうのに。

 あ、でも、気まずいか。方や俺が惚れてる相手、方や俺に惚れてる悪魔。遥さんは知らないからともかく、新垣は俺が遥さん好きなの知ってるはずだし、そんな二人で下校するのはなんか聞くだけで嫌だな。悪魔に滅ぼされる天使の図式が見える。

「じゃあ四人か。そういやぁ、柴咲と昂輝こうきは来なかったな」

「副会長はガチ勉強マンだからね。今回も一位取りに行ってるだろうし、柴咲も勉強はちゃんとやるタイプだし」

「え、昂輝はともかく、柴咲って勉強出来んのか!?」

「何言ってんの。一年で普通科なのに特進クラスより成績のいい才女だよ。柴咲」

「うっそぉーん」

 あんのクソビッチ頭いいのかよ。意外すぎる……あれ? って事は。

「もしかしてこの生徒会で一番成績ヤバイの俺?」

「そこは疑う余地無いだろ」

「無いでしょう」

「…………」

 鬼二人の言葉はともかく、遥さんに困った顔で目を逸らされてしまったのダメージでけぇ……。

 よし……ちゃんと今回のテスト休み期間は勉強するぞと心に誓う俺であった。

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