第43話 生徒会長は好感度稼ぎに余念がない。

 陣内じんないの好みの雄を聞いたところで、ガラッと生徒会室の扉が開いた。

 はるかさんか!? と全力で振り向いたが。

「お疲れ様です。陣内さん、妻夫木つまぶきくん」

「はい、お疲れ様」

「とぅす」

 なんだ新垣あらがきかよ。そうだよな。遥さんは後輩の自主練に付き合うってんだから、こんなすぐ終わるわけねー。

「何の話をしていたんですか?」

 いつもの作った笑顔で尋ねかけてくる新垣に、陣内は何でもなさそうに答える。

「ん? あー、妻夫木の恋愛はうまくいかないねって話」

「詳しく聞かせて」

「いや、聞くなっての」

 新垣さん、素が出ています。

 てゆうかこいつ何で来たんだ? という目を向けると、何かボソボソと言っている。

「もしかして……でも実際こうして二人で」

「新垣?」

「何よ」

「え、怖っ」

 マジビビる。そういうとこやぞ、悪魔大元帥。俺話しかけただけなのに、何でその命置いてけみたいな顔されなきゃいけねーんだよ。それに。

「地が出てんぞ。陣内の前なんですけど」

「何を言ってるのかしらー。妻夫木くんはよく分からない事を言いますねー」

「よく分からないのはお淑やかな表情ですねを蹴り続けてくるお前だ」

 地味にかなり痛い。新垣さん何でこんな笑顔で鬼の所業できるの超絶怖い。

「私の前だと何?」

 このやり取りを見て、陣内が興味深そうに聞いてくる。

「いや、ほら、こいつ凄い猫かぶるじゃん? ライオンのくせに子猫の被り物してパッツンパッツンじゃん?」

「ちょっと何言ってるか分かんないね」

 陣内さん、本当にこいつズレてるなぁって顔するのよくないと思うな。だって妻夫木くんがこんなに傷ついてるわけだからさ。

 ダメージを独りごちていると、新垣はニコーッと笑って口を開く。

「みんなの前では猫被ってるのに、自分にだけは本当のありのままを見せてくれる女の子って、魅力的じゃありません?」

「お、おぉ、自分で笑顔でそれ言っちゃうのどうなん?」

「だーっはっは! いいねいいね。新垣さん、私の前でも無理する必要ないと思うよ。お嬢様の仮面かぶり続けるのって、疲れない?」

 陣内の何気ないトーンに、新垣は僅かに瞳を揺らがせ、ニコッと笑う。

「善処しますね」

「あらら」

 ……確かに言われてみれば、新垣は何か陣内に壁みたいなのを張ってるかもしれないな。

 生徒会のメンバーになるんなら、その辺はどうにかならないかと思うんだが。

 比較的陣内ってどういう人間でも受け入れる度量の大きさみたいなの持ってるし。

 本人が隠す気でいるなら俺からはもう何も言うつもりはないが……。

 当の本人は、やはり、いつものように凛然とした佇まいのまま陣内に話しかける。

「それはそうと、今日はノートPCを返してもらうのと、生徒会のお仕事を教えてもらおうとして来たのですが」

「そっか、妻夫木、じゃあ手取り足取り教えてあげて」

「え、全投げ? お前が教えるんじゃねぇのかよ」

「私より妻夫木に教わりたいんじゃないかなと」

「いやいや、公私混同こうしこんどうは」

「陣内さん、素晴らしい提案だと思います。流石ですね」

「オイ」

 陣内が新垣にめっちゃウインクしてる。こいつ好感度を取りに行きやがった。しかし、実際のところ会計監査の仕事なら会計に教わる方が効率的。

 好感度と効率を同時に取りに行けるうちのボス流石。でも絶対後でばち当たってくれ。

 いそいそと立ちあがって、自分の机の中から新垣のノートPCを取り出す。

「ほら、これ、お前のノパソ。ありがとな」

「どういたしまして。お役に立てたようで」

「そうだな。これでお役御免だけどな」

「笑いながら言い方にとげがあるの悪い癖ですよ?」

「心配すんなわざとだから」

「……わざと嫌われようとしている相手の事って嫌いになれませんよね」

「いや、わざとも何も、嫌いな女に対して思った事を口にしてるだけだぞ俺は」

「落としがいがあります☆」

 ポジティブゥ〜。ダメだこの嬢王、昔の雑魚メンタル克服して今やダイヤモンド級の砕けぬ心を持っておられる。

 いや、ちょっと違うか。弱虫だった頃の自分押し殺して、周りに対して分厚い仮面付けて、欲しいもん全部手に入れてきたんだ。

 欲しい対象が俺になってもそれが変わらないだけって事。

 こいつは俺が好きなのではなくて、変わった自分であり続ける為に、欲しい俺を手に入れたい。

 きっとそれだけなのだと思う。

「妻夫木くん?」

「え、あぁ、仕事だったな。うーん、つってもテスト週間だから、突っ込んだやつはやりたくないから、部費の予算の割り振りとかは無理だしな……あ、目安箱の意見処理するか」

「目安箱?」

「ほら、生徒会室前の箱。あれに投書された内容を確認して週一で何らかの返事しねーといけねーの」

 引き出しから小さな鍵を一つ取り出してから外に出ようとすると、新垣も付いてきて隣に並ぶ。

「なるほど、入ってる要望とかに答えるとか?」

「そーそー。ま、応えられる要望なんてたかが知れてるし、今月はテスト前ってのもあってそんなに入ってなかったけど……お?」

 生徒会室前に置いてある机の上のプラスチックの白い箱。振ってみるとどうやら一枚入ってそう。

 持ってきた鍵で、後ろについたよくある南京錠を開け、中身の紙片を取り出たが、パッと新垣に取られてしまい、なんやこいつ……という目になってしまっていると思う。

 だが、俺の視線よりも、新垣は紙片の内容に気を取られているようだった。

「なんて書いてあんだ?」

 尋ねると、THE・ドン引きという顔でこちらを見てくる新垣。

「せ、生徒会ってこんな悩みも相談に乗らなきゃいけないの?」

「はぁ?」

 見せつけてくる紙片、その内容をマジマジと見る俺。

 なになに? テスト勉強を柴咲しばさき愛生あきさんに見てほしいです!!

「解決簡単だな! ハハッ!」

「思ってたけど、あんた、会計さんの事嫌いよね……」

 なぜバレたのか……隠してないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る